映画評「新学期 操行ゼロ」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1933年フランス映画 監督ジャン・ヴィゴ
ネタバレあり
1990年頃に一度観ている。
1934年に29歳で夭折したジャン・ヴィゴが残した僅か二本の劇映画のうちの一本(デビュー作)で、上映時間47分という長めの短編(あるいは中編)。
操行ゼロというのは “外出禁止” の意味ではなく、操行(≒道徳)が零点ということで、その結果外出禁止となるわけでござる。
全寮制中学校の新学期が始まり、実家から戻ってきた悪名高い3名の子供が(学校にとっての)問題行動を起こし、やがてもう一人を加えて、学園内革命を起こす。
というお話で、「わんぱく戦争」(1962年)に先んじること30年のワンパク児童映画。
子度は自由を求めがちであり、フランソワ・トリュフォーの傑作「大人は判ってくれない」(1959年)や英国の「小さな恋のメロディ」(1971年)あるいはもっと高年齢の「if もしも ...」(1968年)に通ずる、自由を希求する空気感を瑞々しく表現している。
映画としては、まだ台詞に頼らぬサイレント的なところが多い。しかし、映画はサイレント後期からトーキー初期にかけてが技術革新も激しいこともあって一番色々試みられた時代であり、本作の場合は、寮内で本格的反乱が始まる直前、逆回転映像からスローモーションに移行するところが、今でも或いは今だからこそハッとさせられる。
チャップリンを真似する紳士(先生)が出てくるシークエンスなど意味が解りにくいところもあるが、いずれにしても画面中心に観るべき映画と言うべし。
テーマはまるで違うが、ルイ・マルの「さよなら子供たち」(1987年)も思い出した。
ビートルズが「レイン」でボーカルに、「アイム・オンリー・スリーピング」でリード・ギターにテープの逆回転を使ったのも革新的だった。
1933年フランス映画 監督ジャン・ヴィゴ
ネタバレあり
1990年頃に一度観ている。
1934年に29歳で夭折したジャン・ヴィゴが残した僅か二本の劇映画のうちの一本(デビュー作)で、上映時間47分という長めの短編(あるいは中編)。
操行ゼロというのは “外出禁止” の意味ではなく、操行(≒道徳)が零点ということで、その結果外出禁止となるわけでござる。
全寮制中学校の新学期が始まり、実家から戻ってきた悪名高い3名の子供が(学校にとっての)問題行動を起こし、やがてもう一人を加えて、学園内革命を起こす。
というお話で、「わんぱく戦争」(1962年)に先んじること30年のワンパク児童映画。
子度は自由を求めがちであり、フランソワ・トリュフォーの傑作「大人は判ってくれない」(1959年)や英国の「小さな恋のメロディ」(1971年)あるいはもっと高年齢の「if もしも ...」(1968年)に通ずる、自由を希求する空気感を瑞々しく表現している。
映画としては、まだ台詞に頼らぬサイレント的なところが多い。しかし、映画はサイレント後期からトーキー初期にかけてが技術革新も激しいこともあって一番色々試みられた時代であり、本作の場合は、寮内で本格的反乱が始まる直前、逆回転映像からスローモーションに移行するところが、今でも或いは今だからこそハッとさせられる。
チャップリンを真似する紳士(先生)が出てくるシークエンスなど意味が解りにくいところもあるが、いずれにしても画面中心に観るべき映画と言うべし。
テーマはまるで違うが、ルイ・マルの「さよなら子供たち」(1987年)も思い出した。
ビートルズが「レイン」でボーカルに、「アイム・オンリー・スリーピング」でリード・ギターにテープの逆回転を使ったのも革新的だった。
この記事へのコメント
これがアマプラで見られるようになってたんですね!
数年前にジャン・ヴィゴの残した4作品の4kレストア版が出た時にこんな日が来るとは予想しなかったので買ってしまいました。 (今日また観てしまいました。)
今じっくり観てみると、画面のあちこちに「どこかで観た事ある感」が散見されますが、もちろんこれはジャン・ヴィゴが真似っこしたのではなくて後陣の監督達が影響を受けた証なんですよね。
ほぼ同じ頃にフランスに生まれて同じように「夭逝した若き天才」と言われたレーモン・ラディゲとイメージがダブります。
良いですね〜ジャン・ヴィゴ… 明日は「アタラント号」ですか?
>今じっくり観てみると、画面のあちこちに「どこかで観た事ある感」が散見
>後陣の監督達が影響を受けた証なんですよね
僕よりぐっと若い人が、名画と雖も無条件に高評価しないという立場で、“「七人の侍」の登場人物が類型的”としていたので、“バカを言っては困る。後の作品の数々がこの作品の人物像を模倣したのだ”と反論しましたよ。
【名画と雖も高評価しない】というスタンスは結構難しいですよね。同時代的に考える知識と想像力がないとできない。
>「夭逝した若き天才」と言われたレーモン・ラディゲとイメージがダブります
長生きしてほしかった作家の一人です。
>良いですね〜ジャン・ヴィゴ… 明日は「アタラント号」ですか?
諸事情がございまして、「アタラント号」は来月中旬位になりそうです。
お待ちくださいね^^
>チャップリンを真似する紳士が出てくるシークエンスなど意味が解りにくい
これは新任のユゲ先生です。
最初の列車のコンパートメントのシーンで悪ガキ2人と同室で爆睡していて座席からずり落ちたあの人です。いつもチャップリンのようにステッキを持ち歩いている若い先生ですよ。
子供たちが校庭で遊んでいる時も監視するだけがお仕事のはずなのにボールが飛んで来たらつい一緒に遊んでしまい怖い舎監ににらまれたり、悪事の相談事をしている子供たちを舎監の目からそっとかばったり、それでもまだ暇な時にチャップリンの物まねをしていたんですよ。子供の心を忘れない人ですね。
教室で逆立ちしたり舎監の絵を描いたらアニメのように動きだしたりして楽しい先生です。ラストシーンでは屋根の上の子供たちに下から喝采を送っていましたよ。
このユゲ先生役のジャン・ダステが次のアタラント号の新郎さんを演じていますね。その後ジャン・ヴィゴに心酔していたトリュフォーの映画にも何本か出ていて、長生きされたのでアタラント号のフィルムの修復時には色々アドバイスされたようです。
>これは新任のユゲ先生です。
>いつもチャップリンのようにステッキを持ち歩いている若い先生ですよ。
>暇な時にチャップリンの物まねをしていたんですよ。
いくらうっかり八兵衛の僕でも、彼が先生であること、彼が子供側の人であることはわかっていましたが、何故チャップリンなのかという気がしまして。
しかし、ステッキを常時携帯していること、あの時代ということを考えれば、ありうべき行動。
暇でやったということですか!(忙しければしないでしょうが・・・笑)
>ジャン・ダステが次のアタラント号の新郎さんを演じています
>その後・・・トリュフォーの映画にも何本か出ていて
>長生きされたのでアタラント号のフィルムの修復時には色々アドバイス
おおっ、色々情報を得られました。有難うございました。
確かに「野性の少年」「恋愛日記」「緑色の部屋」といったトリュフォーの中でも渋い映画に出ていますね。
アラン・レネの「ミュリエル」「アメリカの伯父さん」にも出ていました。ジャン・ヴィゴへのヌーヴェル・ヴァーグ連中の傾倒が伺われる次第。
(先生)を見落としており失礼致しました。
一つ分からない事があるのですが、あのちっちゃな校長先生は子供が付け髭や大人メイクをして演じているのか、小人症の人がやっているのかどちらでしょう? 声も子供っぽいですし子供が演じている方が面白いと思うのですが。
DVDについていた解説によると登場人物はそれぞれ実際のモデルがいたらしく小さな校長も実在したようです。
>あのちっちゃな校長先生
デルファン Delphin という小人症の人が演じているようです。
1882年生まれらしいので、校長にふさわしい年齢ですね。
小人症の方は、声も子供みたいな場合も結構あります。大人の声を持つ人と少しタイプが違うのかもしれませんね。
校長先生は子供じゃなかったんですね… 言われてみればそうですね、白木みのるも可愛い声でした。
>白木みのるも可愛い声でした。
懐かしいですねえ。
僕が物心ついた時にTVでよく見かけました。
外国では現在ピーター・ディンクレイジが大人気。この人は大人の声をしています。
性ホルモン由来の小人症は声変わりをもたらさないようです。
そのピーター何とかさん、名前は全くインプットされていませんが誰のことかは分かりましたよ。よく見る顔ですね。
さてさてチャップリンの件ですが、「ヴィゴ カメラの前の情事」という悪趣味な邦題のヴィゴ伝のような映画を以前にちょっとだけ観た事を思い出しました。
その時は面白くないから開始早々に視聴放棄してしまいましたが昨夜もう一度観直してみました。
そうしましたらチャップリン関連のシーンがありましたよ。
まず結核の療養所に入るシーンから始まるのですが、その時の荷物がスーツケース1つとチャップリンのような黒い帽子で、そこの食堂でユゲ先生のようにチャップリンの物真似をしてみせる場面がありました。
サナトリウムにいる時から余命宣告はされているにも関わらずそこで出会った恋人と逃げ出して結婚してパリに戻ってしまいます。
パリでは映画制作の資金稼ぎに映画の上映会をするのですが上映作品は「チャップリンにエイゼンシュテイン」と呼び込んでいました。スクリーンがチラッと映りましたがポチョムキンのあの階段のシーンでした。
と言うことでヴィゴはチャップリンが好きだったんですね。(分かりやすいなぁ…笑)
>ヴィゴはチャップリンが好きだったんですね。(分かりやすいなぁ…笑)
謎が解けました。
ところで、ドワネルものでヴィゴの後継者を気取ったと僕が踏んだトリュフォーは、ヒッチコックも大好きで、幾つか優れたサスペンス/スリラー映画を作り、極めて優れたヒッチコック風の演出を見せましたが、残念ながら本数は多くありません。
それは世評が芳しくなかったからですが、ヒッチコックが好きな僕の基準では相当上出来でした。これは世間の見る目がなかっただけなのだから、気にせずにもっと作って欲しかったなあ。
ヒッチコックもトリュフォーの両方とも好きなので、余計にそう思います。