映画評「法廷遊戯」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・深川栄洋
ネタバレあり

偶然にもアングルの付けられた法廷ミステリーが続く。

五十嵐律人なる現役弁護士でもあるミステリー作家の同名小説を、原作ものを任されることの多い深川栄洋が映像に移した。

1年前に弁護士になったばかりの永瀬廉が、同じロースクールを卒業した杉咲花が、そのロースクールの敷地で、大学院に残っていた同窓生・北村匠海を刺殺したとされる事件の弁護を引き受ける。
 永瀬と杉咲花は同じ施設を過ごしてい、彼はその時代に施設長を殺した容疑で少年院送りになりかかったことがあり、それは彼女をセクハラ施設長から守る為の行為とされているが、在学中にその過去がばらされる事件が起きる。その直後に何者かが彼女を探っていることも明らかになるが、その実行犯・大森南朋が逃走すると沙汰は止む。
 やがて事件の審理が始まり、随時挿入されるモノクロによる回想などで、警官だった北村の父・筒井道隆が杉咲花への暴行容疑の末に死ぬことになった経緯が明らかになり、大学院で冤罪に関する研究を続けていた北村が、同窓生二人を巻き込んで殺人(未遂)事件を作り出したことが明らかになっていく。

法廷ミステリーとしての面白さは、法的な見地から再審のできないケースを仕立てられた別事件の審理において明らかにしていくという登場人物の着想にある。北村の目論見を悲劇に傾けさせたのは、ヒロインの永瀬への同じ施設育ち故の意識であるわけだが、それも北村が一応想定していたという設定の為に、途中まで先の展開が予想しにくい、なかなか巧妙な作りになっていると思う。

ただ、序盤ロースクール内で行われる法廷遊戯はYA小説・映画に多いクローズド・サークルものの感覚で、文字通り児戯っぽくて設定的に惹かれない。一応後半への布石・伏線となってはいて、それなりに意味を成しているが、個人的にはそれよりロースクールの教授(柄本明)の問い “冤罪と無実の違いは?” への北村君の答えのほうが、きちっとした伏線として印象深い。

映画界もタイム・パフォーマンスを意識しているか? そう思われる邦画に幾つか当たった。エンド・ロールを含めても97分しかない本作ももう少しじっくり綴ったほうがもっと見応えが出たと思う。一般的に長くない方が有難いが、短ければ何でも良いというものでもない。退屈しないことと見応えは時に矛盾する。

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