映画評「ザ・レポート」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年アメリカ映画 監督スコット・Z・バーンズ
ネタバレあり

実はアメリカの報道自由度は日本と五十歩百歩で大して褒められないのだが、こういう告発もののドラマ映画が実名で作れるところには毎度感心させられる。
 製作会社の法務部門とリサーチ部門がしっかりしているからできるわけだが、日本はそれがしっかりしていても、忖度文化が実名による製作を邪魔する。福島原発の事故時の対応を描いた「FUKUSHIMA 50」はほぼ実話なのに、電力会社名も総理大臣の名前も実在しないものに差し替えられていてがっかりさせられた。寧ろ昭和中期に作られた一連の裁判関連映画のほうが実名で作られていたくらいで、日本映画界はここに関しては半世紀前より後退している。今後、少なくとも僕が生きている間は、日本映画にすぐれてかつ真に迫力ある告発ものは出来ないと思う。

前世紀にCIAが国の安全を守るため拷問によって事実を告白させるEITなるプログラムを案出する。暫くしてイスラム過激派容疑者(中には無関係な者もいた)をこれにかけるが、全く効果が見られないので、CIA幹部は別の手段で得た情報をEITの効果と公言し、その存続と自分たちの保身を図ろうとする。
 それを調査したのが、ダイアン・ファインスタイン上院議員(アネット・ベニング)の下に作られた情報委員会に加わったダニエル・ジョーンズ(アダム・ドライヴァー)ら精鋭数名である。
 CIAは彼の調査にハッキングなど不正があったと保身に頑張るが、逆にCIAの情報委員会への違法な立ち入りを理由に逆襲、その調査の公表に至るのである。実際には彼らの調べ上げた十分の一程度の概要なのだが、それでも効果は絶大、当時のオバマ大統領によりCIAはEIT廃止を余儀なくされる。

告発ものではあるが、アメリカでは既に周知のお話であろうから、ジョーンズやファインスタインの奮闘を見せる伝記映画として作られたのであろう。

スタジオ・ミュージシャンの演奏を聴くようにきっちりしているものの面白味の薄い印象があるが、勉強になるという意味で見応えがある。
 類縁関係にある作品にジョディ・フォスター主演の「モーリタニアン 黒塗りの記録」がある。どちらもイスラム過激派をめぐるアメリカの暗部を焙り出す内容で、黒塗りの書類が出て来る。合わせて見ると益々面白いと思う。

全く関係ない話で恐縮だが、NHKの衛星放送が一本化された為に衛星放送における五輪中継が激減している。以前なら録画を含めてほぼ一日五輪づくしだったが、今回以降録画はほぼないと見ている。配信でかなりカヴァーできるものの、多少料金を下げても、映画の放映本数はさらに減り(BS2時代は週に20本くらいの時代も長くあった)、五輪もこれでは寧ろ割高になった感さえある。

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