映画評「銀河鉄道の父」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・成島出
ネタバレあり

宮沢賢治の生涯を父親・政次郎の立場から描く伝記映画である。原作は2017年度(下半期)に直木賞を受賞した門井慶喜の同名小説。

代々質屋(実際は古着屋らしい)を営む政次郎(役所広司)とイチ(坂井真紀)の長男に生まれた賢治(菅田将暉)は秀才ながら、気が多い反面、視野狭窄になりがちな性格だったようで、両親は振り回される。
 盛岡高等農林学校に入学してもまだ軸を定められずにいた彼は、しかし、妹トシ(森七菜)に励まされて文士として励む一方、卒業後は農民指導をする。が、童話創出のミューズとも言えたトシが結核を患って早世し、浄土真宗の葬儀の最中に日蓮宗のお題目を唱えるなど奇行もするが、次第に落ち着き、遂には出版に漕ぎつける。
 しかるに、生前専門家(映画には出てこないが年下の草野心平など)の高い評価に反し、さっぱり売れず、やがで彼自身もトシ同様結核を病み、昭和8(1933)年「銀河鉄道の夜」を残して死去する。満37歳。

映画は最後、銀河鉄道(黄泉だろうか)に乗っている賢治とトシの向かいの席に父親が腰かける幻想シーンで終わる。

映画に見る賢治の生涯について。
 父親とは稼業後継をめぐってバッティングすることが多かったが、それが父親が常に賢治を思っているからである。両親と三人の妹弟に非常に愛された賢治の一生を、僕は、幸福だったと思う。彼のただ一つの親不孝は両親より早く亡くなったことではないか。
 翻って、彼ほど親に迷惑を掛けなかったものの、彼ほどのことを親にしなかったとも言える僕がした唯一の親孝行?は、親より長生きした(両親健在の2009年に大袈裟に言えば-医者曰く-急性膵炎で死にかけたことがある)ことである。
 そんなことを思って観るうち、涙が止めどもなく出てきた。映画の作りがそこまで上手いからではなく、自分との関係にすぎないが。

監督は成島出で、例によってゆっくりながらカメラ動かし過ぎる欠点が多少顔を出すものの、基本的に字余り字足らずのないきちんとした展開ぶりで、かかる大衆的な映画の方向性を損なわない展開ぶりに好感を覚える。

宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」で登場人物にイタリア人の名前を付けたのは何故だろうか、とよく考える。

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