映画評「アラビアンナイト 三千年の願い」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年オーストラリア=アメリカ合作映画 監督ジョージ・ミラー
ネタバレあり

「マッドマックス」シリーズの合間に、豚が活躍する「ベイブ」二作などジョージ・ミラーは時々大変化球を投げて来る。「アラビアン・ナイト」を借用した本作も正にそれ。

物語論の研究者ティルダ・スウィントンが出張先のトルコで買い求めた小瓶を洗っていると、「アラジンと魔法のランプ」でお馴染みの魔神ジン(イドリス・エルバ)が現れ、3つの願い事をしてくれないと自分が困ることになる、と言う。
 欲望を持たない彼女が困っているうちに、TVを見てすぐに英語を解するようになったジンは「アラビアン・ナイト」のシェヘラザードよろしく自ら3000年前からの経験を語る。
 ここから、聖書でお馴染みのソロモンとシバの女王(アーミト・ラグム)、アラブ社会の女奴隷(エチェ・ユクセル)の恋物語/アラブ王国の継承に関する奇譚、女流天才学者(ブルク・ゴルゲダール)に味わさせられたジンの悲劇が語られる。

つまり入れ子構造のオムニバス映画とも言える内容で、その最後とも言うべきがヒロインに芽生えたジンへの恋心を描く外枠の物語。

子供向けではないこのファンタジーの隠しテーマ(実は本当の狙い)は、多様性の寓意である。所謂ポリコレ症候群の映画と一線を画す感じはあるが、やはりこの現在に作られると、そうした映画に属すると見なされても仕方がない。

後味はさすがに大人の味だが、ハッピーな恋愛ファンタジーを期待すると間違いなく裏切られる。

「アラジンの魔法のランプ」は本来「アラビアン・ナイト」には出て来ないし、ソロモンとシバの女王は旧約聖書の物語。そういう意味では色々なところから持ってきたお話。

この記事へのコメント

2024年03月30日 09:41
「アラジンの魔法のランプ」はもともとは中国のおはなしだったそうですね。日本だと、なぜかアラビアの昔話みたいになってるけど。
オカピー
2024年03月30日 20:38
nesskoさん、こんにちは。

>「アラジンの魔法のランプ」はもともとは中国のおはなしだったそうですね。

その辺が少々ややこしくて、中近東の人が考えた中国の物語という感じみたいですよ。「アラビアン・ナイト」ではないことだけは確か。