映画評「ミステリと言う勿れ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・松山博昭
ネタバレあり

TVドラマ(特にシリアルもの)は一切見ないが、本作のTVオリジナルは題名だけ知っていた。
 そのタイトルは内容ではなく作者(原作者の漫画家・田村由美はミステリーなど書けないと述べているらしい)に関する情報となっている。映画ではフェデリコ・フェリーニ「8・1/2」、 音楽では井上陽水「9.5カラット」がこの種である。音楽はともかく、コミックや劇映画でこういうのはなかなか面白い。ミステリーの類では他に例があるだろうか? 

まず、TVオリジナルを観ていない人に親切な見せ方をしていると思う。本編が終わった後に色々な人物が出て来るが、そこのみTVを観ていない人はピンと来ない。

天然パーマの大学生・久能整(菅田将暉)が、広島訪問時に女子高生汐路(原菜乃華)によって半ば強引に、彼女や年上の従兄姉三人との間で行われる遺産相続の条件発表会に付き合わされる。
 一家は狩集(かりあつまり)という名で、姻戚関係のある車坂家が一家の顧問弁護士、真壁家が税理担当をしている。本来の相続者たる4人の兄弟は同じ車で崖から落ちて死んでいる。 相続の条件はそれぞれに仮に宛がわれた蔵に関し “それぞれ過不足なくせよ” という難問を解くこと。
 そこで久能君がアドバイスらしきものをすることで、この三家と別の家にまつわるおどろおどろしい謎の解決が導かれていく。

なかなか複雑で、結論めいたものを伏せるのが常識であるミステリー系列ではこの辺りまでで良いだろうが、楽しいのは「犬神家の一族」のパロディーになっていることである。実際撮影に使われた建物は同作で使われたものらしい。50年近くたっても立派なものです。
 パロディーだからなぞっているようで実は逆手に取っているところが多い。それが後半のミソとなる。

荒唐無稽と言えばそれまでの内容なのだが、それを言ったら横溝正史の金田一耕助シリーズもかなり荒唐無稽である。同シリーズに比べて理詰めでないところが著しく、そういう評価が出て来るのも解らなくはないが、僕なら【荒唐無稽】より解決部分をもって【大山鳴動して鼠一匹】という言い方を選ぶ。

久能整=くのう・ととのう=という可笑しな名前の大学生が名探偵かどうかはともかく、名探偵なるものは大体において衒学趣味かつ饒舌であり、映画にすると説明的となりすぎる傾向は否めない。従って、僕は本作のその点を難点としない一方、フェミニズム絡みの説明は視点の面白さがないではないものの少々厭らしい。

広島弁に関する批判的コメントは取るに足らない。 方言はそれらしくさえあれば良いのである。かつて【朝のテレビ小説】に関する方言への批判について、NHKは “余りに忠実すぎると、他地方の人が理解できないことがある” となかなか見事に優等生的に回答した。わが上州弁のように他地方の人が理解できないような単語が殆どない場合はどうか。勿論、忠実である必要は全くない。映画やドラマでは大体において方言らしきものはムード醸成のみに意味を成すので、本作であれば東京でも大阪でも名古屋でも福岡でもないと解れば良いのである。

正確な方言が要求されるのは「砂の器」だ。東北弁と思われた二人の会話が実は東北弁ではないことが重要だった。これがいい加減では面白味は半減する。

この記事へのコメント

2025年11月08日 07:25
きらくに楽しめる青春ミステリーでしたね。
久能整のキャラがよいです。

広島弁は、さぬき弁(香川)とよく似ているんですね。
いっぱんには映画「仁義なき戦い」で広島弁が知られるようになりましたかね。
この映画では、登場人物の一人が使っていて、ほどよい出し方だと思いました。
オカピー
2025年11月08日 17:36
nesskoさん、こんにちは。

>広島弁は、さぬき弁(香川)とよく似ているんですね。

地理的に、広島の東側と香川の西側が近いですね。海を隔てても交流が深かったでしょうかね。

>いっぱんには映画「仁義なき戦い」で広島弁が知られるようになりましたかね

そうでしょうね。