映画評「遠雷」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1981年日本映画 監督・根岸吉太郎
ネタバレあり
懐かしいなあ。学生時代に観て、えんらい(=えらく=ひどく)ショックを受けた。
永島敏行の主人公が見合いで外に出た後相手の石田えりといきなりモーテルにしけこむのである。当初彼女も慄いたようにさすがに吃驚でござる。主人公のドライな性格の一端がよく表現されたエピソードと思う。
栃木県の田園地帯。今や主役としてトマト栽培を担っている農業青年・永島が、母親・七尾玲子が持ってきた見合い話に応じてえりちゃんと会い、モーテルにしけこんだ結果結婚をするような流れになる。
他方、稲作をする悪友ジョニー大倉は、永島君も手を出したスナックの女・横山リエに真剣になる余り大金を持ち出した末に、実は人妻である彼女と駆け落ちし、複雑な性格を持った女と複雑な逃避行をするうちに過失致死させてしまう。
それが判明した当夜は主人公の祝言の日、どんちゃん騒ぎの中彼は抜け出して大雨の中悪友の為に駆けずり回ることになり、結局大倉の自首に付き添う。家に戻った彼は恐らく悪友のことを思って涙ながらに「わたしの青い鳥」を歌い、えりちゃんも歌って涙を流す。
同じ涙でも友の不幸を思う涙と自分の幸福に流れる涙が絡み合うこの幕切れに凄味を感じる。
土着的な描写による野趣と、主人公の周囲の男女が腐れ縁に自縄自縛となっていてどうにも淀んだ空気に溢れ、必ずしも好みのタイプではないけれども、同時に線の太い描写に魅力を覚えたりもする。
中上健司的な土着的な物語なので、TVでの柔和なイメージが強い立松和平が原作者と知って少々驚いた。
ロマンポルノ出身・根岸吉太郎の一般映画第一作(ロマンポルノの気分は依然濃厚)で、結局根岸作品ではこれを一番買っているかもしれない。
そんな中で一見ドライであっても友情に厚く人情も持っている主人公なタフぶりを見るのは爽快でもある。石田えりの新妻もなかなかドライでしっかりしていて、多分子供を産んだ後かかあ天下を敷く雰囲気が濃厚。いずれにしても似合いのカップルという気がする。
石田えりの天真爛漫とジョニー大倉の破滅型ぶりが印象深く、その好演が目を引く。固定ショットで画面を切り替えずに為されるトマトハウスでのジョニー大倉の独白は少々長すぎると思うが。
映画デビュー作の前作「翼は心につけて」(実話の難病もの)と全く違う役を演ずる石田えりに、えんらい驚いた、のも憶えている。
1981年日本映画 監督・根岸吉太郎
ネタバレあり
懐かしいなあ。学生時代に観て、えんらい(=えらく=ひどく)ショックを受けた。
永島敏行の主人公が見合いで外に出た後相手の石田えりといきなりモーテルにしけこむのである。当初彼女も慄いたようにさすがに吃驚でござる。主人公のドライな性格の一端がよく表現されたエピソードと思う。
栃木県の田園地帯。今や主役としてトマト栽培を担っている農業青年・永島が、母親・七尾玲子が持ってきた見合い話に応じてえりちゃんと会い、モーテルにしけこんだ結果結婚をするような流れになる。
他方、稲作をする悪友ジョニー大倉は、永島君も手を出したスナックの女・横山リエに真剣になる余り大金を持ち出した末に、実は人妻である彼女と駆け落ちし、複雑な性格を持った女と複雑な逃避行をするうちに過失致死させてしまう。
それが判明した当夜は主人公の祝言の日、どんちゃん騒ぎの中彼は抜け出して大雨の中悪友の為に駆けずり回ることになり、結局大倉の自首に付き添う。家に戻った彼は恐らく悪友のことを思って涙ながらに「わたしの青い鳥」を歌い、えりちゃんも歌って涙を流す。
同じ涙でも友の不幸を思う涙と自分の幸福に流れる涙が絡み合うこの幕切れに凄味を感じる。
土着的な描写による野趣と、主人公の周囲の男女が腐れ縁に自縄自縛となっていてどうにも淀んだ空気に溢れ、必ずしも好みのタイプではないけれども、同時に線の太い描写に魅力を覚えたりもする。
中上健司的な土着的な物語なので、TVでの柔和なイメージが強い立松和平が原作者と知って少々驚いた。
ロマンポルノ出身・根岸吉太郎の一般映画第一作(ロマンポルノの気分は依然濃厚)で、結局根岸作品ではこれを一番買っているかもしれない。
そんな中で一見ドライであっても友情に厚く人情も持っている主人公なタフぶりを見るのは爽快でもある。石田えりの新妻もなかなかドライでしっかりしていて、多分子供を産んだ後かかあ天下を敷く雰囲気が濃厚。いずれにしても似合いのカップルという気がする。
石田えりの天真爛漫とジョニー大倉の破滅型ぶりが印象深く、その好演が目を引く。固定ショットで画面を切り替えずに為されるトマトハウスでのジョニー大倉の独白は少々長すぎると思うが。
映画デビュー作の前作「翼は心につけて」(実話の難病もの)と全く違う役を演ずる石田えりに、えんらい驚いた、のも憶えている。
この記事へのコメント
☆ 永島敏行
邦画をほとんど観ない私が言うのもなんですが、邦画史上最高にゴム長とビニールハウスが似合う青年だったと思います。作っているのがトマトというのがまたいいですね。
☆立松和平と中上健次
どちらもそれぞれ1、2冊しか読んでいない私が言うのもなんですが、いかにも団塊のハシリ世代な感じ(根性がある!)がしますね。
でも中上健司はこんなもんでは済ませませんよ(笑)
血と土地の呪縛が凄いですから。それに比べたら和平さんは平和です。
フォークナーやマルケスの影響云々で語られる中上に比べると和平さんは忘れられていく存在かな…? 盗作騒ぎも何度かありましたしね。
>☆ 永島敏行
>邦画をほとんど観ない私が言うのもなんですが、邦画史上最高にゴム長とビニールハウスが似合う青年だったと思います。
主役俳優にしては珍しく土臭いんですよね。
僕が考えもしない観点が新鮮です^^/
>でも中上健司はこんなもんでは済ませませんよ(笑)
>血と土地の呪縛が凄いですから。
僕は原作一つ、映画版二つくらいしか見ていませんが、何となく解ります。
それこそ土地から出ることができない感じ。
>それに比べたら和平さんは平和です。
モカさんも地口と来ましたか^^
和平の平和、平和な和平。
昭和の最後の文字と平成の最初の文字をくっつけると【和平】です、なんてくだらないことも考えてしまいました^^;
>盗作騒ぎも何度かありましたしね。
聞いたことがあります。
文筆業では、映画や音楽と比べて、問題になることが多いですね。
それと石田えりが初めて永島敏行の家に行く。母親・七尾玲子が姑(永島敏行の祖母)原泉の事で愚痴をこぼす。すると、石田えりがちょっとこの家に嫁入りする気がなくなったかなあ・・・と言う気配。あの場面も好きでした。
結婚は二人だけでなく、お互いの家族の事もあれこれ関係してきます(苦笑)。
>大学に入学した頃にこの作品を見ました。
時期は少し違うでしょうが、僕も大学生の時に観ました。
純情だった僕は、主人公たち二人にびっくりしましたなあ(笑)
>永島敏行と石田えりのお見合いの場所。いかにも田舎(失礼!)のレストランって言う感じでいいなあ~!
群馬県のお隣の栃木県。
隣県だけれども結構風俗が違う。時に言葉のイントネーションは、栃木や茨城は東北南部に近いのに対し、群馬県(中でも西毛=西群馬)は中山道沿いに発展したところなので、東京西部より標準語に近い、と思います。
中山秀征や井森美幸など、群馬県出身のタレントたちは生まれた時からああいう話し方をしていたわけです。
>石田えりがちょっとこの家に嫁入りする気がなくなったかなあ・・・と言う気配。あの場面も好きでした。
なるほど。
二人とも現実主義的。そういうのをドライとも言うわけですが^^
>結婚は二人だけでなく、お互いの家族の事もあれこれ関係してきます(苦笑)
実感がこもっていますねえ。
色々つらいものがありますよねえ。相方の家に許可を戴きに行った時に、“きちんとした格好で来なかったらぶん殴ってやろうと思っていた”とその場で言われましたよ。昔の親父は怖かった。
僕はこの作品をテレビで見ました。もう内容もうろ覚えです。軽トラを運転しながら永島敏行がトマトを1個100円で売る。助手席には石田えりが乗っている。100円玉がいっぱい入ったビニール袋を持ってこれまた田舎では一番お客さんが集まりそうなデパートに行って石田えりにお洒落な洋服を買ってやる。あの場面も良かったです。
>相方の家に許可を戴きに行った時に、“きちんとした格好で来なかったらぶん殴ってやろうと思っていた”と
それは怖いですね~!僕はどうだったかな?夕食をご馳走になってだいぶ酔っぱらって相手のお父さんとツーショットを撮ったのは覚えています。
>同じ下宿の先輩が栃木県出身で結構訛っていました。同級生の群馬県出身者は標準語っぽかったです。
概ねそんなもんだと思います。
東毛(東群馬)は多少栃木っぽいところがあるかもしれませんg。
>軽トラを運転しながら永島敏行がトマトを1個100円で売る。助手席には石田えりが乗っている。
記憶の通りです^^
>田舎では一番お客さんが集まりそうなデパートに行って石田えりにお洒落な洋服を買ってやる。あの場面も良かったです。
これまたその通りです。
よく憶えていますねえ。僕は本数を見るので、どんどん忘れます。
職業病みたいなものです。
>悪友のことを思って涙ながらに「わたしの青い鳥」を歌い
呆然とした状態で歌う。仲間たちがどうするのかと思ったら、それに合わせて歌ってくれる。いい場面でした。
アイドル歌手としてのピークが随分過ぎた桜田淳子があの場面を見てうれしく思ったそうです。
>東毛
ウィキペディアにも載っていますね。
>>「わたしの青い鳥」
>仲間たちがどうするのかと思ったら、それに合わせて歌ってくれる。いい場面でした。
しかし、彼らは彼がどんな気持ちで歌っているか知らない。知っているのは観客たる僕たちだけ。グッと来ますね。
>桜田淳子
ああっ、勿体ないことに、大昔から自民党の大ぜいに影響力を持って来、依然持っている(持っていたとまだ過去形では言えない)、かの政治結社のような宗教団体に入信しなければ、女優としてもぐっと成功したであろうし、歌手としてもぐっと違う形で活動できたであろうに(今でもまがりなりにやっているらしい)。
https://www.youtube.com/watch?v=SL90dKdHB98
「十七の夏」。夜のヒットスタジオでしょうか?
学生服のCMで学生服を着た桜田淳子と男優たちが「♪特別に~愛してよ」と歌いながら歩くのを見て、当時小学生だった僕は「高校生になったら、あんな楽しそうな世界が待っているのかな?」と思いました。
>知っているのは観客たる僕たちだけ。グッと来ますね。
そうやって観客に優越感を持たせる?そこが映画の良いところなのかも知れません。
>ジョニー大倉の破滅型ぶり
まさに好演でした。大学に入った頃に見た「悪魔の部屋」での演技も凄かったです。
>もしかしてオカピー教授は桜田淳子のファンだったのでしょうか?
いや、もうビートルズに嵌っていましたから、とりわけそんなことはないです。
三人娘の中では外見上は一番好みだったかもしれません。
要は、宗教団体(それもかなり怪しげな。最高裁も念書は無効という判断を出しましたね)にはまったのが勿体ないと思うわけです。
歌手としてはともかく、「お引越し」での演技を見れば有望な女優だったのは確かなので、映画界の損失だったかもしれません。
>「十七の夏」
余り聞いていなかったはずですが、知っていますな(笑)
洋楽に傾いていた僕が知っているのだからヒットしたのでしょう!
>学生服のCMで学生服を着た桜田淳子と男優たちが「♪特別に~愛してよ」と歌いながら歩くのを見て
これは憶えていないです。
>そうやって観客に優越感を持たせる?
サスペンスに有効な手法ですね。多かれ少なかれサスペンスは“観客だけが知っている”という見せ方をします。断然これが巧かったのはヒッチコック。
これをしないとただのショック演出になってしまいます。
ショック演出は、映画芸術的には下の下です。
桜田淳子と言えば、朝ドラ「澪つくし」で主人公(沢口靖子)の異母姉役も良かったです。
>三人娘の中では外見上は一番好みだったかもしれません。
「澪つくし」がBSで再放映されていた頃、ネットで話題になっていました。「三人娘の中で一番美人は桜田淳子。森昌子も髪を伸ばすと結構美人。一番ブスなのは・・・・。」それ以上は書きません(汗)。僕はその人が三人娘の中では一番好みでしたが(苦笑)。
>ショック演出は、映画芸術的には下の下です。
その失敗例もたくさんあるでしょうね。
>「お引越し」。まだ子供だった頃の田畑智子が出演した映画ですね。
そうです。
昨日布団に入っていると、突然、桜田淳子は確かに出ていたよなあ、と突然自信がなくなりました。歳を取るということはこういうことかと思いますよ。
>僕はその人が三人娘の中では一番好みでしたが(苦笑)。
偶然にも、昨日読んだ「サイドカーに犬」という小説に、主人公たちが三浦友和と結婚したばかりの山口百恵の家を見に行く場面がありましたよ。
山口百恵のCDは全部持っています。図書館からCD-BOXを何回かに分けて借りてコピーしただけですけど。
最終的に物凄い表現力を付けた彼女こそ、あの年齢での引退は勿体なかったなあ。
それよりもガザ地区への攻撃が相変わらず続いているのが悲しいです。
>その意味では、このコメントは「遠雷」でされたほうが良かったかもしれないです。
そうですね。失礼しました。
>偶然にも、監督がこのコメントをした「遠雷」の根岸吉太郎でしたよ。
「探偵物語」「ウホッホ探険隊」の監督ですね。彼の作品をこれからいろいろ見たいです。
>トランプ前大統領が狙撃された昨日。僕が昔お世話になった元上司が「古今東西テロはなくならない。」と言っていました。
そう、人間が利口にならない限り。
今回の事件に絡んで稲田朋美を始め、安倍元首相狙撃事件をテロと言う人がいますが、あれは個人的な恨みを向けただけなので、単なる殺人です。
ある学者がイスラム教徒に殺された事件がありますが、あれもテロではありません。宗教絡みですが、動機は個人的恨みです。
現在の定義では、テロなるは、政治的な理由で政治的影響を持つ者を暴力をもって失わせるか、あるいは不特定の人々を殺傷することなどで政権や権力者を動かすことです。
>それよりもガザ地区への攻撃が相変わらず続いているのが悲しいです。
ウクライナも。