映画評「栄光のランナー/ベルリン1936」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年アメリカ=イギリス=ドイツ=カナダ=フランス合作映画 監督スティーヴン・ホプキンズ
ネタバレあり

小学校に上がる前にあった1964年の東京オリンピックは記憶がないが、68年のメキシコは多少憶えている部分があり、ここから僕のオリンピック狂が始まる。
 2020年(実施は21年)のオリンピック開催反対の合唱の中、僕は是非やれと言い続けた。コロナを理由に反対する意味が解らなかった。ひどいのは五輪開催でコロナ禍が拡大するという根拠のない意見で、終わった後にリベラル派の識者(僕が寧ろ普段は尊敬する方である)が五輪がコロナを拡げたのは間違いないというデマまで飛ばすのに啞然。コロナ感染数が7月終わりから8月にかけて急激に拡大するのは2020年から今年までずっと同じ。選手は出場する以上コロナに感染するような無謀をするわけがないのが自明の理なのに、外国人が来るとコロナが拡がると言ったリベラルは、五輪反対の為に排外主義者と同じ差別主義者になってしまった。

それはともかく、僕がジェシー・オーエンスの名前を知ったのは多分、小学校の時に雑誌「学習」によってだと思う。

本作はそのオーエンス(スティーヴン・ジェームズ)が、1936年のベルリン五輪でアーリア人の優性思想宣伝を目論むナチスの思惑を大きく崩す、一大会4つの金メダルを取り、アーリア人とりわけドイツ選手の金メダル獲得阻止に活躍する。
 彼はアメリカ国内でも差別やアパルトヘイトに苦しむ黒人選手であり、自由主義国家アメリカが人種民族差別排除を推進するナチス・ドイツの開催する五輪に参加すべきか否か、という政治的問題にも巻き込まれる。五輪代表に選ばれても出場するか否かという問題が付きまとう。
 実際に参加してもナチスはUSOC(アメリカ・オリンピック委員会)会長ブランデージ(後のIOC会長、記憶があります)にユダヤ人を出すなと交渉して来たり、100mでオーエンスが最初の金メダルを取った時にヒトラーは逃げる(金メダリストと写真を撮る慣習があったらしい)。

4つの金メダルを取ってもアメリカのホテルでアパルトヘイトの差別を受けるという場面が最後にある。コーチと分けられたオーエンス夫妻が乗るエレベーターのボーイ(白人少年)がサインをねだるところなど偏見や差別心を持たない人の何と清々しいことよ、と感動させられた。

オーエンスがベルリンに向かう船では彼は当然三等席に乗らざるを得ない。同じ頃を舞台にしながら、黒人母娘が一等席に陣取る新版「ナイル殺人事件」の何とデタラメであることか! 

(人種・民族)差別の問題に重点を置いて社会性を強く打ち出しつつ、オーエンス個人の伝記としても一通りがっちり作られている。黒人スポーツ選手の差別との苦闘を見せる映画としては、初の黒人大リーグ選手ジャッキー・ロビンスンを主人公にした「42~世界を変えた男~」と双璧を成すと思う。

大リーグの大記録は多く戦前の選手が残すが、当時黒人選手が全くいなかったことを考えると、その数字は1950年代以降の選手と比べると条件付きになる気がする。当時の黒人リーグの実力は大リーグと余り変わらないと言われる。サチェル・ページが最初から大リーガーだったなら何勝したろうか? 40歳を過ぎて加わった大リーグで通算28勝を遂げた(それも凄いと思う)が、黒人リーグでは2500試合以上投げて2000勝したと言う。全盛期の1930年に大リーグ選抜チームと試合をした時に22の奪三振を記録した。作新高校時代の江川投手みたいだ。

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