映画評「美と殺戮のすべて」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ映画 監督ローラ・ポイトラス
ネタバレあり

ナン・ゴールディンという女性写真家の半生と、彼女が創設したP.A.I.N.(苦痛という意味になる)というオキシコンチンという鎮痛剤による薬害に関する活動とを捉える二層構造のドキュメンタリーである。

二層構造ではあるが、彼女が写真家になったのは、健全な少女だった姉バーバラが(同性愛の傾向あり?)母親によって精神病院へ送り込まれた挙句に自殺を遂げたことから、写真を撮ることに目覚めていき、好んで対象にしたゲイカルチャーなどのサブカルチャーを通じて、エイズ患者への差別を目の当たりにすることで運動家的な素質が胚胎していくという流れがある。

その頃自らオキシコンチンへの依存に苦しめられ、自分と違って依存から逃れられずにオーヴァードーズで死んだ人が物凄い数に上がると知り、2018年に同調者と手を取り合って、自らの写真も展示している美術館で次々と抗議活動をするのである。
 製造元パーデュへの訴訟の効果もあって、美術館はバーデュ社経営一族からの寄付を断り、やがてはその名前を削除していく。

経済格差を理由に美術品にペンキか何かをかけるという事件が先年に連続した。美術品そのものはガラスで仕切られていたので無事だったが、人権を大事にする僕もこの活動は良くないと思ったものだ。しかるに、経済格差ではなく、こうした薬害を起こした会社の寄付を理由としていたのだとしたら、美術品を傷つけない限り手段としてはありうるかもしれない。芸術には人を “豊かにする” 効果もあるのだから、積極的には認めないが。

一見とりとめなく構成されているものの、前述通り彼女の人生と抗議運動との関係が切り離せないものであることが解るように作られて、抗議の積み重ねが大きな成功を得るに至ると、他人事とは思えない感動を覚える。

趣味が合えば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどの音楽に彩られる60年代70年代のサブカルチャーを捉えた写真群が楽しめるかもしれない。僕は音楽だけ楽しんでおりました。

ビューティフル・ボーイ」はオーヴァードーズをテーマにした実話ものでしたね。「ベン・イズ・バック」という作品もありました。

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