映画評「蟻の王」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年イタリア映画 監督ジャンニ・アメリオ
ネタバレあり

同性愛が精神病とされていた半世紀以上前にイタリアに実際にあった裁判を基にした実話ものの類である。

詩人で劇作家であるアルド・ブライバンディ(ルイジ・ロ・カーショ)が、詩や劇を研究する芸術サークルを創設し、そこには男女を問わず、若者たちがやって来る。彼は同性愛者であったので、兄に続いてサークルに加わった少年エットレ(レオナルド・マルテーゼ)とも関係ができていく。カトリック的な古い考えに固まっていた母親が次男の行動の理由を察知し、ブライバンディを訴えるのである。
 イタリアには同性愛を禁じる法的根拠がなかったので、 検察は“教唆罪”というわけの解らない罪で彼を訴える。同性愛者に理解を示す共産党系新聞の記者エンニオ(エリオ・ジェルマーノ)は裁判所周辺で色々と活動をし、ブライバンディを支援するが、やがて記事を書くことを上司から禁じられ、ブライバンディは有罪となる。

性描写を苦手とする当方にとって有難いことに、性描写は事実上ない。若者が急所を見せる場面があるが、主人公は行為に及ばずに小銭を払おうとしたところ相手に愚弄される場面があるくらいである。友情映画と大差のない印象があり、やっと二人が再会を果たしたラスト・シーンも切なさだけが醸成されじーんとさせられる次第。

詩人は蟻の研究家でもあって、その為に蟻の王という題名が付けられているわけだが、独自の生命観を持っていたようで、これが同性愛の背景にあるように思われるが、その因果関係はよく解らない。
 片や、エットレは自ら家族と縁を切り、元来同性愛指向は病気ではないのに治療の為に加えられた電気ショックで準禁治産者のような感じになってしまう。映画の中でも指摘されるように、(今なら間違いなく)彼が正常で、母親が犯罪者である。

同性愛のロマンス以上に訴えるものがある佳作と思う。人間の尊厳について考えたい。

欧州は1970年代以降同性愛に関しては劇的に態度を変えて行ったが、明治時代に産業革命の結果労働人口確保の為に同性愛に厳しくなった欧米の影響を受けた日本は、様々な性愛に寛容であった江戸時代以前に戻れば良いだけなのに、それができない。150年前に真似したのと同じように真似すれば良いのだ。自民党右派は “日本には同性愛の伝統がない” という大嘘を付いている。 大嘘でなければ情ない程に日本についての知識がなさすぎる。彼らは、生れてから性を変える動物は人間以外にないという大嘘も付く。一部の魚(クマノミ、サクラダイなど)、トカゲを調べて下さい。カタツムリはオスであると同時にメスである。鳥は人間より多い割合で同性愛的行動をしていることも最近の研究で判って来ている。

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