映画評「哀しみのトリスターナ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1970年スペイン=フランス=イタリア合作映画 監督ルイス・ブニュエル
ネタバレあり
僕が映画ファンになった1970年前後に「悲しみの~」「哀しみの~」という邦題が流行っていた。正にその頃公開されたのでこんな題名が付けられたが、この題名とカトリーヌ・ドヌーヴの名前に釣られて観に行ったであろうミーちゃんハーちゃんが期待するような内容とは言えない。
何と言っても監督がルイス・ブニュエルであるのだから。とは言っても、ブニュエル先生としては甘めであります。
3回目の鑑賞と思う。
1920年代のスペイン。親を失って貴族フェルナンド・レイに引き取られた少女トリスターナは現在芳紀16歳のカトリーヌ・ドヌーヴとなっている。養親として慈しんでくれる限りは愛していたレイおじさんは、持ち前の好色ぶりを発揮して、娘を内妻としてしまう。
これに怒りを感じた彼女は、召使ローラ・ガオスと示し合わせて、知り合った画家フランコ・ネロと逢瀬を繰り返す。レイは怒るが、二人の愛情関係を止められず、二人は駆け落ちする。
2年後カトリーヌのトリスターナが脚に腫瘍を得て帰還して手術する。ネロは去る。
この頃からレイは変心して親身に彼女の面倒を見、嫌っていた教会にも行き、念願の結婚も果たす。しかし、彼女は彼が危篤に陥ると窓を開けて寒気を入れ、医者を呼ばない。男としての欲を示した為にレイは復讐鬼となったトリスターナに遂に振り向いてもらえない。
哀しいのはトリスターナならで、レイのドン・ロペである。
ありきたりではない代わりにそう強烈とも言えないドラマだが、最もブニュエルらしいのは、トリスターナがローブをはだけて召使いの聾啞の息子に裸身を晒す辺り。恐らくドン・ロペは晩年裸身も拝ませて貰っていない筈で、そこまで屈折しなければならなかった彼女の心理が我々観客に変な同情を引き起こす。その意味では「哀しみのトリスターナ」も満更的外れではない。
そう言えば、1973年のローリング・ストーンズのヒット曲に「悲しみのアンジー」というのもありました。それを考えると、「悲しみの~」「哀しみの~」ブームは映画から始まったのか音楽から始まったのかというところですかね。60年代に「悲しき~」という邦題がポップスのヒット曲にやたらにあったので、音楽のほうからかな?
1970年スペイン=フランス=イタリア合作映画 監督ルイス・ブニュエル
ネタバレあり
僕が映画ファンになった1970年前後に「悲しみの~」「哀しみの~」という邦題が流行っていた。正にその頃公開されたのでこんな題名が付けられたが、この題名とカトリーヌ・ドヌーヴの名前に釣られて観に行ったであろうミーちゃんハーちゃんが期待するような内容とは言えない。
何と言っても監督がルイス・ブニュエルであるのだから。とは言っても、ブニュエル先生としては甘めであります。
3回目の鑑賞と思う。
1920年代のスペイン。親を失って貴族フェルナンド・レイに引き取られた少女トリスターナは現在芳紀16歳のカトリーヌ・ドヌーヴとなっている。養親として慈しんでくれる限りは愛していたレイおじさんは、持ち前の好色ぶりを発揮して、娘を内妻としてしまう。
これに怒りを感じた彼女は、召使ローラ・ガオスと示し合わせて、知り合った画家フランコ・ネロと逢瀬を繰り返す。レイは怒るが、二人の愛情関係を止められず、二人は駆け落ちする。
2年後カトリーヌのトリスターナが脚に腫瘍を得て帰還して手術する。ネロは去る。
この頃からレイは変心して親身に彼女の面倒を見、嫌っていた教会にも行き、念願の結婚も果たす。しかし、彼女は彼が危篤に陥ると窓を開けて寒気を入れ、医者を呼ばない。男としての欲を示した為にレイは復讐鬼となったトリスターナに遂に振り向いてもらえない。
哀しいのはトリスターナならで、レイのドン・ロペである。
ありきたりではない代わりにそう強烈とも言えないドラマだが、最もブニュエルらしいのは、トリスターナがローブをはだけて召使いの聾啞の息子に裸身を晒す辺り。恐らくドン・ロペは晩年裸身も拝ませて貰っていない筈で、そこまで屈折しなければならなかった彼女の心理が我々観客に変な同情を引き起こす。その意味では「哀しみのトリスターナ」も満更的外れではない。
そう言えば、1973年のローリング・ストーンズのヒット曲に「悲しみのアンジー」というのもありました。それを考えると、「悲しみの~」「哀しみの~」ブームは映画から始まったのか音楽から始まったのかというところですかね。60年代に「悲しき~」という邦題がポップスのヒット曲にやたらにあったので、音楽のほうからかな?
この記事へのコメント
カトリーヌ・ドヌーブの映画をリアルタイムで初めて観たのは「昼顔」か「ロシュフォール…」なんですが、本作の公開時の記憶はないですね。ポスターくらいは目に入っていたかもしれませんが、何せ先生と違って映画ファンなる自覚もなく、映画雑誌もチェックしていませんでしたしね。
そんな私が言うのもなんですが、当時のミーちゃんハーちゃんの女子は「ある愛の歌」とか「ロミオとジュリエット」男子はマカロニウェスタンや007、スティーブ・マックィーンあたりを押さえましたよ。(東京あたりのインテリア系ミーちゃんの事情はわかりませんが、多分、地方都市ではそんなもんでした。ブニュルなんか知らんがな)
ドヌーブっていつ頃から美人の代名詞になったのかなぁ。私らの10代の頃の上方漫才で美人と言えば「エリザベス・テイラァ」で男前の代名詞はクラーク・ゲイブルにゲイリィ・クーパーでしたよ。その後アラン・ドロンが他を寄せ付けない美形の象徴になりましたね。
正直なところドヌーブって当時、テレビで観ていた「奥様は魔女」のサマンサ役のエリザベス・モンゴメリーに似ていると思いました。
>
「悲しみの~」「哀しみの~」ブーム
元祖は石川啄木あたりですかね? その頃から”悲しき“ ブームがあって、戦中は流石にそんな女々しい事を言っている世相でもなくて、戦後美空ひばりの「悲しき口笛」で復活したとか? 「悲しき雨音」は好きですけど、その後ビートルズが悲しみをぶっとばしてくれてせいせいしましたよ。邦題の作者もうんざりしていたのかもしれませんね。
>地方都市ではそんなもんでした。ブニュルなんか知らんがな)
いや、だからですよ、カトリーヌ・ドヌーヴと「哀しみの~」に釣られて・・・と言う次第で^^
>ドヌーブっていつ頃から美人の代名詞になったのかなぁ。
多分1960年代後半、リズが太ってからでしょう。
リズの美貌は余りに完成されているので、ちょっとした脂肪でバランスが崩れてしまう。歳を取っても痩せると元の超美人になりました。
その点ドヌーヴ(何故かバーグマンとドヌーヴの場合は、男優同様ファースト・ネームで余り呼ばれない、これ不思議)は太っても顔のイメージが変わらない。顔に脂肪が付きにくいということもあるのでしょうけど。
>「悲しみの~」「哀しみの~」ブーム
大昔のことはともかく、少し調べてみました。音楽はCD音源を持ってるもののみ。映画も主だったものだけ。
(★が音楽、☆が映画)
★悲しき16才(邦1960)
★悲しきインディアン(1960)
★悲しき足音(1960)
★悲しき少年兵(1961)
★悲しき街角(1961)
★悲しき片想い(1961)
★悲しき慕情(1962)
★悲しき雨音(1963)
★悲しき願い(1965)
☆悲しみの天使(1965)
★悲しみはぶっとばせ(1965)
★悲しき戦場(1966)
☆悲しみは星影と共に(1966)
★悲しき天使(1968)
★悲しみのジェットプレーン(1969)
★悲しき鉄道員(1970)
★悲しみの兵士(1970)
☆哀しみのトリスターナ(1971)
☆哀しみの街かど(1971)
☆悲しみの青春(1971)
☆哀しみの終わるとき(1972)
★悲しみのアンジー(1973)
☆哀しみの伯爵夫人(1976)
"悲しき”は圧倒的に音楽界で人気。
“哀しみ・悲しみ”は映画界で人気。しかし、どちらが流行りの元になったかは微妙。「悲しみのジェットプレーン」「悲しみの兵士」が音楽界でブームを起こした感が上のリストから僅かに伺えるかといったところ。
あんまり悲しくない悲しみが溢れかえっていますね! データベースからのコピーですか? それなら簡単だけど… とりあえずはお手数をおかけしました。
ついでに、坂本九「悲しき60才」弘田三枝子「悲しきハート」も追加願います。
レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」(または南回帰線)
この”悲しき” はどうなのかと調べてみたら「Tristes tropiques」なので直訳でした。
このトリステが悲しいとう意味ですが、トリスターナはトリステの派生形とも考えられませんか? 名前の中に既に悲哀が込められているという事でしょうか?
アントニオ カルロス ジョビンの曲に「トリステ」がありましたが、ラテン系は悲しいのが結構好きみたいですね。
>データベースからのコピーですか?
それなら楽でしたがねえTT
音楽は、僕が買った幾つかのクラシック・ポピュラー音楽全集のようなもののパンフレットから題名を拾いました。
映画は、僕の心の師匠たる双葉戎三郎先生「ぼくの採点表」60年代と70年代にあったものから。だから無名な映画に抜けているものありなんです。
>トリスターナはトリステの派生形とも考えられませんか? 名前の中に既に悲哀が込められているという事でしょうか?
その可能性もありますね。
そしたら、新発見ですよ!