映画評「四月の魚」

☆☆★(5点/10点満点中)
1986年日本映画 監督・大林宣彦
ネタバレあり

題名すら知らなかった大林宣彦監督作品。チャンスがあれば必ず観て来た大林宣彦だけに、こんな作品があるとは驚いた。YMOの人気沸騰で知名度が高くなって暫く経ち一旦解散状態になった後に、そのメンバーだった高橋幸宏が主演した作品だからである。

本編中にも名前が出て来るビリー・ワイルダーのシチュエーション・コメディーを彷彿とする、なりすましコメディー。最近はこの手の作品を余り観ていないので久しく言わなかったが、シチュエーション・コメディーは勘違いか嘘またはその両方によって成立つ。本作は後者である。

一作だけ話題になって今は干されているまだ若い映画監督・高橋幸宏が、CM撮影の時に歓待された南の島国の酋長(=国王)丹波哲郎の訪問を受けることになる。問題なのは艦隊のお返しとして自らの細君を夜伽に出せなければならない、ということ。
 そこで彼は、懇意の脚本家・泉谷しげるのアイデアを基に、たまたまロケに出たベテラン女優の妻・赤座美代子の代りに、女優の卵に妻を務めさせることに決める。そこで現れた女優・今日かの子を見てビックリする。料理お得意の彼が近くのスーパーで見かけちょっと好意を覚えていたレジ係だったのである。
 多少の訓練を積んだ後いよいよ丹波酋長を迎え、彼女はそつなくこなすが、家に電話をかけた赤座美代子が誤解して怒り心頭に発し、予定を切り上げて早々に秘書入江若葉を伴って帰宅、偽者との間に大喧嘩が勃発する。

ダニー・ケイが一人二役を演じた小傑作「夫は偽者」(1951年)と似た部分があり、原作若しくは原案のジェームズ三木はこの映画を見ていたかもしれませんな。
 しかし、この映画はかの作品ほど可笑しくない。今日かの子が偶然にも懸想するレジ係だったという辺りはこちらとの恋愛に発展するならともかく、シチュエーション・コメディーとしては無意味である。知り合いでなくてもこの展開であれば全く問題ない。寧ろ、レジ係⇒女優ではなく、女優⇒レジ係という具合に判明する順番を逆にしたほうが良かったようにさえ思う。

トイレ修理工・三宅裕司の出入りもシュールな感じは醸成できているが、シチュエーション・コメディーとしては上滑りし、個人的には空振り。
 丹波哲郎は、ある時期以降、真面目にやっていても可笑しく感じられてしまうので、敢えてコメディー演技をやらせたのは却って失敗だったのではないか。

ワイルダー作品におけるジャック・レモンに位置する高橋幸宏は、上出来とまでは言えないもののそれなりに頑張っている。

映画館で最後に立ち上がる客は恐らく大林監督で、アルフレッド・ヒッチコックを気取っている感じ。M・ナイト・シャマランのように出すぎないのが良い。

【四月の魚】なるフランス語は、【エイプリル・フール】の意味らしい。

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