映画評「人間の境界」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年ポーランド=アメリカ=チェコ=フランス=ベルギー=ドイツ=トルコ合作映画 監督アグニェシュカ・ホランド
ネタバレあり

ロシアによるウクライナ侵略が始まった頃、ベラルーシがEUを混乱させようとポーランドへ難民を送り込む親切ごかし政策が一部で話題になっていた。それをテーマにアグニェシュカ・ホランドが作った文字通りの際物である。

ベラルーシのフェイク報道により、中近東やアフリカからの難民がベラルーシに到着する。ベラルーシの国境警備隊は賄賂の要求(実際には送り込む指令を受けているので、そんなものがなくても実行するのだが)に応えて何とかポーランド側に入れて貰える。しかし、ポーランド側はベラルーシの人間兵器作戦を受けないと、難民たちを尽くベラルーシに送り返す。その繰り返しである。
 しかるに、送り返すにしても、老人、子供、妊婦もいるというのに、もっと人間らしい扱いができないものか?
 ポーランド警備隊の若者(トマシュ・ヴウォソク)は妻が出産間近であるが、自分たちの行為の酷さに耐え切れず、ある時トラックの中に隠れている難民を見逃す英断をする。
 片や、リモート・セラピーをしている心療内科の女医ユリア(マヤ・オスタシェフスカ)は近くの森の中の沼に溺れかけているアフガン女性とシリア少年を発見する。少年は亡くなるが、女性は一命を取り留める。これを契機に国境グループと称する難民支援団に加わる。
 それと共に難民が益々ひどい目に遭うのを目にしたグループは、警備隊や警察を刺激しない慎重姿勢を改め、より大胆な方針を取るようになる。

確かに大衆には国家があったほうが良いわけだが、それが大衆の為になっていない自国から逃げて来た難民に対しては国家が障壁になる。
 欧州と違って人数のオーダーが違い、寧ろ選んでくれて日本にやって来る難民たちに日本はもっと親切にならなければならない。難民に証拠を出せなどと言うのはかぐや姫の難題に等しい。国がなくなれなどとは言わないが、もっと人情的になれとは言わなければならない。
 欧州は受け入れすぎてパイがいっぱいになってしまい、極右台頭を招く結果になったが、その何百分の一しか難民が来ていない日本は余剰の受け皿になれば尊敬される国になるだろう。

さて、ホランドはモノクロによりポーランドの現実を即実的に映し出している。なかなか厳しい画面が感動さえ呼ぶ。
 ポーランド政府は事実ではないとしているが、現に体験している難民や国境グループの言を得ている製作者側の言っていることの方が正しいだろう。
 しかるに、個別にどうのこうの以上に、体制が庶民に優しくないのは、程度の差こそあれ、どの時代にもどの国にもあることなのだという認識を改めて持たせてくれる。

先月末の「朝まで生テレビ」で、元産経新聞論説委員長の乾正人が珍しく良いことを言っていた。日本に出来ることは子供たちを一時的に預かることくらいだ、と。

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