映画評「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021年版)
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2021年アメリカ=カナダ合作映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり
1961年のロバート・ワイズ監督=ジェローム・ロビンズ振付版が余りに素晴らしいので、リメイクする必要はないと思うが、古い映画への愛情が強いスティーヴン・スピルバーグとしては抑えがたい気持ちがあったのだろう。
敢えて比較しようとしなければ悪くない出来栄え。少なくともここ数年観たミュージカルの中では一番僕を満足させた。
「ロミオとジュリエット」の1950年代ニューヨーク版であるお話の構図は全く同じ。
マリア役が新人レイチェル・ゼグラー、その恋人トニーには本作の若手の中で唯一多少記憶のあるアンセル・エルゴート、マリアの兄ベルナルドにはデイヴィッド・アルヴァレス、その恋人のアニータ役はアリアナ・デボーズ、ジェット団の現リーダーのリフにマイク・フェイスト。という配役は、当時の若手しかし実績のあるスターを集めた1961年版に比べると舞台を見ているように地味。
歌えなくても踊れなくても、人種が設定と異なっていても、60年前の俳優が見せるオーラとは全然比較にならないのだ。60年前にアニータを演じたリタ・モレノが90歳で出演しているのが凄い。オリジナル作へのオマージュである。別の映画でも見かけたし、最近ご活躍のようであります。
音楽はレナード・バーンスタインのオリジナルそのままだが、このミュージカルの最大の魅力である群舞の均整の取れた美しさで61年版に見劣りする。
当時のミュージカルとしてはかなりシビアな扱いだった61年版に比して、ぐっとリアルに見せようとしているが、場所が汚らしすぎたりするなど少し殺伐としすぎている。民族対立や経済格差など現在を透かして見せる為にそこが強調された感があるのは少々厭らしい。ミュージカルはそこまで実際に迫る必要はない。
というわけで、画面は、61年版ほどカチッとした美しさはないものの、スピルバーグらしくしっかりしている。彼の優れたカット割りの才能を生かすには長回しは余り使わないほうが良いと思うが。
オマージュと言えばパクリも許されると、僕に近い人物が言ったが、違う。オマージュかどうかは他人が判断するものであって作者ではない。そもそも僕は、ほぼ全ての模倣を、映画でも音楽でも、学習やオマージュの結果と見ている為、大きな問題とすることは殆どない。パクリが問題となる条件は使われたものが無名であること、というのが僕の基本的な考え(多少の例外はあるかもしれない)だから、その定義下のパクリが起るのは文章くらいだ。特に学術的なものはこっそり使われることが多い。この僕の文章も何度か他人に使われるのを見たが、僕などの文章を使ってくれて有難うと思ったくらいだ。
2021年アメリカ=カナダ合作映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり
1961年のロバート・ワイズ監督=ジェローム・ロビンズ振付版が余りに素晴らしいので、リメイクする必要はないと思うが、古い映画への愛情が強いスティーヴン・スピルバーグとしては抑えがたい気持ちがあったのだろう。
敢えて比較しようとしなければ悪くない出来栄え。少なくともここ数年観たミュージカルの中では一番僕を満足させた。
「ロミオとジュリエット」の1950年代ニューヨーク版であるお話の構図は全く同じ。
マリア役が新人レイチェル・ゼグラー、その恋人トニーには本作の若手の中で唯一多少記憶のあるアンセル・エルゴート、マリアの兄ベルナルドにはデイヴィッド・アルヴァレス、その恋人のアニータ役はアリアナ・デボーズ、ジェット団の現リーダーのリフにマイク・フェイスト。という配役は、当時の若手しかし実績のあるスターを集めた1961年版に比べると舞台を見ているように地味。
歌えなくても踊れなくても、人種が設定と異なっていても、60年前の俳優が見せるオーラとは全然比較にならないのだ。60年前にアニータを演じたリタ・モレノが90歳で出演しているのが凄い。オリジナル作へのオマージュである。別の映画でも見かけたし、最近ご活躍のようであります。
音楽はレナード・バーンスタインのオリジナルそのままだが、このミュージカルの最大の魅力である群舞の均整の取れた美しさで61年版に見劣りする。
当時のミュージカルとしてはかなりシビアな扱いだった61年版に比して、ぐっとリアルに見せようとしているが、場所が汚らしすぎたりするなど少し殺伐としすぎている。民族対立や経済格差など現在を透かして見せる為にそこが強調された感があるのは少々厭らしい。ミュージカルはそこまで実際に迫る必要はない。
というわけで、画面は、61年版ほどカチッとした美しさはないものの、スピルバーグらしくしっかりしている。彼の優れたカット割りの才能を生かすには長回しは余り使わないほうが良いと思うが。
オマージュと言えばパクリも許されると、僕に近い人物が言ったが、違う。オマージュかどうかは他人が判断するものであって作者ではない。そもそも僕は、ほぼ全ての模倣を、映画でも音楽でも、学習やオマージュの結果と見ている為、大きな問題とすることは殆どない。パクリが問題となる条件は使われたものが無名であること、というのが僕の基本的な考え(多少の例外はあるかもしれない)だから、その定義下のパクリが起るのは文章くらいだ。特に学術的なものはこっそり使われることが多い。この僕の文章も何度か他人に使われるのを見たが、僕などの文章を使ってくれて有難うと思ったくらいだ。
この記事へのコメント
>シド・チャリシー
名前の発音に揺れのある女優ですが、日本ではこれがよく使われていますね。
本国ではシド・チャリースという人が多いみたいです。
ミュージカル映画は1960年代以降廃れましたし、映画以外で頑張るしなかなかったのでしょうね。最後までステージの人であることに努めたことに頭が下がります。
昔の、ときめくようなスターシステムでは、いまは製作できないのかと、さみしい思いもあります。
>昔の、ときめくようなスターシステムでは、いまは製作できないのか
そういう思いを、ベテラン映画ファンに抱かせますよね。
このリメイクの感想はそれに尽きる感じです。
>60年前の俳優が見せるオーラとは
全然比較にならないのだ。
全面的に御意!キャストに関して
リメイクは粒揃いとは到底思えず
粒がみな小粒にしか感じられず、
61年版は、チャキリス、ウッド、ベイマー
主役級は言うに及ばず、準主役のラス・
タンブリンやタッカー・スミスらも
大いに輝いていたもんです。
しかし、スピルバーグ監督の思い入れの
強さの故か、パワフルな演出で最後まで
観賞できたのは嬉しかった。
>キャストに関してリメイクは粒揃いとは到底思えず
この映画を観た時にまず感じたのは、これでしたね。
それ以外は後から考えました(笑)
>スピルバーグ監督の思い入れの強さの故か、
>パワフルな演出で最後まで観賞できたのは嬉しかった。
本当に比較しなければ、大した出来なのですよ。