映画評「LOVE LIFE」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・深田晃司
ネタバレあり

注目株深田晃司監督の新作である。一つの家族の焦点を集めるのはいつも通り。

市役所職員の永山絢斗と子連れ結婚をした生活支援ボランティア木村文乃が、誕生日を迎えた義父・田口トモロヲの為に関係者を巻き込んで懸命に準備を進めている。義母・神野三鈴を連れてやってきた義父は、しかし、婚約者だった市役所同僚・山崎絋菜から息子を奪った形の嫁を歓迎していないことを露骨に示す。義母はそれを諫める。
 関係者全員の努力が実ってぎすぎすした雰囲気がなくなった頃、彼女の6歳になる息子・嶋田鉄太ちゃんが水を張った風呂に落ちて溺死する。
 その葬式に彼女の前夫・砂田アトムが現れ、ややこしいことになる。彼は韓国で日本人の母親より生を受けた難聴者で、現在は日本に残ったままホームレスの生活を送っているらしく、生活保護申請に市役所を訪れた彼の通訳をしたことが縁で、両親が出て行った団地の一室を彼に貸すことになる。
 それを夫君が面白からず思っている最中、彼の許に韓国から “チチキトク” の電報が届き、結局前妻は近いこともあってプサンまでお供をする。驚いたことに父は危篤ではなく、前夫から結婚する息子を見たかったのだと告げられる。唖然とするも突然降り出した雨の中踊り続けるヒロイン。
 かくして日本に戻った彼女と彼との間に微妙な空気が流れるが、取り合えず二人は食事をするため空腹にしようと散歩をすることにする。

終わり方は Life goes on 型。ビターでもハッピーでもない、現実型である。

両親の団地と若夫婦の団地が合い向かいにあるという立地がまず面白い。互いによく見え、時にこれが話を動かす。
 若夫婦の現在の部屋が両親が以前住んでいたところという設定もお話にニュアンスを与える。これに関して登場人物の性格の面白さが現れたりする。特に、義母が鉄太ちゃんの遺骸を自分達の思い出がある部屋だからと言って置きたがらないのを父親が諫める、というところで素晴らしい劇的効果を発揮している。
 つまり、本作の大事な小道具であるオセロのように、二人の嫁に対する態度が逆転する。この映画の面白さは、この老夫婦に限らず、正にオセロのコマのように、登場人物の印象がころころ変わるところで、人間の多面性という観点においてなかなか興味深い。

画面の構図にも良いところが多いが、幕切れが目立つ。
 若夫婦が部屋から出ていく。カメラはぐるり(=周囲)を映しつつ部屋の外に出て静止、やがて画面右下に二人がフレームインして左上に向かって進んで見えなくなるまでずっと撮り続ける。痺れますな。
 その間に LOVE LIFE というタイトルが出、本作モチーフになったらしい矢野顕子の同名曲が流れる、という構成も秀逸である。
 それだけで良いと断言できるほど映画なる芸術は甘くないが、人間の曖昧さを見せたところがヒューマンに流れがちな大衆映画とは違うところと強く印象に残る。

”ころころ変わる”と言えば、大学時代にロシア語の訳にこの表現を使って褒められたことがある。当時講師だった先生が今は名誉教授だ。時は流れた。先生は、先年キエフをキーフと呼ぶように提唱したらしい。

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