映画評「ゆとりですがなにか インターナショナル」

☆☆(4点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・水田伸生
ネタバレあり

2016年に放送されたというTVドラマについては全く知らない。その後日談を描くこの映画版は、TVドラマを見ていなくても大きな支障がないように作られてはいる。しかし、TVを普段から見ないような映画ファンが観ても面白いものとも思えない。

自営業の酒造会社で営業部長を務める坂間正和(岡田将生)は、食品会社時代に動同期なのに上司になってしまった茜(安藤サクラ)と結婚して二人の子供がいるが、暫くセックスレス。彼の悪友たる小学校教師山路一豊(松坂桃李)は女性への意識が色々とあり34歳の今も童貞らしい。

この二人の設定から本作の通奏低音がセックスにあることが解る。

悪友のもう一人道上まりぶ(柳楽優弥)が中国から帰って無職状態で、昔の勤務先で今では韓国資本に乗っ取られた飲食会社から契約打ち切りの話を出されて苦境に陥る坂間酒造に雇って貰う。
 暫くお話は、坂間酒造がいかにこのピンチを乗り切るかが主題となり、彼らはノンアルコールの日本酒製造に乗出す。しかし、これが一応の成功を見ると、まりぶが一家をネタにした中国版YouTubeに投稿する様子をブリッジ(繋ぎ)に、後半は正和の「ハングオーバー」状態での不倫疑惑をめぐる騒動とを絡み合わせたドタバタとなっていく。

僕は下ネタ喜劇が嫌いなので、「ハングオーバー」がダメだったように、本作もそれ以上にがっかりさせられた。宮藤官九郎のコメディーとは必ずしも相性が良くないが、その中でも本作はトップクラスにつまらない。

ハラスメントやLGBTQネタを取り込んで現在を反映させようとしたところがあるものの、おためごかし的な扱いで寧ろマイナスにしかならない。
 多分意図的であろうが、始まって早々に現在の日本語の間違いが数分のうちに3連発されて意気消沈した。一つは “行き(息)詰まる” のつもりの “煮詰まる”、半疑問でしかない “そうなんですね!?” を “納得しました!” の意味で使う誤用、 “妻” のつもりの “嫁”、これなり。この中で一番問題なのは勿論 “そうなんですね!?” である。忖度意識の人が、言葉の知識が足りない為に発明した言い方だ。意味は解るが、 ある年齢以上の人に使うと却って嫌がられる。 半疑問であり、本来 “そうですか!” にあった聞き手の感動が感じられないからである。

ハラスメントを扱いながら、朝鮮・韓国語的な語尾を乱発するのも上品とは言えないだろう。普段ポリ・コレ映画の批判ばかりし、韓国映画のトーン不徹底を指摘していて、差別主義のように思われるかもしれないが、僕は人権は国家の繁栄より重いと思っているので、こういうのを一度ならともかく、何度もお笑いのネタにする料簡には感心しない。

日本人に限ったことではないのだろうが、正しかろうが間違っていようが一度流行り始めるとあっと言う間に同じ表現が広まってしまう。年寄まで使うのだから問題だ。五輪中継を見て思うこと。実況時アナ氏が現在完了を使わないのも困ったものだが、これは一般には広まらない。これが広まったら会話が成立しなくなる。【“~かな”と思う】も色々な意味で問題があるが、最近は【”~のかな”と思う】と言う人が増えて来た。多く “~かな” が肯定的疑問であるのに対して ”~のかな” は否定的疑問であるというのが従来の解釈だが、 現在は必ずしもそういう意味では使われていない。これからこの表現を聞いて育つ子供たちは、否定的疑問として使われた時にきちんと判断できるだろうか? 安部元首相の国葬直前に “(国葬は)良くないのかなと思う” という若者の意見を聞いたが、年寄の感覚では良い(良くないの否定)と捉えるのだが、 どうもご本人は “良くない” と思っているらしかった。 聞き手が頭を使う時代だ。言葉の変化は必ずしも悪くないわけだが、現在の変化は表現を曖昧にし、聞き手に頭を使わせることが多い。言葉は聞き手に解りやすく変わるべきなのだ。

この記事へのコメント

2024年07月30日 12:08
「良くないのかなと思う」
これは
「良くないのかな、とは思う」
だと、そう変でもないかなというのはあります。

>一度流行り始めるとあっと言う間に同じ表現が広まってしまう。年寄まで使うのだから問題だ。

これはほんとうにそうで、書き言葉ではないのならあまりうるさくいうものでもないのかもしれませんが、私が今も「?」なのは
「鳥肌立った」というのが、なにかみてすごく感動しました!という、いい意味で使われるようになったことですね。

はじめて聞いたのは若い子がくだけた会話で言っていたので、若い子の間ではああいうのが流行ってるのかと思っていたら、あっという間に広がって、年配の人も使うようになってしまいました。

あれは気持ちが悪いものを見てぞっとした、とか、いい意味ではなかったはずだし、いまでもそういう負の感じを表すのに使うので、文脈によって読み取らないといけないのですよね。
オカピー
2024年07月30日 21:59
nesskoさん、こんにちは。

>「良くないのかな、とは思う」
>だと、そう変でもないかなというのはあります。

確かに、助詞一つで様相はぐっと変わりますね。

逆に、【良くないかな】と【良くないのかな】の間にある大きな意味の差を考えずに使っている人が多いのが問題ですね。これも助詞一つですが。

面白い現象としては、“かなと思う”を使うことが先にある為に、
“先頭バッターが塁に出るかなが大事です”という高校野球の解説を聞いたことがありますよ。さすがに変であることに気付いて、次の時は“な”がなくりましたが。このように命題の“か”と感想の”かな”の間で大いに混同している人が多い。
2年くらい前に簡単な文章が読めない人が増えたという記事を読みましたが、どうもそれは確からしい。

>「鳥肌立った」というのが、なにかみてすごく感動しました!という、いい意味で使われるようになったことですね。

確かに若い人は使いますね。実際感動してぼつぼつができることはありますから、解らないことはないですが、こういう表現は世代間で?となることがありますね。
 この類に、“しびれる”があります。巨人時代の清原が“緊張する”という意味で使って以来、スポーツ関係者を中心に一気に広まりました。しびれる=陶酔する、という意味としか考えられない僕には未だに違和感があります。