映画評「トリとロキタ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年ベルギー=フランス合作映画 監督リュック・ダルデンヌ、ジャン=ピエール・ダルデンヌ
ネタバレあり
リュックとジャン=ピエールのダルデンヌ兄弟のセミ・ドキュメンタリー。
先日バイデン大統領が “日本は外国人嫌い” と述べたのは満更間違いではない。少なくとも難民認定率(数ではなく率。数は少なすぎて問題にならない)の低さが如実にそれを物語るが、さらに(他国の真似をして)外国人を減らそうと入管法をいじくって、永住資格者からできればその資格を剥奪しようとし出した。その対象になる可能性が増えるのは白人ではなく、有色人種である。日本人は白人に弱い。
日本は治安が良いのでまだ来てくれる外国人がいるが、賃金が相対的に悪くなっているので、働き手が韓国やオーストラリア(日本の若者すらかの国に向っている)を選ぶ可能性が高くなりつつある。
英国(離脱派の一部)がEUを抜けて後悔しているのは、実は外国人に頼っていた労働に関する問題が顕在化したからであり、欧米の保守政治家が外国人が労働を奪っていると言っているのは概ね嘘と思えば良い。
本作はベルギーへの定住候補者の移民(我々が一般的に考える概念よりもっと広く、出稼ぎなども含む)をめぐるサスペンス寄りのドラマである。
カメルーン出身のハイティーン少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)は、ベルギーに向かう途上で知り合ったベナン出身の10歳くらいの少年トリ(パルロ・シルズ)を弟ということにして、既にビザを得ているトリに続いてビザを得ようと悪戦苦闘するが無駄に終わる。
レストラン経営者が副業のドラッグ(麻薬ではないようだ)を売り捌く仕事に二人を遣わす。ロキタは、それでも親に送る金を増やしたいことと実の弟のように思っているトリが危険な目に遭わないように、大麻製造の工場で働くことにする。たった一人で監禁された状態で働くのである。トリとの連絡も禁じられる。
トリは賢い少年で、突き止めた工場に思いがけぬ方法で侵入し、二人は楽しい時間を過ごす。しかし、二回目はうまく行かず、二人は協力して逃げる羽目になる。
先進国のマジョリティーは移民の高い犯罪率を排斥の理由とすることが多いだろうが、多くの国で移民は平等に扱われないのだから当然である。貧すれば悪に手を染める。どの国でもマジョリティーのそれが相対的に低いのは国家から厚く保護されているからに過ぎず、優秀だからではない。
本作の二人など正にそれで、トリによればロキタは介護の仕事をしたかったようである。そういう仕事は先進国のマジョリティーは余りやりたがらない。
ベルギーの移民とそれをチェックする当局との関係性がなかなか興味深い一方、隣国オランドと違ってベルギーでは日本同様にドラッグや麻薬などの取り締まりが厳しいらしく、為にマジョリティが避けたがる麻薬の生産や配達に関わらざるを得ない移民もいるという現状に焦点が当てられ、社会派としてその問題を打ち出してい、大いに考えさせられる。
対岸の火事ではない。岸田総理は日本を “選んでもらえる国” にしたいらしいが、それと矛盾するのが入管法改正だろう。労働人口は確保したいが、用が済んだら帰れと読める。これはひどい。しかし、そんなことをするうちに外国人は他所に行き、日本は泣くことになる。尤も、AIで賄える仕事も増えるだろうから、事はそう単純ではない。
閑話休題。
移民の必死さを少年の頑張りが象徴する。大麻工場に侵入する場面では無謀ではないかと思えるほどの行動を取る。激しく自転車を漕ぐ姿に彼の生きようという気力がにじむ。
終盤の逃走模様はサスペンスフルで、近年のダルデンヌ兄弟は娯楽性が増している気がする。
永住許可を持つ外国人に関する入管法改正(改悪だが)に触れたら、右派の姉はシンガポールを持ち出した。しかし、労働者の30%が外国人でそれを少しでも減らしたい都市国家と、労働需要が供給を上回る日本を比較するのは無理筋である。アメリカも繰り出してきたが、難民認定率は勿論認定数が3桁違い、国籍が出生地主義だから自ずと人口は増え、半世紀前に日本の2倍だった人口は今や3倍に近い。問題になるくらい移民が多く、人口減少の心配を抱えないアメリカとの比較も意味がない。クルド人には働きたくても入管法の為に働けない人もかなりいるはずで、犯罪率が高いとしてもむべなるかなである。かつて在日韓国朝鮮人のヘイトスピーチをしていた在特会は今は場所を変えてクルド人排斥を訴えているらしい。自分の欲求不満を外国人に向けている無節操な連中だ。 連中は “クルド人は国へ帰れ” と言っているが、 祖国と思える国がないので日本にいる。日本国のクルド人難民認定率が低いのは、彼らを多く抱えるトルコに対して忖度しているのではないかと最近思い始めた。独裁国がテロリスト指定したらその人やグループはテロリストではないと思うべし。
2022年ベルギー=フランス合作映画 監督リュック・ダルデンヌ、ジャン=ピエール・ダルデンヌ
ネタバレあり
リュックとジャン=ピエールのダルデンヌ兄弟のセミ・ドキュメンタリー。
先日バイデン大統領が “日本は外国人嫌い” と述べたのは満更間違いではない。少なくとも難民認定率(数ではなく率。数は少なすぎて問題にならない)の低さが如実にそれを物語るが、さらに(他国の真似をして)外国人を減らそうと入管法をいじくって、永住資格者からできればその資格を剥奪しようとし出した。その対象になる可能性が増えるのは白人ではなく、有色人種である。日本人は白人に弱い。
日本は治安が良いのでまだ来てくれる外国人がいるが、賃金が相対的に悪くなっているので、働き手が韓国やオーストラリア(日本の若者すらかの国に向っている)を選ぶ可能性が高くなりつつある。
英国(離脱派の一部)がEUを抜けて後悔しているのは、実は外国人に頼っていた労働に関する問題が顕在化したからであり、欧米の保守政治家が外国人が労働を奪っていると言っているのは概ね嘘と思えば良い。
本作はベルギーへの定住候補者の移民(我々が一般的に考える概念よりもっと広く、出稼ぎなども含む)をめぐるサスペンス寄りのドラマである。
カメルーン出身のハイティーン少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)は、ベルギーに向かう途上で知り合ったベナン出身の10歳くらいの少年トリ(パルロ・シルズ)を弟ということにして、既にビザを得ているトリに続いてビザを得ようと悪戦苦闘するが無駄に終わる。
レストラン経営者が副業のドラッグ(麻薬ではないようだ)を売り捌く仕事に二人を遣わす。ロキタは、それでも親に送る金を増やしたいことと実の弟のように思っているトリが危険な目に遭わないように、大麻製造の工場で働くことにする。たった一人で監禁された状態で働くのである。トリとの連絡も禁じられる。
トリは賢い少年で、突き止めた工場に思いがけぬ方法で侵入し、二人は楽しい時間を過ごす。しかし、二回目はうまく行かず、二人は協力して逃げる羽目になる。
先進国のマジョリティーは移民の高い犯罪率を排斥の理由とすることが多いだろうが、多くの国で移民は平等に扱われないのだから当然である。貧すれば悪に手を染める。どの国でもマジョリティーのそれが相対的に低いのは国家から厚く保護されているからに過ぎず、優秀だからではない。
本作の二人など正にそれで、トリによればロキタは介護の仕事をしたかったようである。そういう仕事は先進国のマジョリティーは余りやりたがらない。
ベルギーの移民とそれをチェックする当局との関係性がなかなか興味深い一方、隣国オランドと違ってベルギーでは日本同様にドラッグや麻薬などの取り締まりが厳しいらしく、為にマジョリティが避けたがる麻薬の生産や配達に関わらざるを得ない移民もいるという現状に焦点が当てられ、社会派としてその問題を打ち出してい、大いに考えさせられる。
対岸の火事ではない。岸田総理は日本を “選んでもらえる国” にしたいらしいが、それと矛盾するのが入管法改正だろう。労働人口は確保したいが、用が済んだら帰れと読める。これはひどい。しかし、そんなことをするうちに外国人は他所に行き、日本は泣くことになる。尤も、AIで賄える仕事も増えるだろうから、事はそう単純ではない。
閑話休題。
移民の必死さを少年の頑張りが象徴する。大麻工場に侵入する場面では無謀ではないかと思えるほどの行動を取る。激しく自転車を漕ぐ姿に彼の生きようという気力がにじむ。
終盤の逃走模様はサスペンスフルで、近年のダルデンヌ兄弟は娯楽性が増している気がする。
永住許可を持つ外国人に関する入管法改正(改悪だが)に触れたら、右派の姉はシンガポールを持ち出した。しかし、労働者の30%が外国人でそれを少しでも減らしたい都市国家と、労働需要が供給を上回る日本を比較するのは無理筋である。アメリカも繰り出してきたが、難民認定率は勿論認定数が3桁違い、国籍が出生地主義だから自ずと人口は増え、半世紀前に日本の2倍だった人口は今や3倍に近い。問題になるくらい移民が多く、人口減少の心配を抱えないアメリカとの比較も意味がない。クルド人には働きたくても入管法の為に働けない人もかなりいるはずで、犯罪率が高いとしてもむべなるかなである。かつて在日韓国朝鮮人のヘイトスピーチをしていた在特会は今は場所を変えてクルド人排斥を訴えているらしい。自分の欲求不満を外国人に向けている無節操な連中だ。 連中は “クルド人は国へ帰れ” と言っているが、 祖国と思える国がないので日本にいる。日本国のクルド人難民認定率が低いのは、彼らを多く抱えるトルコに対して忖度しているのではないかと最近思い始めた。独裁国がテロリスト指定したらその人やグループはテロリストではないと思うべし。
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