映画評「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年ウクライナ=ポーランド合作映画 監督オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
ネタバレあり

恐らくロシアによるウクライナ侵攻への危機感が生んだ作品ではないかと思う。
 日本の映画サイトでは2021年、 IMDb などでは2022年が製作年となっているので、はっきりしないわけだが、いずれにしても2022年2月の侵攻によって本作の意義が極めて大きなものになったのは疑いようがない。

お話は1939年大戦前夜、ポーランドのスタニスワブフ(現ウクライナのイヴァーノ=フランキーウシク)のユダヤ人下宿から始まる。ここに音楽で生計を成すウクライナ人一家と、ポーランド人一家とが角を突き合わせる形になる。
 というのもウクライナにとってここがポーランドに奪われた場所であったからであるが、ウクライナ人一家はポーランド人一家と親しくなろうと努め、やがて結果を出す。
 やがてソ連が侵攻、ドイツ軍も絡む形で、ウクライナ一家を除く大人たちが逃避や処分される形でいなくなり、一家は娘ヤロスラヴァ(ポリナ・クロモヴァ)と同じ年頃のポーランド少女テレサ(クリスティーナ・ウシーツク)、次いでユダヤ人の娘ディナ(エフゲニア・ソロドヴニク)と赤ん坊の妹を娘のように引き取り、ここに疑似姉妹が誕生する。
 とりわけドイツ軍が優勢になると、ユダヤ人姉妹は仕掛け時計の裏に隠れるのが日常となり、これがサスペンスを生むのは「アンネの日記」に始まる定石と言うべし。

夜間の外出禁止の為にユダヤ妹が亡くなるという悲劇もあるし、ドイツ軍に夫君(アンドレイ・モストレンコ)を銃殺された後ドイツ軍が敗走した為、一家の母親ソフィア(ヤナ・カロリョーヴァ)が引き取ったドイツ人少年がソ連軍に殺されもし、ソフィア自身も夫がドイツ人の為に働いていた過去の為に逮捕され、シベリア流刑地に送られる。
 ウクライナがソ連に組み込まれると、今度はウクライナ人の方が差別され、歌の上手いヤロスラヴァは差別され、少年流刑地へ送られてしまう。

ロシアとウクライナの訳あり関係は大昔からのことでややこしいのだが、現代の憎悪関係はこの辺りから始まっているのではないかと思う。

ポーランドに占領され、そのポーランドがソ連とドイツ軍に相次いで侵攻された為に、元来ウクライナであった(ウクライナにとっての)北西部はこの三国に蹂躙された形だが、映画は国家や民族が対立するのに対して、子供たちは民族を超えて仲が良い様子を見せ続けるわけで、ここにメッセージがある。争うのは大人だけ、これである。つまり、この映画は一般に言われる性善説派ということになる。

プーチンはウクライナは歴史的にロシアの一部と思っているようだが、ウラル山脈より西のあの辺りに最初に成立した大国は、キエフ大公国(ルーシを名乗る。ルーシがロシアの語源)である。タタール(モンゴル)のくびきの後モスクワ公国が勢力を持ってルーシの名を引き継いだことを考えると、キエフがノルマン人系列の国だったとは言え、ウクライナがロシアより優先権を持つと思われる。かくして、ちょっと大袈裟に、僕はロシアはウクライナの一部と言ったりしている(笑)

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