映画評「アンダーカレント」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・今泉力哉
ネタバレあり
監督で映画を観る人にとって今や今泉力哉は最重要の監督の一人だ。大体においてはエリック・ロメールのような会話主体のコントであって、ドラマは枠に過ぎない感じが強いが、本作は豊田徹也のコミックという原作があるので、通常よりドラマ性が高い。
昔「時間ですよ」という長寿TVドラマがあった。銭湯が舞台である。その銭湯が何故か映画界で近年人気で、2016年「湯を沸かすほどの熱い愛」、本作と同じ2023年に「湯道」が作られている。本作の始まりは前者に似ている。
1年前に父親が亡くなり、夫・永山瑛太と共に銭湯を引き継いだは良いものの、夫が暫く前に失踪した為に一時休業していた30代美人真木よう子が意を決して銭湯を再開させる。叔母・中村久美と二人三脚でやっていると、そこへ銭湯関係の資格を色々と持っている40代の青年井浦新がやって来る。黙々と働く好青年である。
少し時間のできたヒロインは、親友江口のりこと再会し、彼女(の夫)の紹介により訳ありで実費だけでやってくれるという探偵リリー・フランキーに夫の行方を探して貰うことにする。
基本的に重苦しいお話だが、リリー・フランキーが前半コメディー・リリーフの役目を負ってい、アクセントにもなっている。この探偵氏、しかし、見かけより腕前は良さそうで、彼女が知っている夫の出自が全て嘘であることを報告して来る。
並行して、この頃からヒロインは快いのか不快なのかよく解らない首を絞められる夢を見、それが銭湯の常連客の少女の失踪により、トラウマとなっていたらしい少女時代の親友誘拐殺人事件を思い出させ、罪悪感から寝込んでしまう。
漸く起き上れるようになった頃、探偵氏の夫発見の報を受け、家に戻る気がない夫と再会する。片や、井浦は自分が死んだ少女の兄であることを告白する。
ミステリアスな要素は色々とあるが、本格ミステリーでもサスペンスでもないので、最後まで梗概を書いた。悪しからず。
通奏低音は失踪、キー・ワードは嘘であろうか。再会した夫は自分を始末の悪い嘘つきと言う。しかし、彼女も少女時代の事件を封印し殆ど忘れるという形で自分に嘘をついている。親友の親に拉致される直前まで一緒にいた場所を告白できずにいた罪悪感に加え、それを封印したという罪悪感によって、彼女は寝込むのである。
井浦が告白したところでエンドというのが映画的には収まりが良いのだが、蛇足とも思える、犬を連れたヒロインと10メートルほど後ろから付いていく井浦を捉えるラスト・ショットは意味深長に見える。しかし、その前の隣人・康すおんとの井浦の会話内容を考えれば、素直に理解すれば良いと思う。
康すおんの隣人は次のように言っている、“互いに頼り合えば良い。人は他人に迷惑をかけて生きるもの”(主旨)と。罪悪感を持っている人はこの言葉に大いに慰められるにちがいない。
リリー・フランキーの探偵が真木よう子に遊園地を色々と歩かせる。これがミステリー的に実は意味があったと判り、なかなかゴキゲン。
半世紀近く前大学に進学して銭湯にお世話になった。入湯料は195円で、5円お釣りをもらった。利用料金設定は“ご縁”がありますようにという洒落であったのは言うまでもない。
2023年日本映画 監督・今泉力哉
ネタバレあり
監督で映画を観る人にとって今や今泉力哉は最重要の監督の一人だ。大体においてはエリック・ロメールのような会話主体のコントであって、ドラマは枠に過ぎない感じが強いが、本作は豊田徹也のコミックという原作があるので、通常よりドラマ性が高い。
昔「時間ですよ」という長寿TVドラマがあった。銭湯が舞台である。その銭湯が何故か映画界で近年人気で、2016年「湯を沸かすほどの熱い愛」、本作と同じ2023年に「湯道」が作られている。本作の始まりは前者に似ている。
1年前に父親が亡くなり、夫・永山瑛太と共に銭湯を引き継いだは良いものの、夫が暫く前に失踪した為に一時休業していた30代美人真木よう子が意を決して銭湯を再開させる。叔母・中村久美と二人三脚でやっていると、そこへ銭湯関係の資格を色々と持っている40代の青年井浦新がやって来る。黙々と働く好青年である。
少し時間のできたヒロインは、親友江口のりこと再会し、彼女(の夫)の紹介により訳ありで実費だけでやってくれるという探偵リリー・フランキーに夫の行方を探して貰うことにする。
基本的に重苦しいお話だが、リリー・フランキーが前半コメディー・リリーフの役目を負ってい、アクセントにもなっている。この探偵氏、しかし、見かけより腕前は良さそうで、彼女が知っている夫の出自が全て嘘であることを報告して来る。
並行して、この頃からヒロインは快いのか不快なのかよく解らない首を絞められる夢を見、それが銭湯の常連客の少女の失踪により、トラウマとなっていたらしい少女時代の親友誘拐殺人事件を思い出させ、罪悪感から寝込んでしまう。
漸く起き上れるようになった頃、探偵氏の夫発見の報を受け、家に戻る気がない夫と再会する。片や、井浦は自分が死んだ少女の兄であることを告白する。
ミステリアスな要素は色々とあるが、本格ミステリーでもサスペンスでもないので、最後まで梗概を書いた。悪しからず。
通奏低音は失踪、キー・ワードは嘘であろうか。再会した夫は自分を始末の悪い嘘つきと言う。しかし、彼女も少女時代の事件を封印し殆ど忘れるという形で自分に嘘をついている。親友の親に拉致される直前まで一緒にいた場所を告白できずにいた罪悪感に加え、それを封印したという罪悪感によって、彼女は寝込むのである。
井浦が告白したところでエンドというのが映画的には収まりが良いのだが、蛇足とも思える、犬を連れたヒロインと10メートルほど後ろから付いていく井浦を捉えるラスト・ショットは意味深長に見える。しかし、その前の隣人・康すおんとの井浦の会話内容を考えれば、素直に理解すれば良いと思う。
康すおんの隣人は次のように言っている、“互いに頼り合えば良い。人は他人に迷惑をかけて生きるもの”(主旨)と。罪悪感を持っている人はこの言葉に大いに慰められるにちがいない。
リリー・フランキーの探偵が真木よう子に遊園地を色々と歩かせる。これがミステリー的に実は意味があったと判り、なかなかゴキゲン。
半世紀近く前大学に進学して銭湯にお世話になった。入湯料は195円で、5円お釣りをもらった。利用料金設定は“ご縁”がありますようにという洒落であったのは言うまでもない。
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