映画評「熊は、いない」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年イラン映画 監督ジャファル・パナヒ
ネタバレあり
イランの映画監督ジャファル・パナヒはメタフィクションの監督である。「人生タクシー」「ある女優の不在」のどちらもメタフィクションの傑作で、続く本作はもっと手が込んでいる。
しかし、監督がメタフィクションを作るのは、ドラマ映画作りをイラン当局に禁じられた為ドキュメンタリーとして作っているという体裁を取る必要があるかららしい。
ちゃんと頭のある人が見ればメタフィクションとは言えドラマ映画であることは歴然としているが、検閲官が馬鹿なのか、あるいは承知で認めているのか。後者なら僕は検閲官に拍手を送りたい。
パナヒ監督扮するパナヒは遠隔操作で助監督に国外逃亡を図る男女のメタフィクションを作らせている。つまり、この映画には劇中劇どころかメタフィクション中メタフィクションという部分があるわけである。
監督が来たのはトルコとの国境に近いクルド人地区らしく、その為に国境警備の官憲に怪しまれる可能性が高い。しかし、本人は全く国外逃亡の気はなさそうである。つまり、これはパナヒ本人のイラン当局への一応の態度表白と理解して良い。
翻って、外側のメタフィクションの中で、彼は婚約者が他の男と昵懇になったと怒る若者が、村長を通して、彼が撮ったと思われるデジタル写真回収を図る。日本なら浮気証拠写真とうことになるが、名誉を重んずる保守的な村人にあっては女児生誕時に約された婚姻を破壊する要素を排除したいということ。不思議なものです。最初のうち写真は縁起が悪い等の迷信絡みなのかと思ったが、全然違いましたがな。
最後は外側・内側のお話が混然一体となるかのように悲劇が重なる。
自身を含め圧力をかけられる人々の自由への渇望が重層的に扱われ、迂遠的ではありながら十分力強い体制への批判が浮かび上がる。制限がある場合にこそ良いものが生れるという格言(?)はパナヒや他のイラン人監督の作品を観ると頷かされるものがある。
熊は監視人のこと、映画製作においては検閲官のことと思えば近いだろう。
蟻の次は熊でした。さてその次は?
2022年イラン映画 監督ジャファル・パナヒ
ネタバレあり
イランの映画監督ジャファル・パナヒはメタフィクションの監督である。「人生タクシー」「ある女優の不在」のどちらもメタフィクションの傑作で、続く本作はもっと手が込んでいる。
しかし、監督がメタフィクションを作るのは、ドラマ映画作りをイラン当局に禁じられた為ドキュメンタリーとして作っているという体裁を取る必要があるかららしい。
ちゃんと頭のある人が見ればメタフィクションとは言えドラマ映画であることは歴然としているが、検閲官が馬鹿なのか、あるいは承知で認めているのか。後者なら僕は検閲官に拍手を送りたい。
パナヒ監督扮するパナヒは遠隔操作で助監督に国外逃亡を図る男女のメタフィクションを作らせている。つまり、この映画には劇中劇どころかメタフィクション中メタフィクションという部分があるわけである。
監督が来たのはトルコとの国境に近いクルド人地区らしく、その為に国境警備の官憲に怪しまれる可能性が高い。しかし、本人は全く国外逃亡の気はなさそうである。つまり、これはパナヒ本人のイラン当局への一応の態度表白と理解して良い。
翻って、外側のメタフィクションの中で、彼は婚約者が他の男と昵懇になったと怒る若者が、村長を通して、彼が撮ったと思われるデジタル写真回収を図る。日本なら浮気証拠写真とうことになるが、名誉を重んずる保守的な村人にあっては女児生誕時に約された婚姻を破壊する要素を排除したいということ。不思議なものです。最初のうち写真は縁起が悪い等の迷信絡みなのかと思ったが、全然違いましたがな。
最後は外側・内側のお話が混然一体となるかのように悲劇が重なる。
自身を含め圧力をかけられる人々の自由への渇望が重層的に扱われ、迂遠的ではありながら十分力強い体制への批判が浮かび上がる。制限がある場合にこそ良いものが生れるという格言(?)はパナヒや他のイラン人監督の作品を観ると頷かされるものがある。
熊は監視人のこと、映画製作においては検閲官のことと思えば近いだろう。
蟻の次は熊でした。さてその次は?
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