映画評「激流」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1994年アメリカ映画 監督カーティス・ハンスン
ネタバレあり

映画を見始めて50年以上になるが、今年くらいアメリカ映画を観ていない年はない。そこで再鑑賞の旧作でも良いからと、本作を選んだ。

夏休みの季節。仕事男の夫デーヴィッド・ストラザーンを置いて、元川下りガイドの主婦メリル・ストリープが息子ジョゼフ・マッゼロと娘を連れて山岳地帯の故郷に帰り、幼い娘を両親に預けて、息子と二人で急流を下る冒険をするつもりでいる。
 そこに夫が突然現れて三人となる一方、調子の良い若者ケヴィン・ベーコンら3人が現れ、競争をするかのように別々に出発する。
 ところが、翌日姿を現した時若者のグループは二人になってい、かつ、行動を共にしようとしてくる為どうも気持ち悪くなった夫婦は二人をまこうと計画を立てるが、ジョゼフ君がベーコンに親しんでしまった為に上手く行かない。
 まかれようとしたことに腹を立てた二人は強盗犯の顔を露骨に表し、彼らだけでは下れない急流をこなす為にメリルが必要、ストラザーンと犬を排除し、息子を人質に4人の急流下りが始まる。

大体こんなお話で、当時少なくなっていた極めて直線的な展開が良い。

半年前に観た「野性の叫び」(1935年)に似た構図で、あの映画でも黄金を運ぶために急流を下ろうと女性に頼る。あの映画にも犬が出て来る。着想源にした可能性あり。
 「西部開拓史」など西部劇に割合よく出て来る急流下りだが、現代劇では「脱出」(1972年)が決定的な作品で、「野性の叫び」と「脱出」を合わせると大体この作品の内容になる。

映画がつまらなくなった理由は幾つかあるが、一つはCGの普及である。CGが普及した為に昔は貴重であった宇宙人襲来ものがありふれたものになったのはその典型で、何でも作れると言う反面、実際のところジャンル映画の幅が狭くなっていった。
 その点本作は、大昔のスクリーンプロセスとも、現在のCGとも違う本物の急流下りが楽しめる。勿論危険なところはスタントが出ているはずだが、メリルは多くの場面をこなしたらしい。

型通りのお話と言えばそれまでだが、何度も言うように、結末が見えているのは必ずしも悪いことではない。家族がどう乗り切るか、その過程をたっぷり見せれば良いわけである。単なる新味のために悪党が勝って後味の悪さを味わうくらいなら、家族側の勝利を前提にどう彼らがピンチを凌ぐか見る方が精神衛生上も良い。

この映画のストラザーンは、「わらの犬」(1971年)のダスティン・ホフマンに似て、インテリ文科系の弱っちい男が家族を守る為に体育会系もびっくりの闘う男に変身するというところに面白味がある。崩壊寸前の夫婦(家族)がこの事件を一致協力して乗り切り、寄りを戻すというのもジャンル映画である本作では良いだろう。

夫婦生活は激流に似たり、という映画でもありません。いや、そうかな?

この記事へのコメント

mirage
2024年11月13日 17:09
こんにちは、オカピーさん。

この映画「激流」は、ほぼ全編が本物の川でロケーション撮影されたということだ。
本当にどうやって撮影したんだろうと思ってしまうような迫力あるシーンの連続。

荒々しい水しぶき。全てを飲み込むかのように襲いかかる激流。
ダイナミックな自然描写に目を瞠るばかり。

激流を下るシーンの迫力とメリル・ストリープの頑張りに度肝を抜かれてしまいます。

メリル・ストリープ扮するゲイルは、元急流の川下りのガイドをしていた、川下りの名人という設定ですが、それにしても逞しい。

仕事一筋の夫との仲は冷え切っていて、息子のロークは父のことをよく思っていない。
ロークの誕生祝いに川下りにやってきたものの、夫との関係は修復しがたく。
そんな伏線を、後半上手く生かしているのも実にいいんですね。

頼るべき存在であるはずの夫は頼りにならず、幼い息子と2人で本性を現した、ケヴィン・ベーコンらの悪漢に立ち向かうゲイル。

とにかくメリル・ストリープが、往年の透明感溢れる美しさはどこへやら、太い腕を剥き出しにして、「エイリアン」のリプリーに引けを取らない活躍で頑張る、頑張る。ほんとに、恐れ入りますの一言。

不敵な面構えのウェイドを、主役を食ってしまう程の存在感を身に付けたケヴィン・ベーコンが演じて、これまた憎らしいくらい、うまく演じている。

息子役の少年も可愛いし、巧い。「ジュラシック・パーク」でティムを演じた子。
夫であるトムが、少し影が薄いのが、少し残念な気がします。

演じるデヴィッド・ストラザーンは、オールマイティな役者で、作品ごとにガラッとイメージが変わる役柄の幅が広い俳優。
もう少し活躍の場があっても良かったのではないかと思いますね。

激流下りという本筋に、アメリカ映画お決まりの夫婦の崩壊というテーマも描かれているわけですが、本筋にうまく練りこまれていて、サスペンス要素を盛り上げていて実に素晴らしい。

惜しむらくは、心理的なやり取りがもう少し描かれていれば、夫の存在も生きてきて、より一層、この映画に深みが増したのではないかと思いますね。
オカピー
2024年11月13日 21:09
mirageさん、こんにちは。

>惜しむらくは、心理的なやり取りがもう少し描かれていれば

確かにそういう面もありますが、一方で、サイレント時代の連続活劇の現代版みたいな目的もあったという気もしますね。