映画評「ミス・マープル/カリブ海の秘密」

☆☆★(5点/10点満点中)
1989年イギリス映画 監督クリストファー・ペティット
ネタバレあり

アガサ・クリスティーの生み出した二大探偵のうちエルキュール・ポワロの活躍の場は世界各地であり、もう一方のミス・マープルは国内それも殆ど地元近辺で活躍する、という僕のイメージはあらかた間違っていないようなのだが、「カリブ海の秘密」は題名が示す通り英国外が舞台という例外的作品。

BBC制作のTVシリーズの一編で、プライムビデオにて鑑賞。

療養のためにカリブ海を訪れたミス・マープル(ジョーン・ヒクスン)は、ティム(エイドリアン・ルキス)とモリー(ソフィー・ウォード)の経営するホテルの客たちに評判が悪い退役軍人バルグレイブ(フランク・ミドルマス)から殺人の話を聞かされ、彼が犯人の写真を見せようとしてその当人がやって来た為に止めるのを目撃する。
 半ば馬鹿にして聞いていた彼女は、間もなく老人が病死体となって発見されたのを知り、それが殺害であると推測する。
 彼の部屋に当人のものではない薬品が置かれていることに気付いた看護婦もやがて死体となって発見される。彼女の死体を発見したモリーは唐突に神経症に陥る。やがて客の一人ダイスン夫人も殺害される。
 ミス・マープルは彼女の話を聞くようになった人好きのしない大富豪ラファエル(ドナルド・プレズンス)の相続の話を聞き、三つの殺人とモリーの神経症との関連性を見抜く。

いくら古いTV作品と雖も、ミステリーである以上、配信でこれから見ようという方も少なくないであろうから、これ以上は伏せるのが妥当でありましょう。

さて、ポワロものほど怪しい人物は多くないが、国外に出ただけのことはあり、ホテルを舞台に登場人物の散りばめ方はポワロもの的と言って良い。

退役軍人の話から始まる序盤は気が利いていて興味をそそる滑り出し。

しかし、ポワロものと狙いが少し違うせいもあることを承知しつつ述べると、少なからぬ関係者の捌き方が、シドニー・ルメット監督の秀作「オリエント急行殺人事件」(1974年)やジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」(1978年)のように鮮やかとは行かず、少々お話の進行ぶりに要領を得ない印象を覚える時間帯が続く。
 上記二作が良い例となっているように、オールスター映画の利点は登場人物の区別がしやすいことで、僕のように映像記憶の劣る者には非常に助かるという事を痛感させるものがある。翻って、本作では、ミス・マープルや有名男優プレズンスの大富豪、医師・官憲以外、僕は途中で誰が誰だか解らなくなったと正直に告白せざるを得ないのである。必ずしも作品のせいとは言えないながらも、それを最小限にするのが映像作品の工夫というものではあるまいか。

ミステリー構成上の仕掛けについては、老軍人の義眼の扱いの面白さを上げておきたい。お話の展開中に何度か言及されていて、偏にアガサ・クリスティーの貢献であるが、これは誠に上手い。

ケネス・ブラナー版のポワロはお勧めできない。ミステリーとしても改悪されているが、画面上で展開する戦前の風俗に歴史修正的な嘘が多い。右派も左派も歴史修正するのだから、嫌になってしまうよ。

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