映画評「オリ・マキの人生で最も幸せな日」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年フィンランド=スウェーデン=ドイツ合作映画 監督ユホ・クオスマネン
ネタバレあり

偶然にも16mmで撮った映画が続く(結果的に一日おくことになった)。先日観た「コンパートメントNo.6」のユホ・クオスマネン監督の旧作でモノクロ。フィルムはやはり良いねえ。

オリ・マキなるは、1962年にフェザー級で世界タイトル戦を戦ったフィンランドでは恐らく有名なプロ・ボクサー。
 流れのある梗概を書いても余り意味がない感じのお話で、世界タイトル戦が決まったオリ・マキ君(ヤルッコ・ラフティ)は、マネージャー(エーロ・ミノロフ)に厳しく指導されるが、恋人ライヤ(オーナ・アイロラ)に夢中になる余り減量にも力が入らない。試合が迫っても3kg以上基準をオーヴァ―し、彼女を追っかけて故郷に帰ってしまったりもする。
 それでも有言実行のところもある彼は何とか体重をクリアし試合に挑むも2ラウンドで呆気なく負ける。
 試合後のパーティーも居心地悪く、ライヤと共に会場を去る。

僕が感動したのは、二人が河(もしくは海)沿いの道を歩いていると老夫婦とすれ違う最終ショットである。それ自体が感動的と言うわけではなく、その老夫婦が本物のオリ・マキと今でも仲良く暮らしていたライヤの夫婦ご当人であったことで、字幕を見てじーんとしてしまった次第。

そして、ライヤと決定的に結ばれた故にこの日が多分オリ・マキの人生で最も幸せな日の所以なのである。

「コンパートメントNo.6]同様この映画も小市民男女の営為を描いて極めてチェーホフ的であり、ほのぼのとした幕切れの味はチェーホフの中でも最良の短編の読後感に似て快い。

アニメ・キャラクターのりまきせんべいは則巻千兵衛と書くらしい。

この記事へのコメント

モカ
2024年06月15日 13:15
こんにちは。

>その老夫婦が本物のオリ・マキと今でも仲良く暮らしていたライヤの夫婦ご当人であったことで、字幕を見てじーんとしてしまった次第。

 えぇ〜気付きませんでした! 
 確かに再確認したら “ Old happy couple” というのが最後にありました。
 よく気付かれましたね。

試合に勝つか否か➕恋が成就するか否か
 この組み合わせは4パターンありますか?
 どっちも得られないのはゾラとモーパッサン? 
「外套」の作者もそっち系?
 誰でしたっけ? ゴーゴリ? ゴーリキ? (^^)

 ディケンズなら紆余曲折を経てめちゃくちゃ長い話に引っ張ってめでたく両方共ゲットですね。
オカピー
2024年06月15日 21:23
モカさん、こんにちは。

>確かに再確認したら “ Old happy couple” というのが最後にありました。
>よく気付かれましたね。

最近集中力が下がっているのですが、妙なところで集中したりするのですよ。
たまにはちゃんとしているところを見せないとね^^

>どっちも得られないのはゾラとモーパッサン? 
>「外套」の作者もそっち系?

ゾラやモーパッサンは自然主義で、どうしても悲劇傾向にありますね。
「外套」はゴーゴリですね。ドストエフスキーより少し前の人。
ゴーリキーは社会主義作家。

チェーホフは悲劇でも後味が良いんですよね。不思議な作家です。

>ディケンズなら紆余曲折を経てめちゃくちゃ長い話に引っ張ってめでたく両方共ゲットですね。

実際、この間読んだ「荒涼館」もそんな感じでしたね。