映画評「ワース 命の値段」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2021年アメリカ=イギリス=カナダ合作映画 監督サラ・コランジェロ
ネタバレあり
9・11の被害者家族の経済的救済をテーマにした実話もの。日本には3・11絡みで“最後は金目でしょ”と言って謝罪に追い込まれたお坊ちゃん大臣がいたが、この映画の、台詞がある人物にそこまでひどい人間は出て来ない。被害者側に寄り添ってい(そうに見せかけてい)る弁護士が、実体としては、かなりそれに近いと思うが。
9・11で亡くなった被害者(消防士を含む)からの航空会社への訴訟を恐れ、国家が腰を上げて、事前に救済法を立ち上げる。航空会社が立ち行かなくなったら飛び火してアメリカ経済そのものが破綻しかねないという懸念からである。
その特別管理人に任命されたのが、事件・事故の被害者補償額を算定してきた弁護士ケネス・ファインバーグ(マイケル・キートン)。しかし、収入その他で計算する彼の方法は、有能な被害者家族チャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)を筆頭に猛反発を喰らう。ウルフを説得しないことには、国のサイトより彼のサイトに頼る大勢の被害者家族が、救済法による申請にサインをしてくれない。国側は、被害者家族の80%が応諾しないと、救済法自体を反故にする方針である。
かかるジレンマに苦悩するファイバーグ氏は、一部の家族と会ううちにもっと家族と会って真摯に話を聞くことを決め、部下たちにもそれを求めるうち、次第に状況が改善していく。
というお話で、しかし、それだけでは目標には遠く及ばない。これを変えたのは何かと言えば、救済法反対の急先鋒ウルフのファインバーグへの人間的な信頼である。オペラの同好同志としての交流や随時繰り返してきた接触によりそれが生まれたのである。
本作の話の肝はそこにある。公式通りに補償額を決めるという方針から家族によって変えていくという方針への変更も勿論奏功するのだが、いずれにしても、金目ではない。交渉を持つのが人間同士である以上、相手への信頼が一番重要であるということをよく示している。
ここにこそ9・11被害者家族という特殊性を超えた普遍性がある。終盤の好転ぶりにはもっと説明が必要ではないかという意見もあるが、ファインバーグVSウルフの関係性をよく見つめていればその要求は出て来ないと思う。
ただ、近年調査報道ものを筆頭に社会派実話映画に馬力のある作品が多く、僕がここ暫く観て来たそれらの多くに比べると薄味すぎる気がする。その代わり品の良さというメリットが出ているが。
アメリカの民主主義には感心することが多い一方、憲法その他に問題がある。その為に他の民主主義国では起こり得ない、トランプが再び大統領につくという、一部米国国民とロシアとイスラエル以外は歓迎しかねる悪夢が現実化しそうである。トランプを支持する人の支持理由に好景気(アメリカはずっと景気が良いので、実は実質賃金の問題)があるが、トランプになるとアメリカのインフレはさらに進み、輸入コストのアップで日本のインフレも進むと言われている。ウクライナは敗戦し、イスラエルは喜ぶ。経済優先の為に環境は悪化する。環境だけでなく、為政者の劣化など、4年間に地球は元に戻れなくなる危険性がある。僕は爺だから最悪の日々を少しだけ過ごせば済むが、若い人はどうなることだろう。
2021年アメリカ=イギリス=カナダ合作映画 監督サラ・コランジェロ
ネタバレあり
9・11の被害者家族の経済的救済をテーマにした実話もの。日本には3・11絡みで“最後は金目でしょ”と言って謝罪に追い込まれたお坊ちゃん大臣がいたが、この映画の、台詞がある人物にそこまでひどい人間は出て来ない。被害者側に寄り添ってい(そうに見せかけてい)る弁護士が、実体としては、かなりそれに近いと思うが。
9・11で亡くなった被害者(消防士を含む)からの航空会社への訴訟を恐れ、国家が腰を上げて、事前に救済法を立ち上げる。航空会社が立ち行かなくなったら飛び火してアメリカ経済そのものが破綻しかねないという懸念からである。
その特別管理人に任命されたのが、事件・事故の被害者補償額を算定してきた弁護士ケネス・ファインバーグ(マイケル・キートン)。しかし、収入その他で計算する彼の方法は、有能な被害者家族チャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)を筆頭に猛反発を喰らう。ウルフを説得しないことには、国のサイトより彼のサイトに頼る大勢の被害者家族が、救済法による申請にサインをしてくれない。国側は、被害者家族の80%が応諾しないと、救済法自体を反故にする方針である。
かかるジレンマに苦悩するファイバーグ氏は、一部の家族と会ううちにもっと家族と会って真摯に話を聞くことを決め、部下たちにもそれを求めるうち、次第に状況が改善していく。
というお話で、しかし、それだけでは目標には遠く及ばない。これを変えたのは何かと言えば、救済法反対の急先鋒ウルフのファインバーグへの人間的な信頼である。オペラの同好同志としての交流や随時繰り返してきた接触によりそれが生まれたのである。
本作の話の肝はそこにある。公式通りに補償額を決めるという方針から家族によって変えていくという方針への変更も勿論奏功するのだが、いずれにしても、金目ではない。交渉を持つのが人間同士である以上、相手への信頼が一番重要であるということをよく示している。
ここにこそ9・11被害者家族という特殊性を超えた普遍性がある。終盤の好転ぶりにはもっと説明が必要ではないかという意見もあるが、ファインバーグVSウルフの関係性をよく見つめていればその要求は出て来ないと思う。
ただ、近年調査報道ものを筆頭に社会派実話映画に馬力のある作品が多く、僕がここ暫く観て来たそれらの多くに比べると薄味すぎる気がする。その代わり品の良さというメリットが出ているが。
アメリカの民主主義には感心することが多い一方、憲法その他に問題がある。その為に他の民主主義国では起こり得ない、トランプが再び大統領につくという、一部米国国民とロシアとイスラエル以外は歓迎しかねる悪夢が現実化しそうである。トランプを支持する人の支持理由に好景気(アメリカはずっと景気が良いので、実は実質賃金の問題)があるが、トランプになるとアメリカのインフレはさらに進み、輸入コストのアップで日本のインフレも進むと言われている。ウクライナは敗戦し、イスラエルは喜ぶ。経済優先の為に環境は悪化する。環境だけでなく、為政者の劣化など、4年間に地球は元に戻れなくなる危険性がある。僕は爺だから最悪の日々を少しだけ過ごせば済むが、若い人はどうなることだろう。
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