映画評「枯れ葉」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2023年フィンランド=ドイツ合作映画 監督アキ・カウリスマキ
ネタバレあり
アキ・カウリスマキの新作。
などと僕は何気なく述べるが、実は彼は一旦引退宣言したそうで、シネフィルにはかなりの事件だったらしい。10年前ならこんな他人事(ひとごと)のような言い方はしなかっただろうが、最近はパッシヴに映画を選び、映画に関するニュースにも積極的に接しないので、全く知らずにいた。映画そのものが情ない状態にあるという理由に加え、映画以外に処理しなければならないことが多いから、仕方がない。
お話は例によってシンプル。
若者という時代はすぎた女性アンサ(アルパ・ポウスティ)が期限切れの商品を持ち出したという理由でスーパーを首になった後に勤め始めたパブは、オウナーが麻薬販売容疑で逮捕され、金も貰えない。同じ世代の男性ホラッパ(ユッシ・バタネン)はアルコール依存症を理由に首になることが多い。
この二人がパブの前で出会ったり、カラオケバーで遭遇したりするうち、気が合うものを感じ、映画館に行ったりもする。
が、静かに彼を待つ彼女は二度待ちぼうけを喰らう。一度目は本格的な関係になる前に彼が彼女の電話番号を書いたメモを失った為、二度目はアルコールを巡る意見の相違で切れた後暫くしてアルコールを断った後に再会を約した彼が市電に轢かれた為。
しかし、神はこの二人を見捨てはしない。ぎりぎりの生活をしてきた二人と一匹の犬が巡り合ってささやかな幸福を得るというお話で、最後は、チャップリンと名付けた捨て犬を連れた彼女と彼が、チャップリン映画のように画面の奥方向に去っていく。明らかにチャップリンにオマージュを捧げた幕切れで、その他「若者のすべて」など種々の映画に関する表敬・関心が随所に示される。
カウリスマキは小津安二郎のシンパで、ミニマルに展開させていく。一番共通するのは固定カメラに拘り、シーンを直接繋げていく手法である(尤も、固定カメラはともかく、フェイドやオーヴァーラップでシーンを繋いでいく監督は現在ほぼいないわけだが)。
小津映画に似て、しかし、それ以上にカウリスマキ映画の登場人物は寡黙で、台詞は少ない。
全体的に台詞が少ないが故に実に効果的であったと感じるのが次の流れ。
ホラッパが電話をかけてきて “酒は断った” と言うと、 アンサが間髪入れず “すぐ来て” と応ずる辺りに彼女の秘められた真情の奔出を見るわけで、 僕はこの対応に思わず拍手した。
小津シンパということと関係があるのかないのか不明ながら、カウリスマキは日本の曲をたまに使い、本作では一番最初に「竹田の子守唄」を出して来る。
その前だったか後だったか、ロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れる。その後彼女がラジオを付ける度にウクライナ戦争の報道を繰り出す。フィンランドはロシアの隣国であるから、これは社会派的な態度と言うより、彼の恐怖と怒りの真情の表白であろう。ある人が指摘するように、カウリスマキの復活はウクライナ戦争のせいかもしれない。
チャップリンのように二人と一匹が歩く様子を背後から捉える幕切れが終わると嬉しくも名曲「枯葉」がかかる。ジーンとするデス。イヴ・モンタンで憶えた曲なので、彼のバージョンで聞きたかったが。
2023年フィンランド=ドイツ合作映画 監督アキ・カウリスマキ
ネタバレあり
アキ・カウリスマキの新作。
などと僕は何気なく述べるが、実は彼は一旦引退宣言したそうで、シネフィルにはかなりの事件だったらしい。10年前ならこんな他人事(ひとごと)のような言い方はしなかっただろうが、最近はパッシヴに映画を選び、映画に関するニュースにも積極的に接しないので、全く知らずにいた。映画そのものが情ない状態にあるという理由に加え、映画以外に処理しなければならないことが多いから、仕方がない。
お話は例によってシンプル。
若者という時代はすぎた女性アンサ(アルパ・ポウスティ)が期限切れの商品を持ち出したという理由でスーパーを首になった後に勤め始めたパブは、オウナーが麻薬販売容疑で逮捕され、金も貰えない。同じ世代の男性ホラッパ(ユッシ・バタネン)はアルコール依存症を理由に首になることが多い。
この二人がパブの前で出会ったり、カラオケバーで遭遇したりするうち、気が合うものを感じ、映画館に行ったりもする。
が、静かに彼を待つ彼女は二度待ちぼうけを喰らう。一度目は本格的な関係になる前に彼が彼女の電話番号を書いたメモを失った為、二度目はアルコールを巡る意見の相違で切れた後暫くしてアルコールを断った後に再会を約した彼が市電に轢かれた為。
しかし、神はこの二人を見捨てはしない。ぎりぎりの生活をしてきた二人と一匹の犬が巡り合ってささやかな幸福を得るというお話で、最後は、チャップリンと名付けた捨て犬を連れた彼女と彼が、チャップリン映画のように画面の奥方向に去っていく。明らかにチャップリンにオマージュを捧げた幕切れで、その他「若者のすべて」など種々の映画に関する表敬・関心が随所に示される。
カウリスマキは小津安二郎のシンパで、ミニマルに展開させていく。一番共通するのは固定カメラに拘り、シーンを直接繋げていく手法である(尤も、固定カメラはともかく、フェイドやオーヴァーラップでシーンを繋いでいく監督は現在ほぼいないわけだが)。
小津映画に似て、しかし、それ以上にカウリスマキ映画の登場人物は寡黙で、台詞は少ない。
全体的に台詞が少ないが故に実に効果的であったと感じるのが次の流れ。
ホラッパが電話をかけてきて “酒は断った” と言うと、 アンサが間髪入れず “すぐ来て” と応ずる辺りに彼女の秘められた真情の奔出を見るわけで、 僕はこの対応に思わず拍手した。
小津シンパということと関係があるのかないのか不明ながら、カウリスマキは日本の曲をたまに使い、本作では一番最初に「竹田の子守唄」を出して来る。
その前だったか後だったか、ロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れる。その後彼女がラジオを付ける度にウクライナ戦争の報道を繰り出す。フィンランドはロシアの隣国であるから、これは社会派的な態度と言うより、彼の恐怖と怒りの真情の表白であろう。ある人が指摘するように、カウリスマキの復活はウクライナ戦争のせいかもしれない。
チャップリンのように二人と一匹が歩く様子を背後から捉える幕切れが終わると嬉しくも名曲「枯葉」がかかる。ジーンとするデス。イヴ・モンタンで憶えた曲なので、彼のバージョンで聞きたかったが。
この記事へのコメント
>「若者のすべて」など種々の映画に関する表敬・関心が随所に示される。
カウリスマキの私的コレクションかもしれない古い映画のポスターがたくさん登場しましたね。
今時、日本ではあまり見かけなくなったような昔懐かしの映画館の入り口の佇まいが何とも懐かしく、出てきたおじいさん二人の見たばかりの映画の寸評も面白かったです。
年寄りは最新映画を見ても比べるのは大昔の映画なのがいずこも同じ?
最近、映画をみる気力がなくなってきて本ばっかり読んでますが、これは観て良かったです!
>本作では一番最初に「五木の子守唄」を出して来る。
細かいことですが、あれは「竹田の子守唄」です。
京都市伏見区竹田界隈で1970年頃に採譜されたもので、ご存じだと思いますが当時放送禁止騒ぎになったこともありました。
歌っているのは Toshitake Shinohara 氏で「ラヴィ ド ボエーム」のラストシーンに流れる 「雪の降る街を」もこの方が歌っていますね。
味のある歌い方ですが歌手ではないみたいで。カウリスマキのご近所さんだとか。「ラヴィ ド ボエーム」といいこの映画といい犬がいい味だしてました。カウリスマキは犬に限らず農耕馬みたのとか動物が好きですね。
「ウンベルトD」がみたくなりました。いい映画をみるとちょっと映画を観たい気分が復活してくるようです。
やっぱり年寄りは最新映画をみても昔の映画を思い出すのでした。
>カウリスマキの私的コレクションかもしれない古い映画のポスター
多分そうでしょう^^
>年寄りは最新映画を見ても比べるのは大昔の映画なのがいずこも同じ?
好きな音楽は25歳くらいまでに聴いたものになると、どこかで聞きましたが、映画はそう限られないでしょうけど、やはり昔の映画と比べますよね。
>最近、映画をみる気力がなくなってきて本ばっかり読んでますが、これは観て良かったです!
映画と本とでは、本当に(笑)、そうなりますね。
音楽はまだまだ古い音楽にも掘るものがたくさんありそうです。
>細かいことですが、あれは「竹田の子守唄」です。
あははは。
これは実は解っておりまして、excelに記録している自分用のメモ(これがブログ用の粗稿)の時点に直しておけば良かったのですが、そのまま放置した結果、すっかり忘れて「五木」となりました。
やはり気づいた時にしないとダメですな^^;
>カウリスマキのご近所さんだとか。
へえ~ (@_@)
>「ウンベルトD」がみたくなりました。いい映画をみるとちょっと映画を観たい気分が復活してくるようです。
そうですね^^
「ウンベルトD」はハイビジョンの保存版を作ったのですが、保存したマクセルのカラー・ブルーレイ盤は耐久性がないようで、読めなくなりました。
イヴ・モンタンの「枯れ葉」良いですね! 特に晩年のライブの歌唱はどこまでも深いのに重くならないところがさすがです。
私は最初に聴いた「枯れ葉」はジュリエットグレコかなぁ…70年代初め頃に来日公演に行ったんですよ。ちょうどピアフを聴き出した頃で、グレコも黒いドレスを着ていたのでシャンソンの人はみんな黒を着るのか、と思った記憶があります。
そうそう、浅川マキもいつも黒いドレス姿でした。
ところでこの映画、一応ハッピーエンドなのにどうしてタイトルが「枯れ葉」なんでしょうね。
>「ウンベルト・D」はアマプラで観られますよ。
観た経験があるので、できればハイビジョンで観たいところ。
ブルーレイ・バージョン(ハイビジョン)も売られているので、どうしても欲しい時はこれかな?
>イヴ・モンタンの「枯れ葉」良いですね!
元々はモンタン主演の映画「夜の門」の主題歌でしたね。ここまで残る名曲になるとは当時誰も思わなかったかもしれません。
>私は最初に聴いた「枯れ葉」はジュリエットグレコかなぁ…
逆に僕は聴いたことがなかったので、YouTubeに早速駆け込みました。
女声でもやはり良い曲ですなあ^^
>一応ハッピーエンドなのにどうしてタイトルが「枯れ葉」なんでしょうね
余り象徴的な意味はないのかもしれませんね。
これを忘れたら怒られる。
キャノンボールアダレイが一応バンマスの体裁になってるけど実質マイルスが指揮官だったらしい「Somethin’ else」の「枯葉」。
心地良くて永遠に聴いていたくなります。
そこまで思い出して今回ふと気になって調べてみたら
「死刑台のエレベーター」が1958年公開、「somethin’ else」のリリースも1958年で、マイルスがパリで映画のための即興演奏をしていた時の恋人?がグレコという事は、マイルスがアメリカに(ジャズ界)にグレコの思い出と一緒に枯葉を持ち帰ったのかもしれませんね。
この辺りの事はスイングジャーナルなんかを熟読していた事情通の方には何を今更と笑われそうですが…
>キャノンボールアダレイが一応バンマスの体裁になってるけど実質マイルスが指揮官だったらしい「Somethin’ else」の「枯葉」
Somethin' Else はレコードでは持っていませんが、CDは買いましたよ。
やはり Autumn Leaves (枯葉)が良いですかね。
>マイルスがアメリカに(ジャズ界)にグレコの思い出と一緒に枯葉を持ち帰ったのかもしれませんね。
そうですね。シャンソンなのに何故か「枯葉」のジャズ演奏は多い。
と言っても僕が他によく知っているのはビル・エヴァンズくらいですか。
マイルスのレコードが例によって見つからず、サラ・ヴォーンが出てきました。
圧巻のスキャットですが「枯葉」の片鱗のないの「枯葉」としての記憶が飛んでました。
それからイヴ・モンタンの東芝の赤盤レコードが出てきて、そこの蘆原英了さんの解説によりますと、「枯葉」は1945年にサラベルナール座で初演のバレエの中で使われた曲だそうで、あとから歌詞がつけられたそうです。
それからジャズで最初に「枯葉」を演奏したのはスタン・ゲッツらしいです。
なるほど・・・スタン・ゲッツ好みの曲調です。
オカピー先生に刺激されて色々と向学心は沸いてきました。
明日からこそ張ろう (笑)
サラ・ヴォーンのところが変な文章になってました。すいません。
1分以内なので、減点しないでくださいね。
>サラ・ヴォーンが出てきました。
圧巻のスキャットですが「枯葉」の片鱗のない
聴きました。確かに圧巻ですね!
「枯葉」の片鱗もない!^^
>「枯葉」は1945年にサラベルナール座で初演のバレエの中で使われた曲だそうで、あとから歌詞がつけられたそうです。
>それからジャズで最初に「枯葉」を演奏したのはスタン・ゲッツらしいです
ウィキペディアに行きましたら、そう書いてありました。
>1分以内なので、減点しないでくださいね
こちらこお始終とちって、減点ばかりですよん^^;