映画評「処女オリヴィア」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1950年フランス映画 監督ジャクリーヌ・オードリー
ネタバレあり

40年近く前に双葉十三郎師匠の「ぼくの採点表」完全版が出る前のミニ版で高く評価されていたのを知ってずっと見たかった作品。アマゾン・プライムのおかげで観ることが出来ました。謝謝。
 僕にしても師匠の言うほどの感動はなかったが、 filmarks 最後の投稿者の師匠への批判はかなり的外れと思う。師匠は女性監督ジャクリーヌ・オードリーのフランス映画的なムード表現の柔らかさを、S(エス=シスター=女生徒の同性愛的傾向)映画としての先駆的ドイツ映画「制服の処女」(監督レオンチーヌ・ザガン)と比較し、監督名の硬軟の印象がそのまま内容・画面の差として現れている旨仰っている。つまりドイツ映画のほうが論理的で硬派(ナチス批判も絡んでいるか)と言っているのに過ぎない。この映画のフランス映画らしく柔らかいことはある程度の感性があれば否定できないだろう。投稿者の文を読むと師が「制服の処女」を貶しているように読み取れてしまうが、好悪を別にしてどちらも同じ☆☆☆☆(最高評価、このブログの☆☆☆☆とは違う)を付けて作品に優劣を殆ど付けていない。
 師匠がフランス映画贔屓という意見も放っているが、誤解を招く。トーキー初期までに限ればフランス映画と同じくらいドイツ映画の評価に高いものが多い。戦後はナチスによる文化破壊の後遺症とドイツの敗戦が絡んで比較にならないので、参考までに「ぼくの採点表 戦前編」を調べてみたところ、☆☆☆☆以上は24本(仏):19本(独墺)、☆☆☆☆★以上は共に6本。取り上げたフランス映画が95本、独墺映画が105本であるから、高評価率でフランス映画は25%、ドイツ映画は18%。極端に偏っているとは言えない。
 この投稿者の意見で明確に正しいのは “双葉十三郎は姐御タイプが好き” というところで、或いは「日本映画 ぼくの300本」を読んだろうか? 一番好きな日本の女優が伏見直江という僕が殆ど見たことがない女優で、鉄火肌の姐御ぶりが良かったと仰っている。しかし、オードリー・ヘプバーンもご贔屓だったりするのでそれほど単純ではない。

さて、本作の方であるが、フランスの寄宿制女学院のお話で、ジュリー先生(エドウィジュ・フーイェール)贔屓とカラ先生(シモーヌ・シモン)贔屓に分れて女生徒たちがSの思いを爆発させている。英国からの乙女オリヴィア(マリー=クレール・オリヴィア)はジュリーに傾倒しても振り返って貰えない、という内容。

海外サイトのそれほど多くない英語のコメントを読んでも、双葉先生同様、エドウィジュ・フーイェールにぞっこんとなった人もい、ジャクリーヌ・オードリーという女性監督が過小評価されていることを指摘する人もある。どちらかと言えば、 filmarks 最後の投稿者が少数派である。この映画を観た時余程機嫌が悪かったに違いない。かく言う僕も人のことは言えない。翌日に控えた祭の挨拶が気になって画面に集中できていなかったのである。 

双葉師匠はエドウィジュ・フーイェールを見るに尽きると仰っているが、女優男優に恍惚となるには大きなスクリーンで見ないとダメである。比較的画質の良い状態ではあるが、内容を超えて恍惚となるには程遠い。それでも一見の価値があると思うので、「制服の処女」を観て感激した人は比較検討すると面白い筈。

対訳がジュリー校長、カラ校長となっていたので混乱した。ジュリーは校長かもしれないが、カラは先生だろう。

ところで、Sは先天的な同性愛と似て非なるもので、同性愛と同等視しないほうが良いと思う。

この頃のフランス映画は良かった。かつて一部の人がフランス映画に対して持っていたロマンティックなイメージも誤解であるが、ソフトなイメージは確かにあった。その後その柔らかさの代りに面倒くささが取って代わって現在に至る。

この記事へのコメント

モカ
2024年07月23日 22:35
ちょうど今しがた皆川博子の「倒立する塔の殺人」を読み終えたところです。
これは作者が女学生だった時代、太平洋戦争真っ只中の東京のミッションスクールと府立(途中から都立)女学校舞台にした話で、”S” が出てきましたよ。

彼女たちがモンペをはいて工場で奉仕労働をしながらも恋占いに一喜一憂したりして戦時と言えども都会のお嬢様方はなかなかハイカラさんです。
「チェーホフよりドストエフスキーよ」とかショパンは弾くは、エゴン・シーレを語るはと戦前の教育水準がめっちゃ高いのです。

彼女たちはローマ字占いというのをやっていまして(本当にあったかはわかりませんが)相性占いですかね。
ふたりの名前をアルファベットで書いて共通するアルファベットを消していって残った字数をF→ L→ S →H と当てはめていく、“好きか嫌いか”よりは少し高度な占いですがアルファベットがヘボン式か日本式かで字数が違ってくるのが悩ましいのです。
“作中作”物で面白かった〜 

ヘボンってヘップバーンと同じ綴りだし、時代が違えばオードリー・ヘボンだったかも (^^) なんか間抜けな感じがしますね。
へバーンかへボーンが原音に一番近いでしょうか?
オカピー
2024年07月24日 18:35
モカさん、こんにちは。

>戦前の教育水準がめっちゃ高いのです。

現在の日本人の、日本語への関心の低さに参っています。
YouTubeでオーストリア出身の女の子が正確な日本語を話していて、恐らく彼女のほうが、平均的な同世代日本人より日本語を知っています。しかも、俗語もちゃんと知っているのだから大したものです。
声だけ聞いていれば日本の女性としか思えない。

>ローマ字占い

なかなか凝ったことをやりますな(@_@)

>時代が違えばオードリー・ヘボン

昭和初めには既にキャサリン・ヘップバーンなどと紹介されていますから、明治ならそうでしょう。オウドリィ・へボンくらいですかね。

>へバーンかへボーンが原音に一番近いでしょうか?

そうですね。敢えて言えば、ヘバーンが一番と思います。