映画評「ほかげ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・塚本晋也
ネタバレあり

野火」で戦地を取り上げた塚本晋也が今度は終戦直後の日本それも闇市に特化したところが注目される。あくが強いのでどちらかと言えば苦手の監督の部類だが、ある時期以降は初期に比べれば大分幅広い客層に受けそうな作り方・内容を示している。

居酒屋を経営する趣里は、自分の店で斡旋された男たちを相手にする戦争未亡人の素人娼婦である。戦争孤児・塚尾桜雅は闇市の店から物を盗むことを常習としてい、最初は盗む対象であった彼女の店にやがて食料品を色々と持って来るようになる。
 そこへ精神を病んだ若い復員兵・河野宏紀が“やさしそうなおじさんに紹介された”とやって来る。最初の日を別にしてお金を持って来ないまま、3人による疑似親子の真似事をする。特に夫と息子を戦争で失ったヒロインにとって真似事どころではなかったのである、と後で判明する。
 しかし、いつまでもお金を持ってこない復員兵を彼女は追い出す。そして、少年を子供と夫の代わりのように支配しようとする。
 少年は死体から取って来たピストルを持ってい、恐らく性病を得て閉じこもるようになった彼女に追い出されると、傷痍軍人上がりの的屋・森山未來の、戦中あくどい命令を下したかつての上官への意趣晴らしに協力する。仕事を終了して的屋と別れた少年は再び闇市に戻る。

終わってみれば少年を狂言回しに、あるいはその視点を通して、戦争によって少年自身を含めたそれぞれが経験する艱難辛苦やその後遺症を綴る内容。
 描写の基本はリアリズムで、様々な問題を抱えた人々を見るだけで息苦しくならざるを得ないが、リアルを超えて時にシュールに感じられるところもある。塚本監督の持ち味でありましょう。

手足を失った傷痍軍人とその妻を描いた江戸川乱歩「芋虫」(2010年に若松孝二が「キャタピラー」として時代を移して映画化した)を想起していた。時代もお話も全然違うが。

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