映画評「カード・カウンター」

☆☆★(5点/10点満点中)
2021年アメリカ=イギリス=中国=スウェーデン合作映画 監督ポール・シュレイダー
ネタバレあり

題名は、カード賭博のブラックジャックで情報を記憶して勝負する人のことで、これをやるインテリ青年が主人公の「ラスベガスをぶっつぶせ」(2008年)を観たことがある。

本作の主人公は、捕虜に対する人権無視の拷問が露見して10年間臭い飯をくらった、オスカー・アイザック扮する青年。服役中に憶えたカード賭博の技術で生業を成している。大きく稼ぐと出禁などの処置を受けるので、小さく確実に稼いでいる状態である。
 そんな彼に興味を覚えて賭博ブローカー (?) の美人ティファニー・バディッシュが接近して来る。片や、それとは別の目的で若者タイ・シェリダンが接近して来る。彼の父親がノイローゼで自殺し、その原因が拷問トレーナーのウィレム・デフォーにあると知った彼は、デフォーがのほほんと生きているのを恨み、彼が原因で服役に至ったアイザックに彼を殺す計画を持ち込むのである。

この二つが並行して進むのだが、どうも僕にはこの映画の肝が一向に掴めず困っている。
 良い(但し少しそそっかしい傾向のある)脚本を書くが監督にまで食指を伸ばすとまずい作品になることが多いポール・シュレイダーの作品としてかなりまとまってはいるものの、狙いがよく解らないのでは困る。

犯罪に近いところにいながら倫理観を保っている主人公の人となりを描き、刑務所で始まり刑務所で終わる形で首尾を呼応させ、主人公の贖罪ぶりを表現しているのだろうが、この手のお話は特殊性から普遍性を導き出さないと観客の心に残らない。実際のところそれは余りうまく行っていないと思う。

シュレイダーは小津安二郎ファンのくせに、普遍から遠い映画ばかり作る。実に変な人物なのである。

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