映画評「オリヲン座からの招待状」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・三枝健起
ネタバレあり

一昨日の「ラブ・レター」と同じく、浅田次郎の短編集「鉄道員(ぽっぽや)」に収録された好短編の映画化。

そのまま映画化したら30分で十分な内容なので、「ラブ・レター」同様にどうふくらますかが脚本家の腕の見せどころ。今回のいながききよたかは、原作から主人公カップルを入れ替えた。

結婚20年くらいの中年カップル良枝(樋口可南子)が30年くらい前に捨てた故郷・京都の二番館から招待状が届く。ラスト・ショーをするのだと言う。彼女は別居中の祐次(田口トモロヲ)を誘うが、幼馴染でもある夫君は色々苦い思い出のある故郷に行くのは気が進まないらしい。

ここから話は、映画最盛期の昭和32(1957)年に飛び、食い詰めた若者留吉(加瀬亮)がほうほうの体でやって来た映画館オリヲン座の館主松蔵(宇崎竜童)に雇ってほしいと願い出る。ヘビースモーカーで恐らく肺の病気を患っている彼は、細君トヨ(宮沢りえ)と阿吽の呼吸で雇うことにし、若者はフィルムの運搬をいながら映写技師としての勉強に没頭する。
 程なく館主が亡くなり、昭和37年、留吉は懸命にトヨを補佐して映画館経営に勤しんでいる。が、保守的な近隣住民は二人の関係を根拠なく沙汰し、TVの隆盛と相まって閑古鳥が鳴くようになる。そんな中映画館に心地良い居場所を発見したのが、まだ6~7歳の良枝と8歳くらいの祐次。両親の仲が悪いので逃避しているのだ。ここに疑似親子の関係が生れたという次第。
 それから40年余り経ち、トヨ(中原ひとみ)は医者から見放され、彼女から見れば若い留吉(原田芳雄)も寄る年波には勝てず、閉館を決めたのである。

「ラブ・レター」ほど拡大化は上手く行っていない。
 原作は映画館への再訪を通して、離婚寸前の中年夫婦がやり直しをすることにするというお話だったが、映画版は映画と映画館と前の館主への愛情という精神的な絆で結ばれた男女が蛍を通して真に夫婦的な愛情を醸成し、その最期に至ってどの夫婦にも負けない愛情を再確認する、という映画館主側の愛情交換物語になっている。

映画ファンにとって嬉しいのは、本作が主人公たちの愛する「無法松の一生」に内容を重ねたところだ。残念なことに、それが必ずしもうまく行っていない。
 留吉については、前の館主が好きだったからという理由だけでなく主人公の未亡人への思慕が主題である「無法松の一生」を愛しているのでその心情を察することができるが、トヨのほうは些か曖昧。少なくともそれに言及する描写は蛍の場面までない。
 とは言うものの、夫亡き後懸命に補佐してくれる留吉の姿を見れば好意を抱くのは人情であり、当然と言えば当然。描写は足りなくても不自然ということは全くなく、映画的に旨みの不足を感じるだけである。
 旨みと言えば、大人になってからの良枝と祐次が余りうまく機能していないと思われる。単なる話の導入ツールのようになってはいないだろうか? 

他方、本作のテーマとして最終的に浮かび上がるのは映画や古いタイプの映画への愛であるとも思えて来る。それが正しいとしたら、上述したことは全然問題ではない。

日本では昭和33年が観客動員数のピーク。延べ11億人以上が映画を観た。当時の人口を考えれば一人が年に11回映画館に行った。昭和37年では6割の6億6千万人になるが、それでも現在の4倍以上。従って、オリヲン座が閑古鳥の鳴く状態になるのは、ひとえに、本人が意識するように二代目について沙汰する近所の人のせいだ。江戸時代ではあるまいし、前夫の死後のことなど放っておけば良いのに。因みに、僕が中高時代に通ったのはオリオン座。2003年に閉館したらしい。

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