映画評「ボーはおそれている」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年アメリカ=イギリス=フィンランド=カナダ合作映画 監督アリ・アスター
ネタバレあり

アリ・アスターは、M・ナイト・シャマランに似て、はったりの監督だろう。

邦題を見てうっかりエドガー・アラン・ポーが自作の主人公のように怖い体験をする映画かと思ったが、よく見るとポーではなくボー・ブリッジスのボーなのであった。

異様な不安症を抱えているらしい50手前の中年男性ボー(ホアキン・フェニックス)が、70歳の誕生日を迎える母モナ(パティ・ルポーン)の家に向おうとするが、次々と不都合が起きて飛行機は取れない。
 直後に母親がシャンデリアにつぶされた死んだことを知って行動をするうち、裸で街に出る羽目になって警官に発砲され逃げるうちに交通事故に遭う。
 その車に乗っていた医師夫婦(ネイサン・レイン、エイミー・ライアン)によって救われ、医師の車で葬儀を待つ実家へ向かうことになるが、これまた事件の連続でなかなか目的が達成できない。
 挙句、ひねくれた娘がペンキを飲んで死に、それを彼のせいと誤解した母親によって、重篤なPTSDを抱える帰還兵によって追われ、森の中で演劇をやっている団体に遭遇。そこでの追撃者の銃撃による殺戮を逃れ、漸く葬儀を終えたばかりの実家に辿り着く。

これ以上ない程の異常な出来事が続いたそれまで以上に異常とも言える出来事がこの終盤に待っている。そして、この終盤にこの母子の関係性がダーク・ファンタジーの形で浮き彫りになるという構成である。

次々と予想しにくい展開をしていくということで「不思議の国のアリス」のようだと述べる方もいるが、最終盤を除けば、悪漢(ピカレスク)小説の構成をもじっている印象を僕は覚える。悪漢小説と言っても必ずしも悪漢が主人公である必要はなく、ロード・ムービーの小説版みたいなもの。一般的なロード・ムービーと違うのは、主人公は訪れた各地でほぼ必ず大きな出来事に遭遇し、巻き込まれるのである。

それはともかく、結局は一精神病者の悪夢の中を覗いて見せたという解釈で良いのだろう。一種のアトラクション映画として観れば一定の面白味があると言えるが、映画は現実を見せてなんぼという一般論を措いても、少し先すら予想できない映画はやはりつまらないのである(先が予想できる映画はつまらない、という考えには誤っている部分がある)。

ボーっとしてるんじゃねえよ、か。

この記事へのコメント

2024年10月05日 18:19
あんまり恐れていたので、いまごろ見た、ボーです。
あんまりです。ボーへの仕打ち…。
オカピー
2024年10月06日 09:01
ボーさん、こんにちは。

遂に映画出演ですか。おめでとうございます。

なんて冗談はともかく、ボーさんからコメントが来ないからおかしいなと思っていましたが、ご覧になってなかったのですか。