映画評「コロニアの子供たち」

☆☆★(5点/10点満点中)
2021年チリ=フランス=コロンビア=アルゼンチン=ドイツ合作映画 監督マティアス・ロハス・バレンシア
ネタバレあり

ナチス残党には南米に逃れた人が多く、有名なところでイスラエルのモサドに捕らえられたアドルフ・ハイヒマンがいる。「マラソンマン」(1976年)といった、架空の人物が登場するフィクションも多い。
 本作は、ナチスの残党ではないが、問題を起こしドイツを追われてチリに逃れた極めてナチス的な宗教家をめぐる実話を映画化したものである。

1961年チリにドイツ人の入植地(コロニー=コロニア)ができる。バイエルン風の潔癖をモットーとするカルトで、チリ人もスカウトされる。本作の主人公の少年パブロ(サルバドール・インスンサ)が正にそうした人物で、奨学生として勇んで入るものの、一般の子供たちは男女別に一日中働かされている。男女の交渉などが発覚したものは人前の辱めを受ける。

カルトの代表パウル・シェーファー(ハンス・ジシュラー)は、カルト集団にありがちな小児性愛者でもあったようで、本作でも解りにくい形でパブロが被害を受ける場面がある。
 また、政権の権力が及ばないほど治外法権的な力があった一方、政権に反旗を翻す政治犯に拷問を施していたらしいことも、一場面から伺える。

このコロニー=コロニア・ディグニダ=に関して、アニメ映画「オオカミの家」(2018年)、エマ・ワトスンが主演した「コロニア」(2015年)という映像作品があるらしく、関連付けて観るともっと本作が訴えようとした問題が明らかになるはずだが、現状ではシェーファーの小児性愛問題も、拷問施設としての問題も婉曲的にしか描かれていないので、(とりわけ前半において)要領を得ない印象。漸くサスペンスが醸成され出す後半でも曖昧に終始して隔靴搔痒の思いを禁じ得ない。
 なおさら、他の二作を観る必要性を感じる次第。

ディグニダ dignidad は 英語の dignity に相当するスペイン語。即ち【尊厳】を意味するが、どこに尊厳があるのやら。

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