映画評「帰れない山」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年ベルギー=イタリア=フランス=イギリス合作映画 監督フェリックス・ヴァン・ヒュールニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメーシュ
ネタバレあり

近年のアスペクト比4:3のイタリア映画では「プッチーニの愛人」という凄味のある映像美を誇る傑作があるが、美しい画面という意味で同作に迫る。但し、かの映画のように構図が凄いといったことではないので陶酔する状態には至らない。
 いずれにしても、TVなどの小さな画面で観てもこの映画の真価を把握できないわけで、総合的にその辺りも多少割り引いて評価している。

トリノの大会社社員ジョヴァンニ(フィリッポ・チーミ)の息子ピエトロは、両親に連れられてアルプスを毎年訪れ、牛飼いをする同じ年の少年ブルーノと懇意になる。が、ハイティーンになった後、山に移住しブルーノを子供のように扱うようになった父親と疎遠になった為に暫く会わない年月が過ぎる。
 30代になり、父親の死の報を受けてアルプスでブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ)と再会を果たしたピエトロ(ルカ・マリネッリ)は、やがて彼に請われて一緒に山小屋作りに協力する。
 ピエトロは、時間をかけて完成した小屋に彼が連れてきた女友達ラーラ(エリザベッタ・マッズーロ)と昵懇の仲になって家族を持つことになったブルーノと対照的に自分を掴めれ切れずに悶々とするも、世界を彷徨うるうちに行き着いたネパールで現地人のアスミという伴侶を得、作家としても台頭する。
 が、ブルーノは山に拘る余り妻子と不仲になり山で一人暮らしを始め、ピエトロの言葉を無視した結果、大雪の中で死んだらしい。
 かくして最高峰の山(帰れない山)に固執したブルーノを失ったピエトロは、その周囲の8つの山を永遠に彷徨するしかない。

最後はネパールの土着的な考えで、その考えをもたらした時から二人の考えはその二つに分かれ、結局その考えの差が永訣の原因となったわけで、人生行路というスケールで考えた時にじーんとさせられるものがある。

二人とも見かけ以上に内省的なので昵懇に付き合う中にも相手を理解しきれないところが多かったと想像され、当然観客も把握しきれないわけだが、僕はそれ以上に30代になった二人(を演じる役者)のタイプが大きく違うわけでもないのに共に髭を生やした為に識別しにくくなり、どちらが何を話しているのか把握するのに難儀した。その場合服装で区別するのだが、場面が変わるとそれは意味を成さないことが多い。
 内容は難易はともかく、観客の為に(とりわけ僕のように映像記憶の悪い者の為に)視覚くらいは解りやすくする工夫は必要なのだ。それをすることで(しないこと以上に)内容が阻害されたり不自然になることはなかった筈である。

人の考え特に人生哲学(拘り)を持っている人のそれを変えさせるのは難しい。それを痛感させられる。そんな人間劇である。

イタリアが舞台で、同国を含む四か国の合作映画であるが、共同脚本・監督のお二人がベルギーの人だから、実質的にベルギー映画と言うべきだろう。

田舎に住むと、5月から10月まで植物との闘いになる。近所の人に会えば、まず草刈りの話である。草刈りの為に貴重な時間を失う代わりに、それなりの運動になり健康維持に繋がる・・・かもしれない。

この記事へのコメント

モカ
2024年05月30日 11:13
こんにちは。

人里離れた山奥で2人の若い男が友情を育むといえば、「ブロークバックマウンテン」や「ゴッズオウンカントリー」のような展開を推測しがちですが、違いましたね。

麓の街と山を行ったり来たり、挙げ句に家まで建てたりカトマンズくんだりまで行ってしまったり、観ているこっちは体力あるなぁと感心しきりでした。

イタリアも日本と同じように南北に長いので北と南では気候も人の気質も全然違うようですね。昔、仕事関係の見学ツアーで北イタリアに行きましたが、引率者曰く、イタリアでも北の方の人は仕事中毒のようによく働くので生産性の低い南を切り捨てたがっているとか…

私は髭面男2人の識別には困りませんでしたよ。(男を見る目はあるんです)

オカピー
2024年05月30日 21:44
モカさん、こんにちは。

>「ブロークバックマウンテン」や「ゴッズオウンカントリー」のような展開を推測しがち

そういう方が多そうですね。
何故か解りませんが、僕はそういう予感はなかったです。

>イタリアでも北の方の人は仕事中毒のようによく働くので生産性の低い南を切り捨てたがっているとか…

世界史で必ず出て来るモンテスキューが、気温と勤勉さの関係について言及していたような記憶があります。当然、寒い地方の人は勤勉。

>私は髭面男2人の識別には困りませんでしたよ。(男を見る目はあるんです)

最初は髭の量が少し違いました(トリノの坊やのほうが少し少ない)けれど、段々同じになってきました(笑)