映画評「波紋」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・荻上直子
ネタバレあり

かもめ食堂」「めがね」はストーリーテリングの面白さが印象に残ると共に、アキ・カウリスマキに似たオフビートな画面感覚を楽しんだ。
 しかし、本作の絵はそうしたオフビート感とは真逆に近いくらいに変わり、様式に立脚したきちんとした厳しいものであるし、水を通奏低音にした映像言語の組み立ても鮮やかで、映画作家として一歩進化した感がある。

3・11直後の東京に始まり、世の中は放射能による水の汚染を恐れてペットボトルの水を買う人に溢れる。そうした一人であるスーパーマーケットのパートをする主婦・筒井真理子は、自宅の病床にある義父には水道水を与える。早く死んで貰いたいと思いが強いのだろうが、先の長くなさそうな買った水を与えるのが勿体ないというのもあるかもしれない。
 そんなある日会社員の夫・光石研が家出する、ガーデニングでくれていた水を出しっ放しにしたまま。数年後、その夫は大学を卒業した息子・磯村勇斗が九州の会社に就職した後の家に戻って来て、癌を患っていると妻に告げ、そのまま居すわる。その間(かん)義父の死まで面倒を見たヒロインは、すっかり新興宗教にはまり、その基本である聖水を買いため、庭は枯山水に作り変えている(水のない水という表現が印象的)。
 高額な治療費を出す代わりに宗教の勉強会に夫を連れて行くことを承諾させても重いものを抱えた感を拭えない彼女は、スーパーの清掃員・木野花に進められて彼女の行くプールへ行き、色々と話すうちに解放される気持ちを味わい、彼女が病院に入院した後彼女の亀の番いの面倒を見、地震の後遺症で片付けられなくなってごみ屋敷になっていたその部屋を再生する。

思うに、彼女は新興宗教より清掃員のほうが救いとなったようであり、夫の死後解放感から雨の降る中枯山水も何するものかと、昔練習していたフラメンコを踊り続ける。

女性VS男性の構図を中心に置き、そこに婚姻関係によって生じる義理の親子関係も混ぜた家族の映画。
 女性VS男性の構図はサウナで木野花が筒井真理子に語る言葉に象徴される一方、反復を上手く使って親子(祖父=父親=息子)の血の繋がりという形で家族を描く。
 この映画では徹底して女性が強く、雄カマキリを喰らうであろう雌カマキリに水攻撃するうちに光石研は倒れる。これも水をくれたまま逃げて行った場面との相似的反復。結局、古い価値観から脱却できない中年・熟年(スーパーの顧客=柄本明)男性はついぞ女性に勝てない。

両親に対して冷静な立場を貫く息子が九州から難聴のGF津田絵理奈を連れて来る。さすがのヒロインもこの若い女性(事実上の嫁)には歯が立たない。義父や夫に水道水を与えた彼女も嫁にはペットボトルの水を出す。男性VS女性という文脈の中では、同志という扱いなのかもしれない。通常の嫁姑とは違う感覚があって面白いではないか。

かくして、映画はヒロインにフラメンコを踊らせて、義父と夫を送り出して息子も九州に去ってしがらみを脱したこの女性を祝福する。実にあっぱれな幕切れと言うべし。この最後の長回しカメラも秀逸。

祝福と言えば、選抜高校野球大会で、わが群馬県勢が約70年ぶりに決勝に進出したのを祝福する。健大高崎は、40年余り前の春に我が母校(高崎高校)を破った星稜高校に勝って、謂わば仇を取ってくれた。彼らも前の部分を省略すれば同じ高崎高校。レギュラー・メンバーは一人を除いて県外出身で、甲子園に初出場した時から “県外高崎” と揶揄されることもあるが、 私立はどこの似たようなものだ。その代わり青柳監督が群馬出身。

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