映画評「ロスト・キング 500年越しの運命」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年イギリス映画 監督スティーヴン・フリアーズ
ネタバレあり

英国の一女性が、簒奪者として悪名高いリチャード三世の骨を発見(するのに大いに貢献)した実話を巧みな話者スティーヴン・フリアーズが映画化した。この話は、TVの教養バラエティーで知っていた。番組名は憶えていないのだが。

離婚をし、会社からも干されたシングル・マザーのフィリッパ・ラングリー(サリー・ホーキンズ)は、シェイクスピアの史劇「リチャード三世」を見て(恐らく宿痾をやずらっている自分と重ねるところもあって)、せむしで甥二人を殺して王権を簒奪したというこの劇と歴史の常識に疑問を覚える。リチャード三世は惨殺されて川に捨てられたというのは事実だろうか?
 ここに端を発してリチャード三世冤罪説を唱えるアマチュア研究会(リカーディアンと称する歴史愛好家のグループ)に所属して情報を交換し、歴史学者に当たるうちに、こっそり教会の外に埋められたのではないかという説を基に、その後余り有効に利用されていない土地がそこである可能性が高いというヒントを得る。
 何とか地元レスター大学の歴史学者リチャード・バックリー(マーク・アッディー)の協力を得、市役所の承認も得た彼女は、大学の資金、市役所の補助金、クラウドファンディングで資金を調達し、関係者はいよいよかつて教会のあったところに建てられた市役所福祉課の駐車場を掘り出す。

その結果は既に周知の如くで、発見された骨はリチャード三世のものと特定し、彼をせむし(脊椎側彎症)としたシェイクスピアはこの点においてはぼほ正しかった(ヒロインはこぶとしたシェイクスピアは間違っているとした)が、彼を葬ったテューダー朝による冤罪(甥二人を殺して王位を簒奪した人物)は一応晴れて(甥二人は庶子で、殺しても相続順位に変更なし、という未確定の説あり。それどころか今回のDNA調査の結果テューダー朝の各王には嫡出の疑惑が生じている)、 遂に正規のイングランド王(ヨーク朝≒プランタジネット朝)と認められることになった。

フィリッパはリチャード三世と恵まれない境遇の自分を重ねて、時々幻想の彼と会話をしているが、これはもう一人の自分と考えた方が近いであろう。
 その観点において、バックリー(後に教授)が最初は彼女を無視しようとしたのをひっくり返すのもレスター大学にほされた身の上をフィリッパに重ねたからで、 この度復活した【プロジェクトX】風に言えば、 “自らの復活をかけて王を掘り(dig 英語では探すの意味もある)続けた人々の物語である”。

リカーディアンには有名な女性推理作家ジョゼフィン・テイがい、歴史ミステリー「時の娘」でリチャード三世は甥二人を殺していない、とベッド探偵に結論付けさせている。この小説は世界的に名高いが、本国英国はともかく日本での高評価にはベッド探偵の嚆矢という貢献度が優先されているだろう。

簒奪と言えば、レスター大学はフィリッパの功績を奪いかけている。けしからんですな。

織田信長は立ち位置が比較的リチャード三世に近いだろうか。冷酷非情と言われた人物像が近年の研究で見直されている。決定的にリチャードと違うのは歴史において果たした役割の大きさが元々高く評価されていたことである。

この記事へのコメント

モカ
2024年05月03日 19:34
こんにちは。
映画の冒頭で「事実に基づいている 彼女の物語」となっていた通り、彼女の物語としていい感じにまとめられていましたね。
幻想の中にリチャード3世が登場するのもベタと言えばベタな表現かもしれませんが、彼女の心象に寄り添うことができて効果的でした。

イギリス人ってやっぱり未だに王様が好きでシェイクスピアが好きなんですね。
シェイクスピアにも功罪があったんだ…
昔の日本の一般大衆が歌舞伎や講談で歴史上の人物を知ったのと似ていますね。

私は50年近く前に塩野七海の「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」を読んで以来、織田信長とチェーザレ・ボルジアのイメージがだぶるんですよ。
信長にはお市の方、チェーザレにはルクレツィアという妹がいましたし、少し早すぎた祖国統一の志を持っていたとか共通点が多い様に思います。
オカピー
2024年05月03日 22:28
モカさん、こんにちは。

>昔の日本の一般大衆が歌舞伎や講談で歴史上の人物を知ったのと似ていますね。

仰る通り。
今でこそシェイクスピアや歌舞伎などは大衆からやや遠くなっていますが、元来は大衆演劇でしたね。
「恋におちたシェイクスピア」などで、その辺が伺えますね。

>織田信長とチェーザレ・ボルジアのイメージがだぶるんですよ。

マキアベリの「君主論」は読んでいますし、何となくわかりますよ^^