映画評「すべてうまくいきますように」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年フランス=ベルギー合作映画 監督フランソワ・オゾン
ネタバレあり
先日の「私がやりました」でフランソワ・オゾンはサムライではないかと述べたが、明快なお話ながらも本作を観ると益々そう思えて来る。原作は、エマニュエル・ベルンヘイム(ベルネイム)という女性作家による自伝。
そのエマニュエルに扮するのはソフィー・マルソーで、80代半ばの父親(アンドレ・デュソリエ)が脳梗塞で倒れる。自分で何もできなくなった彼は生きる気力を失い、尊厳死を希望するようになる。
その実現を託された彼女は、妹パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)と相談しつつも、スイスの尊厳死協会と連絡を取る。先方の説明で、最後の最後で考えを変えることもありうると知って少し落ち着く。
父親は両性愛者で、それが彫刻家の母親(シャーロット・ランプリング)を鬱に追い込んだ過去もあり、現在は現在でジェラール(グレゴリー・ガドボワ)なるBFに高価な時計狙いの為にストーカー的に付きまとわれている。
フランスは尊厳死を認めていない国家であり、皆にゲスと思われているそのジェラールが恐らく通報したせいで、医院に気づかれそうになるわ、警察が動き出しそうになるわ、スイスへ運ぶ救急隊員の一人がイスラム教信者でもう運ばないと言い出したり、色々と騒動があるが、オゾンは(原作では恐らく説明されているであろう)そのピンチの一々をどう潜り抜けたかには全く興味がなさそうで、いきなり尊厳死協会代表(ハンナ・シグラ)から父親が安らかに旅立ったという連絡がエマニュエルに届くだけなのである。
こういう大衆寄りの家族ドラマで、尊厳死というそれぞれの死生観・人間観が絡む難しい問題を扱いながらも、ごく感情的な部分には最小限にしかアプローチしないところにオゾンはやはり純文学の映画作家なのだなあと納得させられるものがある。
姉妹が案外冷静に尊厳死案件を進めていくように見えても、彼女たちが表に見せない葛藤を想像しながら、見ていくべき作品であろう。彼女たちは父親の頑固さに屈服したのではなく、やはり愛情故にその意志に任せたのに違いない。これからは、当人の意志が重要になっていく時代なのでありましょう。
五輪疲れ。配信で有力な日本人選手が出ていないマイナーな競技も観ようと思ったが、同時進行なので思ったようにうまくはいかないのでした。
2021年フランス=ベルギー合作映画 監督フランソワ・オゾン
ネタバレあり
先日の「私がやりました」でフランソワ・オゾンはサムライではないかと述べたが、明快なお話ながらも本作を観ると益々そう思えて来る。原作は、エマニュエル・ベルンヘイム(ベルネイム)という女性作家による自伝。
そのエマニュエルに扮するのはソフィー・マルソーで、80代半ばの父親(アンドレ・デュソリエ)が脳梗塞で倒れる。自分で何もできなくなった彼は生きる気力を失い、尊厳死を希望するようになる。
その実現を託された彼女は、妹パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)と相談しつつも、スイスの尊厳死協会と連絡を取る。先方の説明で、最後の最後で考えを変えることもありうると知って少し落ち着く。
父親は両性愛者で、それが彫刻家の母親(シャーロット・ランプリング)を鬱に追い込んだ過去もあり、現在は現在でジェラール(グレゴリー・ガドボワ)なるBFに高価な時計狙いの為にストーカー的に付きまとわれている。
フランスは尊厳死を認めていない国家であり、皆にゲスと思われているそのジェラールが恐らく通報したせいで、医院に気づかれそうになるわ、警察が動き出しそうになるわ、スイスへ運ぶ救急隊員の一人がイスラム教信者でもう運ばないと言い出したり、色々と騒動があるが、オゾンは(原作では恐らく説明されているであろう)そのピンチの一々をどう潜り抜けたかには全く興味がなさそうで、いきなり尊厳死協会代表(ハンナ・シグラ)から父親が安らかに旅立ったという連絡がエマニュエルに届くだけなのである。
こういう大衆寄りの家族ドラマで、尊厳死というそれぞれの死生観・人間観が絡む難しい問題を扱いながらも、ごく感情的な部分には最小限にしかアプローチしないところにオゾンはやはり純文学の映画作家なのだなあと納得させられるものがある。
姉妹が案外冷静に尊厳死案件を進めていくように見えても、彼女たちが表に見せない葛藤を想像しながら、見ていくべき作品であろう。彼女たちは父親の頑固さに屈服したのではなく、やはり愛情故にその意志に任せたのに違いない。これからは、当人の意志が重要になっていく時代なのでありましょう。
五輪疲れ。配信で有力な日本人選手が出ていないマイナーな競技も観ようと思ったが、同時進行なので思ったようにうまくはいかないのでした。
この記事へのコメント
自分の人生も後半(終盤?)にかかると、こうしたことも他人事ではなく考えられるし、映画としてのテストケース?として、おもしろく、知識をたくわえた感の収穫でした。
>本人に悲壮感などがなかったので重すぎずに見られました
その通りですね。
>自分の人生も後半(終盤?)にかかると、こうしたことも他人事ではなく考えられる
僕はもう終盤と思っています。去年あたりから気力が乏しくなり、もう終盤です。何とかブログはできていますがね。
本当に他人事でないです。