映画評「白昼の死角」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1979年日本映画 監督・村川透
ネタバレあり

角川映画ブームの中で作られた、経済犯罪映画の大作である。
 原作は神津恭介を生んだミステリーの大御所高木彬光だが、勿論神津ものではない。いずれにしても横溝正史のような高木ブームは起こらなかった。一応二回目というカウントにするが、四十余年前に観たのは地上波放映での不完全版(2時間半の枠であっても30分以上のカットはある)なので、精細に語れる(既に映画評を書いていた)という意味では今回が初めて。

戦後を賑やかした事件の一つ光クラブ事件が発端のモデルとなってい、20代の僕は本作でその事件を知った。現役東大生を社長とするグループ闇金融事件である。
 本作はその社長(岸田森)が焼身自殺で果てた後、お金儲け以上に社会に対する恨みのようなものを爆発させたように見える最高の頭脳派・鶴岡(夏木勲=夏八木勲)が、その為に、手形を活用した詐欺事件を次々と起こしていく様子を描く。被害に遭うのは、汽船会社の専務(長門勇)、皮革会社の専務(佐藤慶)、薬品会社の専務(成田三樹夫)といった中クラス規模企業の幹部である。

薬品会社の詐欺では架空の中南米小国の公使秘書(エドワード・ジェームズ・オルモス)の治外法権を悪用するという作戦がそれなりに面白いが、サスペンス的には、アルセーヌ・ルパン辺りが考えそうな、国税局の調査と称して本当の社員を締め出して一時的に偽会社を作り上げ、そこへ詐欺対象の企業を招いて手形を交換するという場面が古典的ながら面白い。

鶴岡は専ら作戦を立てるトップで、前線で働くのは九鬼(中尾彬)や木島(竜崎勝)である。鶴岡をめぐってうごめく女性は、闇金融時代からの秘書で後に正妻になるたか子(丘みつ子)と芸者綾香(島田陽子)。彼を絡め取ろうと奮闘する検事に天知茂、主人公に協力する男に千葉真一が扮するなど、周辺の配役も至って豪華。

手形についてもっと詳しければぐっと興味深く成った筈だが、手形は貰う一方だった営業部員(わが社は営業が本業も兼ねてOEM提供先に集金に行った。本来海外市場開拓要員だが、一時的にメーカーも担当した)の僕でも詐欺の数々は一通り楽しめる。

村川透の見せ方は「遊戯」シリーズなどと違ってなかなか落ち着いたもので、三隈研次を想起させないでもない格好良い構図のショットもある。三隅と違って、引き気味の画面の端にいた男女をズームアップするうちに中央に寄せてしまうのは、画面の美しさを考えるとつまらない。そもそもアップにする必要もないと思ったが、これは相当細かいお話。

当時大人気だったダウンタウン・ブギ・ウギ・バンドが歌う主題歌も大ヒットした。僕のお気に入りでした。音楽全体もバンド・リーダーだった宇崎竜童が担当している。

最後に愚痴。原作との比較は重要だが、それを基準に映画の評価をすべからず。映画の評価は他の映画と比べるのが筋である。

パリ五輪開幕。僕が全く関心のない開幕式は日本時間27日朝まだきだが、サッカーと七人制ラグビーは始まった。僕が五輪を重視するのは、普段全くTVがニュースでも扱わないマイナー競技に触れることが出来ることである。昔NHKは地味なヨットなども放映したが、最近は実況なしの配信で見られる程度。やはり実況・解説がないと、ルールのよく分らない手形もといマイナー競技の面白さは伝わりにくい。

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