映画評「EO イーオー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年ポーランド=イタリア=イギリス合作映画 監督イエジー・スコリモフスキ
ネタバレあり

ロベール・ブレッソンの宗教寓話の傑作「バルタザールどこへ行く」(1966年)に似た図式の作品である。監督はイエジー・スコリモフスキで、同作にインスパイアされたらしい。

ポーランド。コンビを組むサーカス団の美少女カサンドラ(サンドラ・ドルジマルスカ)に可愛がられていたロバのイーオーが、動物愛護の世の風潮で彼女と切り離され、各地を転々することになる。
 サーカスから離されたからと言ってイーオーが幸せなのかどうかは解らない。幸運を味方につけ或いは自分の行為で、幾たびか訪れた危機(少なくともサーカスにいれば処分の危機はなかったはずなのだが。解放して後に何の面倒をみないのも動物愛護精神に反するだろう)を脱しても、結局は明るい未来とは程遠いようである。

最後に動物愛護の言葉が出るので、動物愛護が主題のように思われる人が多いと思うが、僕は違うと考える。

「バルタザールどこへ行く」でも本作でもロバは主人公でありつつ狂言回しであるが、本作の方が狂言回し度が強く、傍観者として愚かな人間の営為を眺める。イーオーを鏡として僕ら観客は愚かしい人間をこれでもかこれでもかと見せつけられる。
 その一番良い例がサッカーの勝敗を巡って争う二グループの挿話だが、案外、動物愛護団体も愚かしい人間の例として出して来たのではないか。
 本当に動物愛護だけが目的であれば、動物愛護団体を出さないほうが劇として効果的であるし、出すにしても一番最初に出すのはドラマツルギー上賢くない。色々解りにくい作品を作って来たスコリモフスキはそこまで愚かではあるまい。

画面も面白い。
 イーオーの主観ショットは余り多くないが、(イーオーによる文字通りの)フラッシュバックが結構出て来る。擬人化されていない動物の主観ショットはたまに見るが、フラッシュバックは余り記憶にない。そのフラッシュバックは常にカサンドラと過ごした日々の思い出であり、かく随時思い出すところを見ればイーオーは彼女とコンビを組んでいた時が幸せだったのではあるまいか。動物愛護精神によって引き離されてたのは有難迷惑だったのではないか。

ロバはよくキリスト教に結び付けられる動物だが、本作は「バルタザール」に比べると宗教性は殆どなく、人間風刺を試みた寓話であると思う。

ギリシャ神話ではイーオーは元人間の牝牛だが、彷徨という意味で重ねたと思われる。

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