映画評「青春シンドローム」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1994年フランス映画 監督セドリック・クラピッシュ
ネタバレあり

松井大悟監督「くれなずめ」は本作にインスパイアされた可能性がある。セドリック・クラピッシュの長編第2作で、彼のお得意な青春群像劇である。

1980年代初めくらい、若者4人(ヴァンサン・エルバズ、ニコラス・コレツキー、ジュリアン・ランブロスキーニ、ジョアキム・ロンバール)が産婦人科に駆けつける。数年前(1975年~76年)一緒に過ごしていたリセ(日本の高校に相当)時代の悪友ロマン・デュリスの恋人エロディー・ブーシェが出産するからだが、デュリスは1か月前にオーヴァードーズで死んでしまったので、彼の代りに見守るのである。
 子供が生まれるまで4人はリセ卒業間際に一緒にやった、学生運動もどきや数数の学校への抵抗を思い起こす。親の言う通りに家業を継いだり、大学進学の為に全うになっていく中、ただ一人反骨精神を貫いたのがデュリスなのである。

「くれなずめ」は高校時代の悪友の披露宴参加の為に悪友6人が集まって過去を回想するという話で、そのうちの一人が実は死んでいるという変化球があること(この映画であればデュリスが参加している)、時系列が二つではないこと、という違いがあるが、青春群像劇として気分的に似ている。
 しかし、30年前のこちらのほうがはるかに瑞々しい。1960年代の革命気分をまだまだ引きずっている1970年代半ばの学生の心情にリアルさを感じさせるものが強くあり、ただのバカ騒ぎと思える中に真剣さが沈潜しているのである。

allcinema の解説に “当時のポップ・ミュージックがちりばめられている” とあるが、厳密には違う。彼らが心情的に未だに逃れることができない1968年の5月革命前後から73年まで曲群である。
 古い順にジミ・ヘンドリックス「風の中のマリー」(1967年)、テン・イヤーズ・アフター「アイム・ゴーイング・ホーム」(1968年)、ジャニス・ジョプリン「ジャニスの祈り」(1971年)、ピンク・フロイド「エコーズ」(1971年)、フランク・ザッパ「ダーティ・ラブ」(1973年)。「アイム・ゴーイング・ホーム」は正に1968年5月に行われたライブの録音だ。これらの曲やアーティストはクラピッシュが個人的に思い入れがあるのではないかと思う。
 また、ヘンドリックスやザッパのポスターが部屋に貼られていたり、FRANK ZAPPAの文字がヒッピーたちが占拠している住宅を囲む壁に書かれていたりする。

この映画に限らないが、日本の青春映画と違うのは麻薬が堂々と扱われていること。欧米の若者の麻薬への距離感は、日本人の煙草へのそれくらいなのだ。

僕が音楽的に一番好きな時代が60年代後半から70年代前半。この映画の選曲には感動してしまうなあ。

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