映画評「救ひを求むる人々」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1925年アメリカ映画 監督ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
ネタバレあり
戦前の大監督ジョゼフ・フォン・スタンバーグのデビュー作。猪俣勝人の「世界映画名作全史:戦前編」で紹介されていて見たかった作品である。
YouTube に Genjitsu films という貴重な映画チャンネルがあることを教えられ、無償で観ることが出来た。音楽に比べると映画は充実していないが、それでもこういうチャンスがあるから YouTube は有難い存在と言うべし。
スタンバーグの自主制作で、チャールズ・チャップリンがこれを気に入り、関連するユナイテッド・アーティスツが配給した。製作されたその年のうちに日本にも輸入され、猪俣氏、双葉十三郎先生、黒澤明監督など当時の若者(三人ともミドルティーンだった)を感激させたらしい。
ある波止場に浚泥船がある。停泊する別の船に乗っている若者ジョージ・K・アーサーが浚泥船を見るうち、同じ年頃のうらぶれた美人ジョージア・ヘールを発見する。乗組員に捕まった少年ブルース・ゲーリンを救って三人でたむろしていると、腰かけていた大きなバッグの中から黒猫が飛び出す。
これに暗示を感じた三人の疑似家族は陸に上がって生活を始めようとするが、仕事も金もない。そこへ親切ごかしに女衒オラーフ・ハイテンが現れ、住む部屋を宛がってくれるが、その魂胆は勿論ジョージアを街娼として働かせることである。しかし、なかなかうまく行かないので、情婦を加えた5人でピクニックに行き、ほだす作戦を取る。
が、様子を見たアーサー君が微温的な態度を捨てると思わぬ力を発揮、女衒野郎を打ち倒し、三人で家族のように一体となってその場を去っていく。
開会直後のメッセージは文字通り説教臭いものの、なかなか文学的で、その後情景と字幕とをサンドウィッチにして短い感覚でリズム良く見せていく。
描写は頗る詩的で、浚泥船の捉え方など大袈裟に言えばうっとりするほど美しい。お話が具体的になるに連れ、20年後のイタリアン・ネオ・レアリスモのような情景が繰り広げられていく。
泥は最低生活の象徴で、疑似家族となった三人が、理想の生活である太陽に向かっていかに進むかというのがお話の骨格である。
そして、女衒を倒した後のカット割りが実に良い。まず三人を前面から捉え、字幕を挟んで横移動となり、字幕を挟んで後姿を捉える。その向うに太陽が見えている。字幕が煩いという意見が多いが、僕はこの見せ方が好きだ。
ご贔屓ドアーズに「太陽を待ちながら」Waiting for the Sunという曲とアルバムがある。ややこしいことにこの題名のアルバムにこの曲は入っていない。この歌が登場するのは2作後のアルバムなのだ。
1925年アメリカ映画 監督ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
ネタバレあり
戦前の大監督ジョゼフ・フォン・スタンバーグのデビュー作。猪俣勝人の「世界映画名作全史:戦前編」で紹介されていて見たかった作品である。
YouTube に Genjitsu films という貴重な映画チャンネルがあることを教えられ、無償で観ることが出来た。音楽に比べると映画は充実していないが、それでもこういうチャンスがあるから YouTube は有難い存在と言うべし。
スタンバーグの自主制作で、チャールズ・チャップリンがこれを気に入り、関連するユナイテッド・アーティスツが配給した。製作されたその年のうちに日本にも輸入され、猪俣氏、双葉十三郎先生、黒澤明監督など当時の若者(三人ともミドルティーンだった)を感激させたらしい。
ある波止場に浚泥船がある。停泊する別の船に乗っている若者ジョージ・K・アーサーが浚泥船を見るうち、同じ年頃のうらぶれた美人ジョージア・ヘールを発見する。乗組員に捕まった少年ブルース・ゲーリンを救って三人でたむろしていると、腰かけていた大きなバッグの中から黒猫が飛び出す。
これに暗示を感じた三人の疑似家族は陸に上がって生活を始めようとするが、仕事も金もない。そこへ親切ごかしに女衒オラーフ・ハイテンが現れ、住む部屋を宛がってくれるが、その魂胆は勿論ジョージアを街娼として働かせることである。しかし、なかなかうまく行かないので、情婦を加えた5人でピクニックに行き、ほだす作戦を取る。
が、様子を見たアーサー君が微温的な態度を捨てると思わぬ力を発揮、女衒野郎を打ち倒し、三人で家族のように一体となってその場を去っていく。
開会直後のメッセージは文字通り説教臭いものの、なかなか文学的で、その後情景と字幕とをサンドウィッチにして短い感覚でリズム良く見せていく。
描写は頗る詩的で、浚泥船の捉え方など大袈裟に言えばうっとりするほど美しい。お話が具体的になるに連れ、20年後のイタリアン・ネオ・レアリスモのような情景が繰り広げられていく。
泥は最低生活の象徴で、疑似家族となった三人が、理想の生活である太陽に向かっていかに進むかというのがお話の骨格である。
そして、女衒を倒した後のカット割りが実に良い。まず三人を前面から捉え、字幕を挟んで横移動となり、字幕を挟んで後姿を捉える。その向うに太陽が見えている。字幕が煩いという意見が多いが、僕はこの見せ方が好きだ。
ご贔屓ドアーズに「太陽を待ちながら」Waiting for the Sunという曲とアルバムがある。ややこしいことにこの題名のアルバムにこの曲は入っていない。この歌が登場するのは2作後のアルバムなのだ。
この記事へのコメント
YouTubeによくある古い映画をアップした動画だと、字幕をオンにしても違和感のある機械翻訳で映画に集中できないのですが、そちらのYouTubeチャンネルは自然な日本語字幕を付けてくれる良質なチャンネルでした。
それにしても、監督デビュー作の自主制作でこのレベルの映画が作れちゃうのが、さすがはスタンバーグです!
後の作品ほどの派手さはないものの、叙情的な始まりから、ラストに向かって徐々にリアリズムを増していくのが印象的な作品でした。
サイレント映画を観ていると、字幕の扱いが巧い作品に出会えますね。
今パッと頭に思い浮かんだのは、フリッツ・ラング「ドクトル・マブゼ」やF・W・ムルナウ「サンライズ」ですね。
(そういえば「サンライズ」は現在Prime Videoで観られますね)
>字幕をオンにしても違和感のある機械翻訳で映画に集中できない
それはありますね。
サイレント映画の字幕くらいなら僕は理解できますが、ネイティヴほど早く読めないことが多いので、やはり正確な日本語字幕は有難いですね。
>後の作品ほどの派手さはないものの、叙情的な始まりから、ラストに向かって徐々にリアリズムを増していくのが印象的な作品でした。
全く仰る通り。ディートリッヒと長く組まなければ、もっと長く良い監督でいられたかもしれません。
>サイレント映画を観ていると、字幕の扱いが巧い作品に出会えますね。
そうなんですよ。
>フリッツ・ラング「ドクトル・マブゼ」F・W・ムルナウ「サンライズ」ですね。
共に大傑作!
>(そういえば「サンライズ」は現在Prime Videoで観られますね)
「サンライズ」はビデオを買って今も持っていますが、ちゃんと映るかな?
観るなら Prime Video がベターでしょう。