映画評「ビヨンド・ユートピア 脱北」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2023年アメリカ=イギリス合作映画 監督マドレーヌ・ギャヴィン
ネタバレあり
3年近く前に「トゥルーノース」という北朝鮮の実態をテーマにした日本製アニメ映画を観たが、このドキュメンタリーは、なかなかよく出来たあのアニメ映画をいとも簡単に凌駕してしまっている。逆に、ドキュメンタリーには劇映画ほど芸術的な角度から感心することがなかなか出来ない。毎年のベスト10選出で劇映画とドキュメンタリーを同列に扱わないのはその為である。
本作には、3つのエレメントがあり、その中心となるのが、二人の幼い女児(上が7歳くらい、下が3~4歳)と80歳の祖母を含む脱北夫婦の5人家族が中国を出た直後から、支援者のキム牧師の絶大なる庇護の下、ベトナム、ラオスという親中国の共産主義(を目指す)国を経て、資本主義国タイに逃げるまでを綴るエレメント。
サスペンス映画のようにシーンやカットの配置でヒヤヒヤドキドキさせられるわけではないが、ラオスの山を抜ける箇所で手に汗を握らせた後、牧師がメコン川を渡る際に気を付けることを説明するのを聞くだけでドキドキしてしまう。ドラマ映画では説明だけでドキドキさせることはできない。
これが緩急の急を構成する部分なら、今では綺麗な化粧もして北朝鮮の現実を語る若い女性イ・ヒョンソさんの部分が緩である。人糞をめぐる余りにも惨めな現実に言葉を失う。
その中間を成すのが、脱北したものの息子が北朝鮮に帰ってしまい、その後を心配する中年婦人イ・ソヨンさんのエピソードだ。子を持つ親の心情はどこの国においても変わらない。
上の一家の下の娘が関係者と別れて暫く泣いているのも同じような人情を感じて感動させられる。
あのようにひどい国であっても、自由さえ認められるなら、帰国したいのがここに出て来る人々の共通する思いだ。これにもまたジーンとさせるものがある。出演者のどなたかが仰る【北朝鮮は広い収容所】という表現は言い得て妙。
恐らくキム牧師の携帯電話が頻繁に鳴る(救援要請など)ことに関し、餓死がある国でどうしてスマホを持っているの?という疑問を呈する人がいるが、その発信源は中国だろう。恐らく別の支援者からの相談や救援要請ではないかと思う。キム牧師はお尋ね者なので中国では活動できないのだ。
日本にも色々足りないところがあるが、北朝鮮に比べれば天国である。しかし、それに満足してはいけない。国民は国にもっと文句を言うべし。
2023年アメリカ=イギリス合作映画 監督マドレーヌ・ギャヴィン
ネタバレあり
3年近く前に「トゥルーノース」という北朝鮮の実態をテーマにした日本製アニメ映画を観たが、このドキュメンタリーは、なかなかよく出来たあのアニメ映画をいとも簡単に凌駕してしまっている。逆に、ドキュメンタリーには劇映画ほど芸術的な角度から感心することがなかなか出来ない。毎年のベスト10選出で劇映画とドキュメンタリーを同列に扱わないのはその為である。
本作には、3つのエレメントがあり、その中心となるのが、二人の幼い女児(上が7歳くらい、下が3~4歳)と80歳の祖母を含む脱北夫婦の5人家族が中国を出た直後から、支援者のキム牧師の絶大なる庇護の下、ベトナム、ラオスという親中国の共産主義(を目指す)国を経て、資本主義国タイに逃げるまでを綴るエレメント。
サスペンス映画のようにシーンやカットの配置でヒヤヒヤドキドキさせられるわけではないが、ラオスの山を抜ける箇所で手に汗を握らせた後、牧師がメコン川を渡る際に気を付けることを説明するのを聞くだけでドキドキしてしまう。ドラマ映画では説明だけでドキドキさせることはできない。
これが緩急の急を構成する部分なら、今では綺麗な化粧もして北朝鮮の現実を語る若い女性イ・ヒョンソさんの部分が緩である。人糞をめぐる余りにも惨めな現実に言葉を失う。
その中間を成すのが、脱北したものの息子が北朝鮮に帰ってしまい、その後を心配する中年婦人イ・ソヨンさんのエピソードだ。子を持つ親の心情はどこの国においても変わらない。
上の一家の下の娘が関係者と別れて暫く泣いているのも同じような人情を感じて感動させられる。
あのようにひどい国であっても、自由さえ認められるなら、帰国したいのがここに出て来る人々の共通する思いだ。これにもまたジーンとさせるものがある。出演者のどなたかが仰る【北朝鮮は広い収容所】という表現は言い得て妙。
恐らくキム牧師の携帯電話が頻繁に鳴る(救援要請など)ことに関し、餓死がある国でどうしてスマホを持っているの?という疑問を呈する人がいるが、その発信源は中国だろう。恐らく別の支援者からの相談や救援要請ではないかと思う。キム牧師はお尋ね者なので中国では活動できないのだ。
日本にも色々足りないところがあるが、北朝鮮に比べれば天国である。しかし、それに満足してはいけない。国民は国にもっと文句を言うべし。
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