映画評「十字路の夜」

☆☆★(5点/10点満点中)
1932年フランス映画 監督ジャン・ルノワール
ネタバレあり

ジョルジュ・シムノンの生んだ名探偵メグレ警視の映画版第一作だそうである。監督がジャン・ルノワールというのが少々意外で、結局日本では公開されなかった。
 翌年にジュリアン・デュヴィヴィエが「男の首」を映画化して、日本では「モンパルナスの夜」という題名で公開された。日本ではこれがメグレ警視映画版の初お目見えだろう。「モンパルナスの夜」は大昔に見て、その映画的ムードに、黒澤明の「酔いどれ天使」(1948年)を思い出していた。あるいは御大はかの作品を見ていたかもしれない。

パリ郊外。ミショネなる男が車を奪われたと騒ぎ、探すうちに盗まれた車からダイヤモンド商の死体が発見される。この殺しの容疑を掛けられたのが、車が発見されたガレージの持ち主デンマーク人のカール・アンデルセン(ジョルジュ・クードリア)で、メグレ(ピエール・ルノワール)は彼以上に、退廃的なムードを漂わせる妹エルゼ(ヴィンナ・ヴィニフリート)に多大な関心を覚える。
 相前後して最初の被害者の妻が射殺される事件が起き、やがてアンデルセンが誰かに襲われた後逃亡するが、メグレ訪問中にエリザが体の不調を訴える。飲み物に毒物が混入されていることを警視は掴む。既に背景を掴みかけていたメグレは、彼女の胸の痣を指摘し、事件の背景には彼女の犯罪性向の強い元夫と兄その実は現在の夫との関係性があり、元夫とショネを含むその協力者が起こした事件であることを明らかにする。

メグレ警視ものとしてだけでなくフランスのフィルム・ノワールの嚆矢とも言われる作品のようで、ルノワールらしい湿気を感じさせる画面が力強いが、現在見られる画面の状態はそこまで良くなく、集中しきれない感じになる。

メグレものはポワロものとちがってトリックや犯人当ての面白味より人情描出が軸となっているとは言え、犯行の真相が明かす場面で唐突感を否めないところがある。いつメグレはそれを掴んだの?という疑問が湧くわけである。
 一部で噂されているようにフィルムが一部欠損しているなら唐突感の理由になるものの、現状にて評価するのが現在の我々の務めであろうから、それを脳内で補って評価する気にはなれない。

多分に「ドクトル・マブセ」(1922年)などフリッツ・ラングの犯罪映画のエコーを感じるところがあり、とりわけカー・チェースが印象深い。フィルムの状態がもう少し良ければぐっと印象も変わるかもしれない。

序盤、外国人差別のムードが強くある。現実世界において物凄い勢いで人権意識が向上する一方、90年経っても人間は相変わらずという印象を抱かせもする。作劇としてはこの部分は一種のミスリードっぽいが、印象に残ったので書いておきます。

世界各地で極右が台頭している。 しかし、 彼らが “移民が仕事を奪う” と言うのは概ね嘘である。どこの先進国でも、移民がそうでない人々がやりたがらない仕事をこなしているという側面があるのを無視してはならない。移民を必要以上に排斥するとその国の国力が衰えるのは、EUを抜け東欧からの出稼ぎ(これも広義の移民に入る)を排斥した後混乱・経済停滞したイギリスを見ると明らかだ。

この記事へのコメント

2024年06月20日 15:47
ルノワールなどという、いわゆる名匠の手になるものなので、オカピーさんはそれなりの評価をするかと思いましたが、似たような点数で、なんとなく安心。
アマゾンプライムでは、ほとんど行き当たりばったりのチョイスをしていますが、往年のフランス映画だと、デュヴィヴィエなども行き当たりますね。
オカピー
2024年06月20日 22:40
ボーさん、こんにちは。

>ルノワールなどという、いわゆる名匠の手になるもの

ジャン・ルノワールは左脳的には難しい監督で、「ゲームの規則」などの凄味が解るまでにはかなり時間がかかりました。
 他方、カイエ・デュ・シネマとかヌーヴェル・ヴァーグの連中が褒めまくるので、それに倣って高評価する人たちが多い。本作などフィルム・ノワール史的に重要という面はあるとしても、ジャンル映画としては問題が多いと思いましたね。

>デュヴィヴィエ

は大体観ているので再鑑賞という感覚で見ていますが、ルノワール作品には未鑑賞作品も結構あるので、初鑑賞としてぼつぼつ観ていきますよ。