映画評「カンダハル 突破せよ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年アメリカ=サウジアラビア合作映画 監督リック・ローマン・ウォー
ネタバレあり

何度も言うが、ジェラルド・バトラーはジェラード・バトラーである。綴りを良く見よ。 Gerard Butlerである。 ラテン系やスラブ系であれば ar は “アル” で良いが、アングロサクソン系では明治時代はともかく、ここ100年くらい “アー” である。最近はドイツ語でも “アー” と表記することが多くなった。アングロサクソン系でも Gerald という名前があり、恐らく語源的には同じだが、こちらならジェラルドで良い。 多分最初にジェラルドと考えた人はこれと混同したのではないかと思う。

そのバトラー氏はベテランのCIA工作員で、電波会社の敷設社員になりすまして、イランの核施設爆破計画を実行中である。最初の爆破に成功した後、国防省からのリークにより正体がばれ、イランのコッズ部隊、ISI(パキスタン軍統合情報局)、その他のゲリラ組織から追われ、騙す形で通訳として雇ったアフガニスタン人ナヴィド・ネガーハンに無理矢理協力させて、CIAが潜んでいるアフガニスタンのカンダハルまで必死に逃げる。仲間のトラヴィス・フィンメルがISISの攻撃に見せかけて一時的救出は成功するが、そう簡単には行かない。

というお話はそれなりに本物っぽくて堅実、アクション描写も華美に走らず即実的でなかなか良い。ISIとISIS(イスラム国)が出て来るので少々混乱する。
 中にはタジクのイスラム系リーダーのように味方の振りをしてISIの工作員アリ・ファザールに連絡をするなどという不届き者もいるが、主人公の純然たる仲間以外は全て敵と思って見ていればOK。絡んで来る連中各々の立場など、このシンプルな逃走アクションにおいては大して意味がない。そういうところに拘る方は、変な劇画的物語観に染まっているのですな。

ISIのファザールがタリバン連中の思想を古いと言うのが面白い。イラン当局者が捕まえた自由主義陣営の女性記者を大きな傷を負わせないまま解放するのも後味が良い。
 立場に応じて正義はあるわけで、その正義を真っ向から否定せず、彼らにも人情があると脚本家は示したのであろう。

正義で思い出すのはプーチン。プーチンが少なくとももう6年(生きていればだが)ロシア大統領を務め、アメリカではトランプが勝つ見込みが増している。アメリカ国民にとってはその体制は必ずしも悪くないが、他の自由主義陣営には迷惑千万。日本政府も大変な苦労を強いられる。大統領時代に起こした犯罪は罪に問われないか、再選されれば大統領特権で自らに恩赦を出すこともできる(確か今までに例はなし)というアメリカは実に変な国である。プーチンが去ってもロシアは似たような元首が続くのだろう。

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