映画評「こんにちは、母さん」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり
山田洋次91歳の第92作。まだまだ元気である。マノエル・ド・オリヴェイラ(104歳まで映画製作)、新藤兼人(99歳まで)など上には上がいるので、もう少し頑張って戴きたい。
劇作家永井愛が2001年に発表した戯曲が原作で、2007年にTVドラマ化されているから、リメイクということになる。
大手自動車会社の人事部長・大泉洋が、学生時代からの知り合いで同期の課長・宮藤官九郎の首に携わり、彼の憤りを買う。そうでなくても妻との別居という悩みも抱え、それまで近くにいながら滅多に帰らなかった足袋屋の実家に帰る。
夫亡き後事業を継続していた吉永小百合の母は髪を染めるなど妙に華やかな装いをしている。母とも上手く行っていない大学生の娘・永野芽郁も祖母を慕ってやって来ては寝泊まりし、屡々やって来るようになった父親と衝突する。
母親は、近所の主婦たちと共同でホームレス支援のボランティア活動に勤しんでいるが、その中でサポート役をしている牧師・寺尾聡が彼女の変化に関わっていることが判って来る。
後半はこれが主題になり、芽郁の孫娘が祖母を応援する一方、人事の仕事と人情の間で悩んでいた大泉は友人の為に会社を辞め、離婚を決断するという展開と絡め合わせながら、進行する。
老いらくの恋が牧師の転任で失恋に終わって落ち込んだ彼女は、しかし、息子があるいはもっと大きいかもしれない苦難を明るく乗り越えようとしている姿に力を得る。
序盤から小津調の会話にニヤニヤして見ていたが、若い人はこれを山田調と思っているらしい。
寅さんにどっぷり漬かっている僕らはどうしても人情ベースで見、主人公は堂々と帰って来る寅さんみたいだなあと感じるわけだが、実際には母親と息子の関係はどこか他人行儀のものがあり、それがそれぞれの不幸を通してもっと近しいものに変わっていくという話なのだろうと思う。お話の肝が寅さんや他の山田ホームドラマほど明確に捉えきれない気がする。
一方、一見昭和風だが、微妙なところが見え隠れする人間関係に平成・令和的な印象を持つ僕である。
画面は当然しっかりしているが、やはり階段と襖の使い方が断然上手い。夜の襖は必然的に縦長の枠を作り、こうした画面の構図を上手く使った日本映画は枚挙にいとまないが、山田監督はやはり名人である。
離婚する妻について足しか見せないのが良い。その間に恋人が出来たらしい妻の様子を想像する楽しみを残してくれた。珍しく夫より義母との関係が良かった細君のようだ。この省略を不満の理由とするコメントがあるが、お話の道具にすぎない彼女そのものをわざわざ見せる必要はないわけで、野暮なコメントと苦笑する外ない。
何でも示し語ってしまうTVドラマを多く観ると、昔の映画が当たり前のように省略した部分について不足を感じることが多くなるのではないか。素晴らしい省略を説明不足と言うコメントに時々遭遇するのだ。
2023年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり
山田洋次91歳の第92作。まだまだ元気である。マノエル・ド・オリヴェイラ(104歳まで映画製作)、新藤兼人(99歳まで)など上には上がいるので、もう少し頑張って戴きたい。
劇作家永井愛が2001年に発表した戯曲が原作で、2007年にTVドラマ化されているから、リメイクということになる。
大手自動車会社の人事部長・大泉洋が、学生時代からの知り合いで同期の課長・宮藤官九郎の首に携わり、彼の憤りを買う。そうでなくても妻との別居という悩みも抱え、それまで近くにいながら滅多に帰らなかった足袋屋の実家に帰る。
夫亡き後事業を継続していた吉永小百合の母は髪を染めるなど妙に華やかな装いをしている。母とも上手く行っていない大学生の娘・永野芽郁も祖母を慕ってやって来ては寝泊まりし、屡々やって来るようになった父親と衝突する。
母親は、近所の主婦たちと共同でホームレス支援のボランティア活動に勤しんでいるが、その中でサポート役をしている牧師・寺尾聡が彼女の変化に関わっていることが判って来る。
後半はこれが主題になり、芽郁の孫娘が祖母を応援する一方、人事の仕事と人情の間で悩んでいた大泉は友人の為に会社を辞め、離婚を決断するという展開と絡め合わせながら、進行する。
老いらくの恋が牧師の転任で失恋に終わって落ち込んだ彼女は、しかし、息子があるいはもっと大きいかもしれない苦難を明るく乗り越えようとしている姿に力を得る。
序盤から小津調の会話にニヤニヤして見ていたが、若い人はこれを山田調と思っているらしい。
寅さんにどっぷり漬かっている僕らはどうしても人情ベースで見、主人公は堂々と帰って来る寅さんみたいだなあと感じるわけだが、実際には母親と息子の関係はどこか他人行儀のものがあり、それがそれぞれの不幸を通してもっと近しいものに変わっていくという話なのだろうと思う。お話の肝が寅さんや他の山田ホームドラマほど明確に捉えきれない気がする。
一方、一見昭和風だが、微妙なところが見え隠れする人間関係に平成・令和的な印象を持つ僕である。
画面は当然しっかりしているが、やはり階段と襖の使い方が断然上手い。夜の襖は必然的に縦長の枠を作り、こうした画面の構図を上手く使った日本映画は枚挙にいとまないが、山田監督はやはり名人である。
離婚する妻について足しか見せないのが良い。その間に恋人が出来たらしい妻の様子を想像する楽しみを残してくれた。珍しく夫より義母との関係が良かった細君のようだ。この省略を不満の理由とするコメントがあるが、お話の道具にすぎない彼女そのものをわざわざ見せる必要はないわけで、野暮なコメントと苦笑する外ない。
何でも示し語ってしまうTVドラマを多く観ると、昔の映画が当たり前のように省略した部分について不足を感じることが多くなるのではないか。素晴らしい省略を説明不足と言うコメントに時々遭遇するのだ。
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