映画評「VORTEX ヴォルテックス」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年フランス=ベルギー=モナコ合作映画 監督ギャスパー・ノエ
ネタバレあり

ギャスパー・ノエ監督の作品は、オムニバス映画「セブン・デイズ・イン・バナナ」の一挿話しか観ていないのでどんな監督かよく分らないが、本作はスタイルの映画である。真四角の画面を二つ並べて140分以上ずっと続くのである。これをまともに一画面で見せたら180分くらいになる内容かもしれないと思いながら観ていた。

80歳の映画批評家ダリオ・アルジェントは重い心臓病を患い、元精神科医の妻フランソワーズ・ルブラン76歳は認知症を進行させている。甚だ覚束ない老々介護ぶりである。
 息子アレックス・ルッツが孫を連れて来、母が夫も息子も孫も解らない状態に遭遇する。正常な時に3人で施設への引っ越しなどを相談するが、これまでの生活に固執する老父はまるで聞く耳を持たず、母親は萎れて謝るばかりである。
 かくするうちに父親は倒れて何とか病院で運ばれたものの程なく亡くなり、家に戻った老母は施設に行く前にガス自殺を遂げる。

お話は、日本のドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いいたします。~おかえり母さん~」のドラマ版のような感じもある。
 あのドキュメンタリーは映像作家の娘が老いたる両親をなかなか淡々と捉えたところに却って凄味があったわけだが、こちらは勿論劇映画ならではの劇的な見せ方がとりわけ終盤に出て来て刺激的。
 息子が公的に認められているらしい麻薬キット売買を現在の仕事としていて夫婦ともども麻薬依存症というのが日本映画ではまずありえない設定だが、両親を自分以上に “薬" 漬けと指摘する台詞がブラックであると同時に国を超えて社会風刺的であり興味深い。

認知症絡みのお話として類型を大きく超えるものではないが、それを老々介護の問題としても捉えたところが多少の新味である。
 問題意識だけでなく丁寧に作られているところを評価したいが、やはり二つの画面で最後まで見せたスタイルの印象には勝てない。しかし、父親が死んだ後息子が病室から出て来て廊下の椅子で待っている母親のところに向かうショットなど、通常のカットの切り替えではなかなか見られない面白味と効果があり、ただの思い付きには留まらず、評価に値する。

フランス以上に高齢化社会である日本ではこの手はもっと作られてしかるべきなのに、実際には、前面に押し出してかつ正面から扱った作品を、上のドキュメンタリー・シリーズ二本以外に観た記憶がない。

男優アルジェント、監督しているより良いんじゃないか?

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