古典ときどき現代文学:読書録2024年冬号
新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
季刊になって初めての冬号。三カ月に一遍ですので、あっという間に発表の時がやって来ます。季刊ペースの欠点は、哲学書の大著や今回も分冊を一巻読んだ野間宏の「青年の環」(文庫本にすると4000ページを超えるだろう)のような大長編など、余り長いものを続けて読めないことですね。リストが数編で終わったらさすがに貧相すぎる(笑)。
さて、以下のリストで最初がプルタルコスなのでのげぞるでしょうが、最近はかかる大古典の比率が下がって(殆ど読んでしまいました)、比較的新しい作品が多くなっています。図書館で借りて読むことをベースとしていますので、ほやほやの新刊こそない(新刊は借り手あまたで順番が回って来ない)ですが、映画化された本などぐっと身近な作品が少なくないと思います。
現在、様々な賞リスト、ベスト選出などから読む本を選ぶことが多い一方、常連の方からの推薦が非常にヘルプフルなのですよ。薦められたどの本も金銭、もとい、琴線に触れるものばかり。決して忖度ではなく、文学史に燦然と輝くものではないかもしれないものの中に、隠れた珠玉があるということに気付かされます。このような宝石を掘り出すことが読書本来の楽しみでしょうか。
それでは、ご笑覧ください。
プルタルコス
「プルターク英雄伝:セルトリーウス/エウメネース」
★対比するからには共通点がある。ギリシャ代表セルトリーウスはマケドニア、ローマ代表エウメネースはヒスパニア(スペイン)の為に働いたことを根拠とする。前者は戦争嫌いで戦術的に殺され、後者は好戦派で政策的に暗殺された。
「プルターク英雄伝:アゲーシラーオス/ポンペーイウス」
★★前者は正確にはアゲーシラーオス2世というスパルタ王で、後者はお馴染み第一回三頭政治の一人。日本の世界史教科書にも載るだけあって、断トツに長い記述を要してい、個人的にも興味を持って読める。共通点は共にエジプト絡みで亡くなったということ。
リービ 英雄
「星条旗の聞こえない部屋」
★★★在日米国領事の息子が日本嫌いの父親に反抗して家出し、日本や日本人や日本語を相当理解したと思うも、その外観故に結局疎外から逃れることが出来ない。アメリカ出身の作者が完璧な日本語で書いた日本の小説。外国人が他の言語で小説を書く心境が主人公にオーヴァーラップしようか。
アラン・シリトー
「土曜の夜と日曜の朝」
★★★映画版がなかなか良かった。年上の女性二人(姉妹)と不倫をして、周辺に怪しい動きが出て来ると、年下の女性に気持ちを移してそれなりに安定した生活を求める気分が芽生えて来る。労働者階級精神を扱った一種の青春小説。
アルフレッド・ベスター
「虎よ、虎よ!」
★★★多くの人間が瞬間移動(人によって差がある)25世紀の時代、宇宙空間で助けられるべき飛行体に無視されたことを恨んで、その飛行体を所有する企業などに復讐する為に行動するSF版「モンテ・クリスト」。僕が苦手とするニューウェーヴSFの台頭で再評価されたそうだが、この小説自体は苦手とは程遠く面白い。★一つ多くしても良いと思ったが、余り★の安売りはしないことにする(笑)。
喜多村 筠庭
「嬉遊笑覧」
★江戸時代の百科事典。5冊分冊の3冊目。巻之五から巻之七までで、主に歌舞と遊びなど大衆文化について綴る。歌舞伎の歴史が面白く読めるが、独楽といった遊びの語源なども勉強になる。過去の書物から引用しその正否を分析するというスタイルはグロティウスの国際法「戦争と平和の法」に似た着想である。どうどうめぐりが仏教由来であるとか、なかなか面白いが、漢文の部分の大半を読み飛ばしているので、威張ったことは言えない。日本の民俗学の研究をする人には全巻必読であろうし、時代・歴史小説の書き手も読むべきだろうし、かなりの人が読んでいるだろう。そうそう、姑獲鳥(うぶめ)も出てきましたぞ。
京極 夏彦
「魍魎の匣」
★★★★★百鬼夜行シリーズ第2弾。映画版も異色の面白さがあるが、原作の奇奇怪怪ぶりはぐっと凄い。衒学趣味は「黒死館殺人事件」、残虐+科学趣味は江戸川乱歩、京極堂の初見での推理はホームズ風。1952年が舞台背景で、文章や文字の使い方で当時の雰囲気を濃厚に再現する一方、【探偵】【猟奇】【切れる】といった単語の意味や使い方は意図的に現在に寄せている感じ。例えば、本来【猟奇】に残忍の意味はないわけで、たった一件の事件についてこの単語は52年なら使わなかっただろうと思う。宗教家・霊能者・占い師・超能力者の違いを宗教家でもある京極堂が整然と説明するところが実に面白い。
ミュリエル・スパーク
「ミス・ブロウディの青春」
★★★邦題「ミス・ブロディの青春」という映画は大昔TVで観た。マギー・スミスの出世作である。この場合のミスは女性教師を意味する。ブロディ先生は反権威主義的で校長と仲が悪く、6人くらいの生徒をいつも自分の後継者にしようと卒業までブロディ組として組織するのだが、そのうちの一人に裏切られて、ファシズム支持者として学校から放逐される。少女の変容の速さと残酷さがテーマか。スパークの文章は現在と過去が自由自在に出て来る錯時法だが、時系列上の現在は過去から見た未来という形で語られること(予弁法)が多い。
「貧しき娘たち」
★★錯時法のスタイルは上と変わらず、若い女性のグループが出て来るのも上に似ている。こちらは女子寮に暮らす若者たちの群像劇で、戦争末期が舞台。女子寮の描写などいかにも英国的なユーモアが横溢するが、不発弾の爆発による悲劇なども出て来る。ちょっとピンと来ない。
松井 今朝子
「吉原手引草」
★★★★人情時代小説とも言えるし、ミステリー要素も濃厚にある。ある人物が吉原の妓楼などを歴訪してある花魁のことを巧みに聞き出そうとする。まず事件そのものが謎で、その事件が明らかになった後、真相に近づくという形。今で言えば刑事が正体を隠して捜査するという内容なのだが、その間に廓の詳細を色々と浮かび上がらせるところに風俗的興味も湧く。
植草 甚一
「ヒッチコック万歳!」
★★★★映画関係の本は殆ど読まない僕もヒッチコック関連だけはよく読んでいるので、新しい情報は殆どないし、恐らく20年以上に渡る文章を編集したものなので内容的にダブるなどする欠点もあるが、逆に1950年代初めヒッチコックがまだ今のように知られていない時期におけるヒッチの評価が解るところは非常に興味深い。野口久光と岡俊雄(進行役のような感じ)を交えた鼎談が収録されているが、趣味が近い双葉十三郎先生との対談でもあったらぐっと面白かったろう。【時の扱い】に関して昨秋に観た「ヒッチコックの映画術」と同じようなコメントを述べているのもニヤッとさせられる。
「サスペンス映画の研究」
★★★★良い脚本は必然的に良い映画になるという説を最初に述べたのは、植草甚一だったのか。この本で2回そのような主旨の叙述がある。かくサスペンスを超えた映画論のようなものが随所に見られる。ここに出て来る映画の大半を僕は観ているが、映画評の類は観た直後でないとピンと来ないという宿命は避けられない。最後に双葉先生が後書きでサスペンス映画の歴史を軽く振り返っているところが儲けものの感あり。
吉田 修一
「パーク・ライフ」
★★★第127回(2002年上半期)芥川賞受賞作。ロック・バンドのブラーが1994年に同名のアルバム(但し単語の間の ● がない)を出しているが、勿論関係ない。ある人と全く同感で、起承転結の転結の部分がない。この類はある時代以降の芥川賞には多い。地下鉄で知り合った男女が同じ公園で休む同志として親しくなり、行動を共にすることが多くなるが、美術館に行った後ヒロインは何かを決心したことを告げて去る。主人公がその決心が何か解らないのだから読者も当然解らないが、あるいは主人公と恋愛関係に入る決心かもしれない、とロマンティストの僕は思う。
「flowers」
★★水配送業企業に務める主人公が先輩たる同僚の厭らしさに最後は反抗するというお話だが、全くピンと来ない。上の小説のタイトルを冠した単行本所収の短編で、性的な香りが殆どなかった上の作品に対してこちらはかなり性的な叙述があり。
ポール・オースター
「ガラスの街」
★★★★ニュー・ヨーク三部作の第1作。ある人物の文章として、 物と名は (失楽園後) 交換可能でなくなった、 という言葉が出て来る。これが主題だろう。主人公の作家ダニエル・クインはウィリアム・ウィルソンというペンネームで探偵小説を書き、ポール・オースターという名前の探偵と間違えられ、その名前でピーター・スティルマンという精神病院から出て来た父親から同じ名前の息子を守るという奇妙な仕事を引き受ける。主人公が会うポール・オースターという人物はニュー・ヨークにいる小説家であって探偵ではないが、この物語の書き手は別人である。主人公が贔屓にする野球選手の本名がウィリアム・ウィルソンで、これはエドガー・アラン・ポーのドッペルゲンガーの名前である。そして、作者オースターは存在しないことに存在の意味を見出そうとする。つまり、実存主義的な小説と言って良いと思う。色々な仕掛けが面白い。
「幽霊たち」
★★★★第2作。頗る面白いが、続けて読むと類似部分が多いので、★一つ遠慮した。これは “我思う、故に我あり” のアンチテーゼのような内容で、分身という言葉が出て来る。探偵ブルーが、ホワイトなる人物からブラックなる人物を監視するよう頼まれる。しかし、それを続けるうちにブラックが自分を監視しているように思えて来る。彼は何かを書いているが、それは自分がブラックについて書いているように、ブルーのことを書いているのかもしれない。鏡の自分を見るようにお話は進み、考えるうちに自分が消えていく。やはり実存主義的な小説である。
「鍵のかかった部屋」
★★★第3作。ここに至って話者がオースター本人となり、「ガラスの街」の探偵ウィンや彼が追うピーター・スティルマンの名を持つ男が登場し、遂にシリーズのメタフィクションぶりがはっきりする。逆にそれがはっきりするまでは、上の二作のような仕掛けに乏しい為に一般的な小説に近く感じるが、一旦出た後の叙述は怒涛となって凄まじい。
大道 珠貴
「しょっぱいドライブ」
★★★第128回(2002年下半期)芥川賞受賞作。どちらかと言えば大人しめに見える、妙齢期を少し過ぎた(現在なら十分妙齢か)ようなヒロインが、今は亡き親と同じ位の親の知り合いと懇ろになってまったりと関係を続け、そのまま結ばれても良いかという心境に至るところまでを綴る。
「富士額」
★上記小説のタイトルを冠した単行本の所収短編。富士額は相撲取りのことで、そんな大男としけこむ中学女生徒のお話。この作者のヒロインはいずれも強い自己を持たない。大人しいというより醒めている。何を書いているのか全く解らない。
「タンポポと流星」
★★作者の造形する典型的なヒロイン像。彼女は福岡県出身で、東京に出て働き始めるが、寮で同郷の親友(どちらかと言うと悪友)の再訪を受けたり、鹿児島県出身の大人しめの後輩と日々を過ごしたりする。おっとりした性格に見える後輩は焼かれた猫の頭蓋骨を何か希少なものと勘違いしてはしゃぐ始末。ヒロインは、それをいつの間にか部屋に訪れなくなった猫のものかと訝ったりする。どうも解りませんな。
A・A・ミルン
「赤い館の秘密」(再)
★★★「プーさん」の作者らしく牧歌的な本格推理小説。黄金時代の傑作の一つとされている。こうして読み直すと、「赤毛のレドメイン家」や「ナイン・テイラーズ」など当時は人物トリックが流行っていたことが理解できる。今読むには黄金時代の本格推理は大体において退屈で、本作もその印象を必ずしも回避できないが、牧歌的なところが捨てがたい。
モーリス・ルブラン
「ルパンの告白」(再)
★★★★「怪盗紳士ルパン」に続く短編集で、9編を収録。小学生の時に読んではいるが憶えていなかった。ミステリー・ファンの間で評価の高い「赤い絹のスカーフ」(3年前に江戸川乱歩が選んだ名短編の一つとして「赤い絹の肩掛け」の邦題のものを読んだ)や暗号もの「太陽のたわむれ」など気の利いた佳品が多い。
「オルヌカン城の謎」
★★ルパン・シリーズには入っているが、ルパンは主人公にサジェストするだけの一場面に、それも回想で出て来るだけ。それ以上に気に入らないのは余りにドイツ憎しの愛国的冒険小説になりすぎていることだ。「813」と重なるところもあっても、ルパン・ファンにはお勧めできない。まあ以前から感じていたように、ルブランが大デュマ的な冒険サスペンスの作者と改めて確認できたことが収穫か。
瀬戸内 晴美(寂聴)
「かの子撩乱」
★★★★★伝記小説とされるが、実際には実在する人物は全て実名であるし、ノンフィクションに分類されるべきものである。瀬戸内の筆力もさることながら、戦前の女流作家の中では樋口一葉と並ぶ作家であろう岡本かの子その人の生き方が凄い。子供の頃から暴君で、後に漫画家(今の漫画ではない)として大成する岡本一平と結婚した後も男3人を従える様子が、彼女を評価することのなかった兄の友人・谷崎潤一郎の小説のようで、圧巻だ。彼女は肥えた様子同様に天真爛漫であるが、臆病と自信が同時に存在するような繊細な人でもあったらしい。最後の方になると涙が流れて仕方がなかった。悲劇的な人生というわけでもないものの、その芸術に捧げる姿が僕の胸を打ったのだ、
ボリス・ヴィアン
「うたかたの日々」
★★★映画「墓にツバをかけろ」の原作者ヴィアンの幻想恋愛小説。音楽が二人を包んだり、デューク・エリントンの音楽が部屋をゆがめたり、ハツカネズミと意思疎通したり。音楽好きの主人公が結婚した若妻の肺にスイレンが育ち、結局彼女は死んでしまうというお話。これが映画化されたというのだからオドロキ! あっと言う間に読めるし、退屈もしないが、ピンと来たと言えばウソとなる。
マリオ・プーヅォ
「ゴッドファーザー」
★★★★お馴染みの映画の原作。第2作のヴィトー・コルレオーネの若い時代までカバーされている。時代考証的に間違っているところが一ヶ所あり、主人公マイケルが復員した直後即ち1945年頃の挿話にジェームズ・ディーンの名前が出て来る。作者のうっかりですな。歌手で俳優のジョニー・フォンテインが戦争映画でアカデミー賞男優賞に候補になる辺りは「地上より永遠に」のフランク・シナトラを思わせたりもする。彼の出番が映画に比べて多いように、群像劇でもある。映画はそれをぐっとスリムにして作った感じだ。
H・P・ラヴクラフト
「ラヴクラフト全集4」
★★★創元推理文庫にて。星新一を知った中学生から高校時代にかけて豊田有恒や平井和正の短編小説集を好んで読んでいた僕はラヴクラフトにも注目したが、それから50年近くも放置した。先年ニコラス・ケイジ主演で映画化された「宇宙からの色」と、幻想文学系列では最重要らしいラヴクラフトの中ではかなり長い「狂気の山脈にて」を収めているのでこの中短編集を選んだ。科学をベースにした作品を集めたとあるように、SF的な作品群。宇宙絡みが多い。「宇宙からの色」は宇宙からの何物かの影響で一家が全滅し、周囲の村もおかしくなるというお話。「狂気の山脈にて」はエドガー・アラン・ポーとジュール・ヴェルヌを合体させたような感じで、恐怖の合間合間に、宇宙人が地球の生命に叡智を授けたと読めるような内容だが、冗長と思う。
綾辻 行人
「十角館の殺人」
★★★★東西ミステリーベスト100<日本編>で8位に選出されるなど評判が良く、図書館でもなかなか借りられなかった。社会派ミステリーへの批判は作者の本音であろうし、それを作品で有言実行している。映像化が難しい叙述トリックの作品であるが、現在日本テレビ系列でhulu制作版が放映中。「アクロイド殺人事件」の映像化では一番肝心の叙述トリックを無視していたのでさして面白くなかったが、本作hulu版はその部分を無視していない。「そして誰もいなくなった」と同じくクローズド・サークルの孤島もので、そこにトリックがある。一ヶ所ある人物の内心の叙述に嘘があるのが瑕疵。巧く隠すのは良いが嘘はダメである。「アガサと真夜中の殺人者」の映画評で書いたように、クローズド・サークルものはやや児戯的になりがちで、本作は児戯とは言わないものの、京極夏彦あたりのほうが大人の鑑賞眼に堪える感じがする。
野間 宏
「青年の環 第4巻:影の領域」
★★★★いよいよ佳境だろうか。出自と性病をネタに襲って来る田口を逆に田口の出自をもって追い詰めたと感じていたところ大いに逆襲されて動揺する大道出泉(だいどう・いずみ)と、田口の出身かも知れない部落の福利厚生に奮闘する一方特高警察に怯える共産主義者・矢花正行の心理を、対位法的に綴る。文庫本にすれば恐らく4000ページを超えようとする大作にして扱う期間はごく限られているという、まるで「失われた時を求めて」の如くスローな展開だが、心理サスペンスとして読めるので、これがなかなか面白い。
冲方 丁
「天地明察」
★★★江戸時代前半に日本の暦を大いに進展させた渋谷春海(安井算哲)の伝記小説。映画版を観て興味を覚えて10年越しの願望を果たして読んでみた。映画以上に感銘的だが、映画を観て凡その流れを知っていた為に損をした。映画よりわが群馬(上州)由来の数学の天才関孝和が重要なように感じられる。本作での春海は二人の細君を持ち、後妻えんは影響を与えた重要人物ながら、ウィキペディアを読むと配偶者については全く解っていないということなので、作者の創作なのだろう。
ハ・ジン
「待ち暮らし」
★★★★★文化大革命時代から80年代の解放時代までを舞台に、軍の医療関係者が離れて暮らす妻と近くにいる愛人との関係を巡って心を揺らす。封建主義的な考えが男も女も悩ませることは伺えるが、作者はそれ自体を批判するというより、個人の心情にのみ関心を傾ける。チェーホフ的な切なさが滲み出る。幕切れの “あの声ならまだ生きられる” という、18年も待って妻に迎えた元愛人に対する主人公の感慨は “また待たされる” という思いが感じられ、両義的。この辺りの捌き方もチェーホフっぽい。
季刊になって初めての冬号。三カ月に一遍ですので、あっという間に発表の時がやって来ます。季刊ペースの欠点は、哲学書の大著や今回も分冊を一巻読んだ野間宏の「青年の環」(文庫本にすると4000ページを超えるだろう)のような大長編など、余り長いものを続けて読めないことですね。リストが数編で終わったらさすがに貧相すぎる(笑)。
さて、以下のリストで最初がプルタルコスなのでのげぞるでしょうが、最近はかかる大古典の比率が下がって(殆ど読んでしまいました)、比較的新しい作品が多くなっています。図書館で借りて読むことをベースとしていますので、ほやほやの新刊こそない(新刊は借り手あまたで順番が回って来ない)ですが、映画化された本などぐっと身近な作品が少なくないと思います。
現在、様々な賞リスト、ベスト選出などから読む本を選ぶことが多い一方、常連の方からの推薦が非常にヘルプフルなのですよ。薦められたどの本も金銭、もとい、琴線に触れるものばかり。決して忖度ではなく、文学史に燦然と輝くものではないかもしれないものの中に、隠れた珠玉があるということに気付かされます。このような宝石を掘り出すことが読書本来の楽しみでしょうか。
それでは、ご笑覧ください。
***** 記 *****
プルタルコス
「プルターク英雄伝:セルトリーウス/エウメネース」
★対比するからには共通点がある。ギリシャ代表セルトリーウスはマケドニア、ローマ代表エウメネースはヒスパニア(スペイン)の為に働いたことを根拠とする。前者は戦争嫌いで戦術的に殺され、後者は好戦派で政策的に暗殺された。
「プルターク英雄伝:アゲーシラーオス/ポンペーイウス」
★★前者は正確にはアゲーシラーオス2世というスパルタ王で、後者はお馴染み第一回三頭政治の一人。日本の世界史教科書にも載るだけあって、断トツに長い記述を要してい、個人的にも興味を持って読める。共通点は共にエジプト絡みで亡くなったということ。
リービ 英雄
「星条旗の聞こえない部屋」
★★★在日米国領事の息子が日本嫌いの父親に反抗して家出し、日本や日本人や日本語を相当理解したと思うも、その外観故に結局疎外から逃れることが出来ない。アメリカ出身の作者が完璧な日本語で書いた日本の小説。外国人が他の言語で小説を書く心境が主人公にオーヴァーラップしようか。
アラン・シリトー
「土曜の夜と日曜の朝」
★★★映画版がなかなか良かった。年上の女性二人(姉妹)と不倫をして、周辺に怪しい動きが出て来ると、年下の女性に気持ちを移してそれなりに安定した生活を求める気分が芽生えて来る。労働者階級精神を扱った一種の青春小説。
アルフレッド・ベスター
「虎よ、虎よ!」
★★★多くの人間が瞬間移動(人によって差がある)25世紀の時代、宇宙空間で助けられるべき飛行体に無視されたことを恨んで、その飛行体を所有する企業などに復讐する為に行動するSF版「モンテ・クリスト」。僕が苦手とするニューウェーヴSFの台頭で再評価されたそうだが、この小説自体は苦手とは程遠く面白い。★一つ多くしても良いと思ったが、余り★の安売りはしないことにする(笑)。
喜多村 筠庭
「嬉遊笑覧」
★江戸時代の百科事典。5冊分冊の3冊目。巻之五から巻之七までで、主に歌舞と遊びなど大衆文化について綴る。歌舞伎の歴史が面白く読めるが、独楽といった遊びの語源なども勉強になる。過去の書物から引用しその正否を分析するというスタイルはグロティウスの国際法「戦争と平和の法」に似た着想である。どうどうめぐりが仏教由来であるとか、なかなか面白いが、漢文の部分の大半を読み飛ばしているので、威張ったことは言えない。日本の民俗学の研究をする人には全巻必読であろうし、時代・歴史小説の書き手も読むべきだろうし、かなりの人が読んでいるだろう。そうそう、姑獲鳥(うぶめ)も出てきましたぞ。
京極 夏彦
「魍魎の匣」
★★★★★百鬼夜行シリーズ第2弾。映画版も異色の面白さがあるが、原作の奇奇怪怪ぶりはぐっと凄い。衒学趣味は「黒死館殺人事件」、残虐+科学趣味は江戸川乱歩、京極堂の初見での推理はホームズ風。1952年が舞台背景で、文章や文字の使い方で当時の雰囲気を濃厚に再現する一方、【探偵】【猟奇】【切れる】といった単語の意味や使い方は意図的に現在に寄せている感じ。例えば、本来【猟奇】に残忍の意味はないわけで、たった一件の事件についてこの単語は52年なら使わなかっただろうと思う。宗教家・霊能者・占い師・超能力者の違いを宗教家でもある京極堂が整然と説明するところが実に面白い。
ミュリエル・スパーク
「ミス・ブロウディの青春」
★★★邦題「ミス・ブロディの青春」という映画は大昔TVで観た。マギー・スミスの出世作である。この場合のミスは女性教師を意味する。ブロディ先生は反権威主義的で校長と仲が悪く、6人くらいの生徒をいつも自分の後継者にしようと卒業までブロディ組として組織するのだが、そのうちの一人に裏切られて、ファシズム支持者として学校から放逐される。少女の変容の速さと残酷さがテーマか。スパークの文章は現在と過去が自由自在に出て来る錯時法だが、時系列上の現在は過去から見た未来という形で語られること(予弁法)が多い。
「貧しき娘たち」
★★錯時法のスタイルは上と変わらず、若い女性のグループが出て来るのも上に似ている。こちらは女子寮に暮らす若者たちの群像劇で、戦争末期が舞台。女子寮の描写などいかにも英国的なユーモアが横溢するが、不発弾の爆発による悲劇なども出て来る。ちょっとピンと来ない。
松井 今朝子
「吉原手引草」
★★★★人情時代小説とも言えるし、ミステリー要素も濃厚にある。ある人物が吉原の妓楼などを歴訪してある花魁のことを巧みに聞き出そうとする。まず事件そのものが謎で、その事件が明らかになった後、真相に近づくという形。今で言えば刑事が正体を隠して捜査するという内容なのだが、その間に廓の詳細を色々と浮かび上がらせるところに風俗的興味も湧く。
植草 甚一
「ヒッチコック万歳!」
★★★★映画関係の本は殆ど読まない僕もヒッチコック関連だけはよく読んでいるので、新しい情報は殆どないし、恐らく20年以上に渡る文章を編集したものなので内容的にダブるなどする欠点もあるが、逆に1950年代初めヒッチコックがまだ今のように知られていない時期におけるヒッチの評価が解るところは非常に興味深い。野口久光と岡俊雄(進行役のような感じ)を交えた鼎談が収録されているが、趣味が近い双葉十三郎先生との対談でもあったらぐっと面白かったろう。【時の扱い】に関して昨秋に観た「ヒッチコックの映画術」と同じようなコメントを述べているのもニヤッとさせられる。
「サスペンス映画の研究」
★★★★良い脚本は必然的に良い映画になるという説を最初に述べたのは、植草甚一だったのか。この本で2回そのような主旨の叙述がある。かくサスペンスを超えた映画論のようなものが随所に見られる。ここに出て来る映画の大半を僕は観ているが、映画評の類は観た直後でないとピンと来ないという宿命は避けられない。最後に双葉先生が後書きでサスペンス映画の歴史を軽く振り返っているところが儲けものの感あり。
吉田 修一
「パーク・ライフ」
★★★第127回(2002年上半期)芥川賞受賞作。ロック・バンドのブラーが1994年に同名のアルバム(但し単語の間の ● がない)を出しているが、勿論関係ない。ある人と全く同感で、起承転結の転結の部分がない。この類はある時代以降の芥川賞には多い。地下鉄で知り合った男女が同じ公園で休む同志として親しくなり、行動を共にすることが多くなるが、美術館に行った後ヒロインは何かを決心したことを告げて去る。主人公がその決心が何か解らないのだから読者も当然解らないが、あるいは主人公と恋愛関係に入る決心かもしれない、とロマンティストの僕は思う。
「flowers」
★★水配送業企業に務める主人公が先輩たる同僚の厭らしさに最後は反抗するというお話だが、全くピンと来ない。上の小説のタイトルを冠した単行本所収の短編で、性的な香りが殆どなかった上の作品に対してこちらはかなり性的な叙述があり。
ポール・オースター
「ガラスの街」
★★★★ニュー・ヨーク三部作の第1作。ある人物の文章として、 物と名は (失楽園後) 交換可能でなくなった、 という言葉が出て来る。これが主題だろう。主人公の作家ダニエル・クインはウィリアム・ウィルソンというペンネームで探偵小説を書き、ポール・オースターという名前の探偵と間違えられ、その名前でピーター・スティルマンという精神病院から出て来た父親から同じ名前の息子を守るという奇妙な仕事を引き受ける。主人公が会うポール・オースターという人物はニュー・ヨークにいる小説家であって探偵ではないが、この物語の書き手は別人である。主人公が贔屓にする野球選手の本名がウィリアム・ウィルソンで、これはエドガー・アラン・ポーのドッペルゲンガーの名前である。そして、作者オースターは存在しないことに存在の意味を見出そうとする。つまり、実存主義的な小説と言って良いと思う。色々な仕掛けが面白い。
「幽霊たち」
★★★★第2作。頗る面白いが、続けて読むと類似部分が多いので、★一つ遠慮した。これは “我思う、故に我あり” のアンチテーゼのような内容で、分身という言葉が出て来る。探偵ブルーが、ホワイトなる人物からブラックなる人物を監視するよう頼まれる。しかし、それを続けるうちにブラックが自分を監視しているように思えて来る。彼は何かを書いているが、それは自分がブラックについて書いているように、ブルーのことを書いているのかもしれない。鏡の自分を見るようにお話は進み、考えるうちに自分が消えていく。やはり実存主義的な小説である。
「鍵のかかった部屋」
★★★第3作。ここに至って話者がオースター本人となり、「ガラスの街」の探偵ウィンや彼が追うピーター・スティルマンの名を持つ男が登場し、遂にシリーズのメタフィクションぶりがはっきりする。逆にそれがはっきりするまでは、上の二作のような仕掛けに乏しい為に一般的な小説に近く感じるが、一旦出た後の叙述は怒涛となって凄まじい。
大道 珠貴
「しょっぱいドライブ」
★★★第128回(2002年下半期)芥川賞受賞作。どちらかと言えば大人しめに見える、妙齢期を少し過ぎた(現在なら十分妙齢か)ようなヒロインが、今は亡き親と同じ位の親の知り合いと懇ろになってまったりと関係を続け、そのまま結ばれても良いかという心境に至るところまでを綴る。
「富士額」
★上記小説のタイトルを冠した単行本の所収短編。富士額は相撲取りのことで、そんな大男としけこむ中学女生徒のお話。この作者のヒロインはいずれも強い自己を持たない。大人しいというより醒めている。何を書いているのか全く解らない。
「タンポポと流星」
★★作者の造形する典型的なヒロイン像。彼女は福岡県出身で、東京に出て働き始めるが、寮で同郷の親友(どちらかと言うと悪友)の再訪を受けたり、鹿児島県出身の大人しめの後輩と日々を過ごしたりする。おっとりした性格に見える後輩は焼かれた猫の頭蓋骨を何か希少なものと勘違いしてはしゃぐ始末。ヒロインは、それをいつの間にか部屋に訪れなくなった猫のものかと訝ったりする。どうも解りませんな。
A・A・ミルン
「赤い館の秘密」(再)
★★★「プーさん」の作者らしく牧歌的な本格推理小説。黄金時代の傑作の一つとされている。こうして読み直すと、「赤毛のレドメイン家」や「ナイン・テイラーズ」など当時は人物トリックが流行っていたことが理解できる。今読むには黄金時代の本格推理は大体において退屈で、本作もその印象を必ずしも回避できないが、牧歌的なところが捨てがたい。
モーリス・ルブラン
「ルパンの告白」(再)
★★★★「怪盗紳士ルパン」に続く短編集で、9編を収録。小学生の時に読んではいるが憶えていなかった。ミステリー・ファンの間で評価の高い「赤い絹のスカーフ」(3年前に江戸川乱歩が選んだ名短編の一つとして「赤い絹の肩掛け」の邦題のものを読んだ)や暗号もの「太陽のたわむれ」など気の利いた佳品が多い。
「オルヌカン城の謎」
★★ルパン・シリーズには入っているが、ルパンは主人公にサジェストするだけの一場面に、それも回想で出て来るだけ。それ以上に気に入らないのは余りにドイツ憎しの愛国的冒険小説になりすぎていることだ。「813」と重なるところもあっても、ルパン・ファンにはお勧めできない。まあ以前から感じていたように、ルブランが大デュマ的な冒険サスペンスの作者と改めて確認できたことが収穫か。
瀬戸内 晴美(寂聴)
「かの子撩乱」
★★★★★伝記小説とされるが、実際には実在する人物は全て実名であるし、ノンフィクションに分類されるべきものである。瀬戸内の筆力もさることながら、戦前の女流作家の中では樋口一葉と並ぶ作家であろう岡本かの子その人の生き方が凄い。子供の頃から暴君で、後に漫画家(今の漫画ではない)として大成する岡本一平と結婚した後も男3人を従える様子が、彼女を評価することのなかった兄の友人・谷崎潤一郎の小説のようで、圧巻だ。彼女は肥えた様子同様に天真爛漫であるが、臆病と自信が同時に存在するような繊細な人でもあったらしい。最後の方になると涙が流れて仕方がなかった。悲劇的な人生というわけでもないものの、その芸術に捧げる姿が僕の胸を打ったのだ、
ボリス・ヴィアン
「うたかたの日々」
★★★映画「墓にツバをかけろ」の原作者ヴィアンの幻想恋愛小説。音楽が二人を包んだり、デューク・エリントンの音楽が部屋をゆがめたり、ハツカネズミと意思疎通したり。音楽好きの主人公が結婚した若妻の肺にスイレンが育ち、結局彼女は死んでしまうというお話。これが映画化されたというのだからオドロキ! あっと言う間に読めるし、退屈もしないが、ピンと来たと言えばウソとなる。
マリオ・プーヅォ
「ゴッドファーザー」
★★★★お馴染みの映画の原作。第2作のヴィトー・コルレオーネの若い時代までカバーされている。時代考証的に間違っているところが一ヶ所あり、主人公マイケルが復員した直後即ち1945年頃の挿話にジェームズ・ディーンの名前が出て来る。作者のうっかりですな。歌手で俳優のジョニー・フォンテインが戦争映画でアカデミー賞男優賞に候補になる辺りは「地上より永遠に」のフランク・シナトラを思わせたりもする。彼の出番が映画に比べて多いように、群像劇でもある。映画はそれをぐっとスリムにして作った感じだ。
H・P・ラヴクラフト
「ラヴクラフト全集4」
★★★創元推理文庫にて。星新一を知った中学生から高校時代にかけて豊田有恒や平井和正の短編小説集を好んで読んでいた僕はラヴクラフトにも注目したが、それから50年近くも放置した。先年ニコラス・ケイジ主演で映画化された「宇宙からの色」と、幻想文学系列では最重要らしいラヴクラフトの中ではかなり長い「狂気の山脈にて」を収めているのでこの中短編集を選んだ。科学をベースにした作品を集めたとあるように、SF的な作品群。宇宙絡みが多い。「宇宙からの色」は宇宙からの何物かの影響で一家が全滅し、周囲の村もおかしくなるというお話。「狂気の山脈にて」はエドガー・アラン・ポーとジュール・ヴェルヌを合体させたような感じで、恐怖の合間合間に、宇宙人が地球の生命に叡智を授けたと読めるような内容だが、冗長と思う。
綾辻 行人
「十角館の殺人」
★★★★東西ミステリーベスト100<日本編>で8位に選出されるなど評判が良く、図書館でもなかなか借りられなかった。社会派ミステリーへの批判は作者の本音であろうし、それを作品で有言実行している。映像化が難しい叙述トリックの作品であるが、現在日本テレビ系列でhulu制作版が放映中。「アクロイド殺人事件」の映像化では一番肝心の叙述トリックを無視していたのでさして面白くなかったが、本作hulu版はその部分を無視していない。「そして誰もいなくなった」と同じくクローズド・サークルの孤島もので、そこにトリックがある。一ヶ所ある人物の内心の叙述に嘘があるのが瑕疵。巧く隠すのは良いが嘘はダメである。「アガサと真夜中の殺人者」の映画評で書いたように、クローズド・サークルものはやや児戯的になりがちで、本作は児戯とは言わないものの、京極夏彦あたりのほうが大人の鑑賞眼に堪える感じがする。
野間 宏
「青年の環 第4巻:影の領域」
★★★★いよいよ佳境だろうか。出自と性病をネタに襲って来る田口を逆に田口の出自をもって追い詰めたと感じていたところ大いに逆襲されて動揺する大道出泉(だいどう・いずみ)と、田口の出身かも知れない部落の福利厚生に奮闘する一方特高警察に怯える共産主義者・矢花正行の心理を、対位法的に綴る。文庫本にすれば恐らく4000ページを超えようとする大作にして扱う期間はごく限られているという、まるで「失われた時を求めて」の如くスローな展開だが、心理サスペンスとして読めるので、これがなかなか面白い。
冲方 丁
「天地明察」
★★★江戸時代前半に日本の暦を大いに進展させた渋谷春海(安井算哲)の伝記小説。映画版を観て興味を覚えて10年越しの願望を果たして読んでみた。映画以上に感銘的だが、映画を観て凡その流れを知っていた為に損をした。映画よりわが群馬(上州)由来の数学の天才関孝和が重要なように感じられる。本作での春海は二人の細君を持ち、後妻えんは影響を与えた重要人物ながら、ウィキペディアを読むと配偶者については全く解っていないということなので、作者の創作なのだろう。
ハ・ジン
「待ち暮らし」
★★★★★文化大革命時代から80年代の解放時代までを舞台に、軍の医療関係者が離れて暮らす妻と近くにいる愛人との関係を巡って心を揺らす。封建主義的な考えが男も女も悩ませることは伺えるが、作者はそれ自体を批判するというより、個人の心情にのみ関心を傾ける。チェーホフ的な切なさが滲み出る。幕切れの “あの声ならまだ生きられる” という、18年も待って妻に迎えた元愛人に対する主人公の感慨は “また待たされる” という思いが感じられ、両義的。この辺りの捌き方もチェーホフっぽい。
この記事へのコメント
>ボリス・ヴィアン「うたかたの日々」
これは、マンガ化されていて、岡崎京子『うたかたの日々』というがあって、
このマンガがよかったですよ。
原作も読んでないし、映画も観ていないですけれども、岡崎京子のマンガで記憶に残っています。
本当は昨年もっとコメントしたかったのですが、私生活が忙しいと全く心に余裕がなくなってしまう私です。
これからも少しずつコメントしたいので、今年もよろしくお願い致します。
「姑獲鳥の夏」に続いて「魍魎の匣」の高評価も嬉しいです。
次作「狂骨の夢」は初期五作の中では、やや影の薄さはあるものの、やはり良質で面白い作品ですので、感想を楽しみにしています。
私は綾辻行人は「十角館の殺人」のみ読みました。
まさに「そして誰もいなくなった」の叙述トリック版という感じですね。
この作品が神格化された結果、その後のミステリーに叙述トリックが多くなったような気がします。
映像化がどうなってるのか気になりますね。
さてご挨拶もそこそこに本題に移らせていただきますが、
>ボリス・ビアン 「うたかたの日々」
これ50年ほど前に話題になった本ですが、今頃になって一体どこからオカピー先生の俎上に上がってきたのでしょう?
私は当時、「日々の泡」という邦題で読みました。何故に2つの邦題があるのか?
多分出版社が違うから? (当たり前) 「日々の泡」は新潮社だったかな…いや白水社かな?
流行り物に手を出したけど、仰る通りピンと来ないお話でした。
ボリス・ビアンは確かトランペットを吹いていて、映画にも出た事があったとか… 古い話ですが。
綾辻行人
えぇ!? 星4つも進呈ですか? あたしゃてっきり綾辻行人が桂高校か京大ミス研時代に書いた習作かと思いましたよ。実際そうなのかな? 知らんけど…
これが初綾辻でしたが、とにかく気恥ずかしくて何度も本を投げ捨てそうになったもんです。
でもAmazonでも評判良いですしオカピー先生も評価されているから私が偏屈婆婆なのでしょうね。
この気恥ずかしいという感覚は他でも感じた事があって、それは自分では絶対に手に取らない日本の作家によるハードボイルド小説を読んだ時の感じと似ていますね。
ハードボイルドの方が大人ぶっているだけタチが悪いけど ^^
名指ししてしまえば藤原伊織とか原遼とか、お義理で各1冊づつしか読んでいないのにこんな事を言うとファンの方々から怒られそうですね。先に謝っておきます。
すいません 🙇
日本のハードボイルド小説って男性向けハーレクイーンロマンスな感じがします。
そう思えば、どうって事はないか…
ハ・ジン 「待ち暮らし」
この高評価は嬉しいです。地味だけど深いものがありますよね。
母が晩年によく「あんたなぁ、先に何かえぇことあるなんて思ったらあかんで」
と言っていた言葉が身に沁みる今日この頃です。
京極堂作品は出た当時に読んでいて、うんちくが多いけど面白かったと思います。読み直してもいいかな…。
綾辻氏の館シリーズも、最近「人形館~」までは来ています。
近年は、かたくなに、年36冊です。
(ちなみに映画は年120本ですが、昨年は映画館観賞が10本になってしまいました…)
>マンガ化されていて、岡崎京子『うたかたの日々』というがあって
へぇ、コミックにもなっていたですか。
ビックリしました。
>これからも少しずつコメントしたいので、今年もよろしくお願い致します。
出来る時で結構ですよ。よろしくお願いいたします。
>「魍魎の匣」の高評価も嬉しいです。
文句なしに面白いですからね。
>次作「狂骨の夢」
僕も読むのが楽しみです。
次の号には出せるでしょう。
>私は綾辻行人は「十角館の殺人」のみ読みました。
>映像化がどうなってるのか気になりますね。
2話まで観ました。全部観たら一応映画評を書いてみます。
>>ボリス・ビアン 「うたかたの日々」
>今頃になって一体どこからオカピー先生の俎上に上がってきたのでしょう?
1001冊とか何とかというのに紹介されていました。「墓にツバをかけろ」という映画を知っていたので、環境が湧いたという次第。
>「日々の泡」は新潮社だったかな…いや白水社かな?
新潮社らしいです。
>ボリス・ビアンは確かトランペットを吹いていて、映画にも出た事があったとか… 古い話ですが。
確かに後書きにそんなことが書かれていました。
>綾辻行人
>えぇ!? 星4つも進呈ですか?
>私が偏屈婆婆なのでしょうね。
その気持ちは解らなくもないんですよ。
図書館ではYAのところにも配置されていますし、
珍しく世間にちょっと忖度したかも(笑)
>日本のハードボイルド小説って男性向けハーレクイーンロマンスな感じがします。
僕も大藪春彦を一冊読んだことがあるくらいで、日本のハードボイルド小説は殆ど読んだことしかありませんが、凡そ想像できますね。
>京極堂作品は出た当時に読んでいて、うんちくが多いけど面白かったと思います。読み直してもいいかな…。
面白いですよ。
小栗虫太郎や江戸川乱歩もありますが、ヴァン・ダインとエラリー・クイーンを足したような感じもあります。
>綾辻氏の館シリーズも、最近「人形館~」までは来ています。
トリックは良いですが、YA向きかという印象もあります。
>昨年は映画館観賞が10本になってしまいました…
僕は2020年代になってからゼロですよ^^;
マリオ・プーヅォ 「ゴッド・ファーザー」
「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」という実話ものドラマはご覧になりましたか? ドラマはあまり観ておられないように思うのですが…
全10話くらいあるので、普通の映画を観ている時間がなくなりますもんね。
これ、面白かったですよ。今でもどこかでみられ
(iPadは便利なんだけどミスタッチが多くて…)
なにを書こうとしていたんでしたっけ?
そうそう、野望だけは人並み以上に持っている新米プロデューサー、アルバート・ラディをメインに原作者、コッポラ、その他諸々の崖っぷち寸前の関係者が映画を完成させていく、ある意味で「ゴッドファーザー」より面白いかもしれない(私はそう思いましたね)お話でした。馬の頭を調達してくる場面もありました。
純文学?にこだわる原作者のマリオのおっちゃんは本が売れなくて借金やらなんやらで崖っぷちなんですが、前作の本の中のギャングが登場する章だけが評判がいいので全編マフィアで書くように出版社から迫られて半ば嫌々書くんですよね。
ところがこれが当たると昔の志は忘れて、イケイケドンドンになるのですがマフィアから脅迫されたんだったかな?
ちょっと忘れましたが、とにかく面白かったので機会があれば是非どうぞ!
>マリオ・プーヅォ 「ゴッド・ファーザー」
>「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」という実話ものドラマはご覧になりましたか?
正に図星で、1日1本をアップするとなると、TVシリーズはなかなかカヴァーできないわけで、ご想像通り、観ておりません。
>iPadは便利なんだけどミスタッチが多くて…
iPad 使用者ですか。
最近は電気代節約も兼ねて、配信で観ることが増えました。時間短縮の為に朝食しながら観たりするのですが、パソコンで観られるまでにかなり時間がかかるので、タブレットを買おうかとも考えている次第。
パソコンよりさらに画面が小さいのが難点ですが、大型画面ならそこそこですかね。
ウィンドウズ10がサポートが本年10月に終わるので、秋までにパソコンを買わないといけないようですし、出費が多くなりますが。
>純文学?にこだわる原作者のマリオのおっちゃんは本が売れなくて借金やらなんやらで崖っぷち
後書きの解説にその辺りのプーヅォの立場について書かれていましたよ。
面白そうなので、頭にメモしておきます(大分脳が衰えたので余り当てになりませんが)。
配信は今のところUNEXTかアマプラ+パラマウントだけのようです。
UNEXTは頑張ってますよ。イーストウッドの最新作「陪審員2番」も日本では劇場公開なしですが、UNEXTで独占放映していて早速観ましたが良かったですよ。
たまにエクセルとワードを使うのでノートパソコンも一応持ってますけど、ipadはお手軽でいいですね。ただ文字入力は別にキーボードを付けた方が使いやすいかもしれませんね。結構高いので私は使っていませんが。
私は映画は極力プロジェクターで配信を観るようにしています。(真面目にちゃんと向き合って観る為)
編み物しながら流し見したり、ちょっとだけ見る時はテレビで見てますね。
あまりお手軽に見られるとついお菓子やお茶やとウロウロしてしまうのです。
>「ジ オファー」
>配信は今のところUNEXTかアマプラ+パラマウントだけのようです。
懐具合の関係で、ちと厳しいかな?
>UNEXTは頑張ってますよ。
>イーストウッドの最新作「陪審員2番」も日本では劇場公開なし
ありゃりゃ。
すると、WOWOWには出てこないか?
>私は映画は極力プロジェクターで配信を観るようにしています。
それは偉いです。
オーディオ評論家の故長岡鉄男先生が、感動は画面の比率の平方根にほぼ比例すると言っていましたが、とにかく大きい方が良いのは確か。
財政上の問題でプロジェクターは買えません(大昔のものはありますが、多分もう使えない)。
ポール・オースターの「幽霊たち」を、新潮文庫で読みましたが、なんとも不思議な小説でした。
登場人物の名前はすべて「ブラック」「ブルー」「ホワイト」など、色の名前ばかりなのですが、作品自体は全くの無彩色。
そして、全ての物の存在感がとても希薄です。
人の名前も物の名前も、結局は単なる記号にしかすぎないということなのでしょうね。
そして、一旦記号になってしまうと、自分と他人の境界線もとても曖昧になってしまいます。
見ているブルーと見られているブラックの位置は、実はふとした拍子に反転し得るもの。
ブルーはブルー自身ではあるけれど、同時にブラックであり、ホワイトであり、ブラウンであり-------。
他の人間を見張っていると思い込んでいながら、実は窓に映る自分を見張っていただけなのかもしれません。
私立探偵は登場するのですが、期待されるような事件は特に何も起きず、過去に起きた事件や出来事の話ばかり。
まるで、抽象画を見ているような気分にさせられる作品です。
この雰囲気は確かどこかで読んでいると思っていたら、訳者の柴田元幸氏の後書きに「オースターは、カフカ、ベケット、安部公房といった作家たちと比較されてきた」という文章があり納得しました。
まさに、その雰囲気の小説でした。
>ポール・オースターの「幽霊たち」を、新潮文庫で読みましたが、なんとも不思議な小説でした。
>人の名前も物の名前も、結局は単なる記号にしかすぎないということなのでしょうね。
話が進むに連れて、存在が消えていく。
だからこその、実存主義的な小説なのだと思います。
他の2編、それも順番通りに読むと余計に面白いと思いますよ。