映画評「人生の乞食」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1928年アメリカ映画 監督ウィリアム・A・ウェルマン
ネタバレあり

一昨日に続いて YouTube の Genjitsu films チャンネルでの鑑賞。

サイレント期に良いものが多いウィリアム・A・ウェルマンの傑作で、半世紀後の「北国の帝王」や「明日に処刑を・・・」と比べてみたくなるホーボー(渡り鳥労働者、貨物列車で無賃で移動することが多い)映画の傑作である。既にトーキーもちらほら出て来たサイレント末期の作品。

カナダの親戚の家に無賃乗車で行こうとしているホーボーのリチャード・アーレンが、食べ物に釣られて一軒家に入ってみる。窓越しに料理の目の前にいる人に声を掛けても返事がなかったからだが、近づいてみると射殺されている。びっくりするうちに男装の麗人ルイーズ・ブルックスが階段を降りて来る。
 彼は、このままでは逮捕されると、養女で犯人である彼女を誘って無賃乗車の旅を続けるが、彼女は慣れないものでなかなか上手く行かない。

この序盤のカットの繋ぎの呼吸が断然良い。 Allcinema に同じようなコメントがあるが、僕も全くこの映画の序盤から前半はそのままトーキー映画になる感覚と感じて観ていた。
 平原の束ねられた乾草の中に入って一夜を明かすところ辺りまではこの調子で進むものの、ウォーレス・ビアリー率いるホーボー集団のボスが絡んでからは調子が変わり、サイレント映画らしい大仰な展開になる。

ビアリーは少年と思っていたルイーズが美少女と知るや悪い考えを起こすが、官憲に追われる二人が愛し合っているのに気付くと善心を蘇らせ(この辺り先日の「砂漠の生霊」に似ている)、死んだ仲間をルイーズと見せかける陽動作戦を取り、貨車に火を放って連結器を外すも官憲の銃に倒れる。
 かくして恋する二人は危機を脱してカナダ国境に向かう。

こういう男気は型通りであったり作り物めいていても、基本はミーハーである僕など単純に感動してしまう。ビアリー御大、よくやったってなもんである。

ルイーズの男装からビアリーが用意した女装への落差もインパクトがある。女装と言っても色々あるだろうに、今流行りのギャルが着るような妖精のようなもので、眼鏡をしていた大美人が眼鏡を外した時以上の、ちょっとフェティッシュ感さえ漂う落差で、思わず苦笑いした。
 ルイーズは「パンドラの箱」と同じくボブカット(断髪)で登場し、断然たる魅力を発揮する。ウェルマンのタッチも素晴らしいが、彼女の貢献が大きいと思う。

字幕に、当時のメジャー映画では必ずコメディリリーフになる黒人の喋りとして gwine という単語が出て来た。これは going の南部訛りである。

乞食は放送上は問題がある言葉だろうが、パソコンで素直に出てきます。

この記事へのコメント

かずき
2024年10月06日 16:03
オカピーさん、こんにちは。

上に挙げられた作品は私は未見のものが多いんですが、なるほど、本作がいわゆるホーボー映画のご先祖様といったところでしょうか。
これは他の作品も観て比較してみたいです。

この映画は特に前半が好きでしたね。
オカピーさんも挙げている場面など、まさに流れるような美しさで、映像が物語っていました。
まさにサイレント末期の傑作と言えますね。
後半はビアリーが実質の主人公になりますが、彼の活躍ぶりとサスペンスも大いに楽しみました。

双葉先生の評を読むと、ルイーズ・ブルックスの男装を絶賛されてますね。
私も彼女の男装姿の虜になりました。
オカピー
2024年10月06日 22:02
かずきさん、こんにちは。

>本作がいわゆるホーボー映画のご先祖様といったところでしょうか。

これより前にもある程度大きく扱う作品もあったでしょうが、主題にしたのは初めてかもしれませんね。

>この映画は特に前半が好きでしたね。

僕を含めて、そう仰る方が多い。

>後半はビアリーが実質の主人公になりますが、彼の活躍ぶりとサスペンスも大いに楽しみました。

こういう設定は、アメリカ映画の模倣が多い、日活アクションがやっていそうですねえ。ホーボーはちょっと無理でも違う形で。
貨物列車から宍戸錠が降りて来るところから始まる映画もあります。

>双葉先生の評を読むと、ルイーズ・ブルックスの男装を絶賛されてますね。

多分18歳か19歳でこの映画を観ている筈ですが、それはうっとりしたでしょうねえ。