映画評「我等の仲間」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1936年フランス映画 監督ジュリアン・デュヴィヴィエ
ネタバレあり

1930年代のジュリアン・デュヴィヴィエは当たりに当たっていた。本作の後「舞踏会の手帖」「望郷」という傑作を放っている。本作は上記二作に比べると一般的な人気はなさそうだが、十分比肩できる傑作だ。

因みに僕は40年以上前にTVで観ていて、大分前からまた観たくなってきた。しかるに、マイ・ライブラリーにはない。図書館にもなく、いつかプライム・ビデオに当たった時は空振り。今回何気なく別の作品を検索していたところ遭遇した。実に嬉しい。

それぞれ別の職業を持つジャン(ジャン・ギャバン)、シャルル(シャルル・ヴァネル)、レイモン(レイモン・エーモス)、幾分若いジャック(シャルル・ドラ)、そしてスペインから逃げてきた政治犯マリオ(ラファエル・メディナ)は仲の良い親友同士。貧しい者ばかりで、マリオの恋人ユゲット(ミシェリーヌ・シェイエル)の誕生日にも碌なものしか贈れない。
 が、共同で買った宝くじで10万フランが当たり、これを資金に普請関係の仕事に従事している三人がその力を生かして、大衆酒場を作ることにする。
 しかるに、ジャックはユゲットへの思いが実らないことを悲観してカナダに去り、フランス当局からも追われるマリオもユゲットを伴って国外退去する。
 残った3人で何とか完成させ開店の日を迎えるが、レイモンが屋根から墜落死する。さらに、ジャンに振られたばかりのシャルルの元妻ジーナ(ヴィヴィアーヌ・ロマンス)がやって来て、自分を避け続ける二人をかき回す。その策略に嵌って二人は喧嘩を始め、意外に短気なジャンがシャルルを撃ってしまう。

運命のいたずらで、或いは一人の女性の悪計で、五人もいた友人たちが散り散りになり、彼らの夢も全て潰えてしまうという悲劇で、貧しい余りに些か重い空気が、くじの当選で一気に明るいものに変わり、ジーナの登場で再び暗雲垂れこめるものとなった挙句に切なすぎるラストを迎える。

良い意味でこれほど調子が変わるデュヴィヴィエ作品は他に観たことがない。その一方、途中まで抑え気味だった叙情性が終盤に解放され、一気に爆発する。
 その白眉は、発砲後呆然と坐るジャンを官憲が連れて行く時に、亡きレイモンの弟からプレゼントされた時計が空しく鳴る幕切れ。「望郷」の汽笛に匹敵すると言っても良いのではないか。

原題は「我等の家」。邦題の ”の” は同格と考えないと解りにくい。つまり「我等という仲間」ということ。

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