映画評「そばかす」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・玉田真也
ネタバレあり

昨年後半WOWOW放映を録画したが、欧米映画放映作の低調(WOWOW放映の選択の問題もあり)のこの時代、邦画ばかりになるのも嫌なのでここまで観ずにいた。しかし、今月に入ってことのところプライム・ビデオなどによる古い映画か再鑑賞作品に傾倒しすぎている。これも嫌なので録画したのを思い出して観てみた。

玉田真也なる監督はTVが主たるフィールドらしく、僕は初めて観るはずが、映像哲学を持っているように感じた。例えばアップは主人公にしかなく、それ以外の人物に関してはミディアム・ショットが一番の寄りである。出番の多い家族はフルショット以上のロング(引き)でしか撮らない。

コールセンターに務める30歳蘇畑佳純(三浦透子)は、後で正確に説明されるが、アロマンティック・アセクシャル(恋愛感情も性的関心もない)女性で、その為母親(坂井真紀)が結婚を強制するのが嫌でたまらない。知らないまま敢行された見合いの場で会ってラーメン店店員(伊島空)とは意気投合するが、彼は彼女のアロマンティックを理解できない。多分この類の人々はLGBTQよりぐっと少ないと思われ、結局二人の関係は続かない。
 久しぶりに出会った男性の紹介で幼稚園に勤め始めた佳純は、同じように久しぶりに再会した同級生で元AV女優の真帆(前田敦子)に触発されて、幼稚園のデジタル紙芝居でシンデレラの結婚したがらないバージョンを作って、真帆の父親でもある議員候補から窘められる。
 しかし、やがて映画に誘ってくれた幼稚園の後輩(北村匠海)が彼女の立場を真に理解するのを知って前向きな気持ちになる。

僕にとっては、アロマンティックを主題あるいは主人公にした映画を観るのは初めてで、面白味を覚えたが、こういう人物はやたらにいないので、観客が理解するのも難しいところが出て来る。
 具体的には、妹にレズビアンなんだろうと指摘された時の怒りの激しさなど理解しにくい。自分の体験を含めて語ると、多くの人は、事実を指摘された時以上に、事実と全く違うことを言われると怒る。さて、LGBTQではないが我々とも違う彼女は何故怒ったのか? やはり事実と違うことに対するごく一般的な怒りで、そこへ彼女の置かれたシチュエーションが触媒になって働いたということだろう。

鑑賞者によっては、こうしたことがもやもや感となり、真帆の言動と相まって説教臭い印象を覚えかねない。僕も彼女が父親の議員候補に吐く言葉などがフェミニズム的で映画の台詞として煩く感じた。
 真帆が結局結婚を選ぶことで、彼女の主張は一時的な怒りに過ぎず、必ずしもこの映画の主題でないことに加え、佳純の立場とのコントラストを生む効果があるとは理解できるが、それが主題でもないのにプロバガンダ的に見られるのは得策ではない。

ヒロインが妹夫婦の不倫問題に巻き込まれる(そこで先述のレズビアン発言がある)修羅場で、カメラのポジションが180度変わる。狙いはよく解らないが、見せ方の工夫として挙げて起きたい。

ヒロインが故郷に戻った人々に踊らされるお話。“そばかす”はそんなヒロインの名前を縮めたもの(映画内ではいっさい使われない)。

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