映画評「隣人X 疑惑の彼女」
☆☆★(5点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・熊澤尚人
ネタバレあり
解りやすすぎる風刺劇。
宇宙人が最初に接触した人間にそっくりになって、人間として生活しているSF的な設定である。本格的なSFに「盗まれた街」(「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」等何度か映画化されている)という似た設定の作品があるが、本作は接触された人間がどうなるか全く解らず、SF(原作はパリュスあや子の小説)として理解すれば全くなっていない。
雑誌記者の林遣都が、レストランなど掛け持ちで仕事をする30代の女性・上野樹里が宇宙人Xなのではないかと上司からの指示により追う。もう一人の監視対象である台湾女性ファン・ペイチャも同じ店で働いてい、益々妙である。
彼が思い切って声をかけたことから交際が始まるが、彼の彼女の一家をめぐる投稿が捏造されて週刊誌に発表された結果、一家の父親・酒向芳がXそのものと決めつけられてしまう。が、周囲の騒ぎに我慢できなくなった父親が、自分の正体はともかく(肯定したわけではない)娘は妻の連れ子で血液関係がない、と告げて騒ぎは終息する。彼女はショックを受けて閉じこもり、林とも断絶する(ロマンスとしてはこれで確定ではない)。
というお話で、DNA云々という説明もあったのにそれを調べる様子も出てこないなど、科学的にはテキトーも良いところ。
僕はかなり早い段階でこれは民族・人種差別の寓話として見てい、最後まで観てもそれ以外の目的は考えられない。その志は良いとして、SF的にちゃんとしていないので、全く説得力を欠いている。小説は知らないが、映画版を観る限りおざなりにすぎる。
以下、本作に直接関係ないので、読み飛ばして良いです。
差別で思い出すこと。
マイナカード推進の理由に政治家はデジタル化の推進(主に病歴の明確化)をあげている一方、政治家を含めて極右の中には年間何百万件も紙の保険証を権利の無い人が悪用しているので、日本人の保険税が無駄しない為と言う人がある。彼らは何百万件と言うが、厚労省が把握しているのは年間数件である。これはこれで少なすぎると思うが、僕がこの説でひっかかるのは、それをやっているのが全て外国人であるかのような表現である。外国人が出来るくらいなら日本人の方がやりやすいだろう。
外国人の凶悪犯罪率の高さも大嘘で、警察の発表によれば全犯罪に占める凶悪犯罪率は外国人のほうが実は低い。
本作のような映画を観ると、この手のデタラメな言論を想起する。こういう排外主義の考えこそ日本をどんどん弱体化させる原因の一つなのだが、自分では日本を守っていると信じている。欧米でも同じような考えの人が増え極右政党の台頭を招いているが、それは移民の絶対数が物凄く、実害が出ているせいもあって、同じようには語りにくいところがある。
差別はダメとする僕でも(だからこそ?)、ポリ・コレが映画に与えている悪影響はずっと指摘していかなければならない。【イスラエル批判=反ユダヤ主義】という誤った理屈と同じく、ポリ・コレ映画批判を右翼的と考える人がいるが全然違う。映画は画面において嘘をついてはいけないということを言っているだけである(少なくとも僕は)。例えば、善人と思われていた人が凶悪犯と最後に判明するミステリーがあるとする。その映画が、その“善人”が一人でいる時に全くそれらしき様子を映さないとしたら、これが嘘に当たる。
2023年日本映画 監督・熊澤尚人
ネタバレあり
解りやすすぎる風刺劇。
宇宙人が最初に接触した人間にそっくりになって、人間として生活しているSF的な設定である。本格的なSFに「盗まれた街」(「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」等何度か映画化されている)という似た設定の作品があるが、本作は接触された人間がどうなるか全く解らず、SF(原作はパリュスあや子の小説)として理解すれば全くなっていない。
雑誌記者の林遣都が、レストランなど掛け持ちで仕事をする30代の女性・上野樹里が宇宙人Xなのではないかと上司からの指示により追う。もう一人の監視対象である台湾女性ファン・ペイチャも同じ店で働いてい、益々妙である。
彼が思い切って声をかけたことから交際が始まるが、彼の彼女の一家をめぐる投稿が捏造されて週刊誌に発表された結果、一家の父親・酒向芳がXそのものと決めつけられてしまう。が、周囲の騒ぎに我慢できなくなった父親が、自分の正体はともかく(肯定したわけではない)娘は妻の連れ子で血液関係がない、と告げて騒ぎは終息する。彼女はショックを受けて閉じこもり、林とも断絶する(ロマンスとしてはこれで確定ではない)。
というお話で、DNA云々という説明もあったのにそれを調べる様子も出てこないなど、科学的にはテキトーも良いところ。
僕はかなり早い段階でこれは民族・人種差別の寓話として見てい、最後まで観てもそれ以外の目的は考えられない。その志は良いとして、SF的にちゃんとしていないので、全く説得力を欠いている。小説は知らないが、映画版を観る限りおざなりにすぎる。
以下、本作に直接関係ないので、読み飛ばして良いです。
差別で思い出すこと。
マイナカード推進の理由に政治家はデジタル化の推進(主に病歴の明確化)をあげている一方、政治家を含めて極右の中には年間何百万件も紙の保険証を権利の無い人が悪用しているので、日本人の保険税が無駄しない為と言う人がある。彼らは何百万件と言うが、厚労省が把握しているのは年間数件である。これはこれで少なすぎると思うが、僕がこの説でひっかかるのは、それをやっているのが全て外国人であるかのような表現である。外国人が出来るくらいなら日本人の方がやりやすいだろう。
外国人の凶悪犯罪率の高さも大嘘で、警察の発表によれば全犯罪に占める凶悪犯罪率は外国人のほうが実は低い。
本作のような映画を観ると、この手のデタラメな言論を想起する。こういう排外主義の考えこそ日本をどんどん弱体化させる原因の一つなのだが、自分では日本を守っていると信じている。欧米でも同じような考えの人が増え極右政党の台頭を招いているが、それは移民の絶対数が物凄く、実害が出ているせいもあって、同じようには語りにくいところがある。
差別はダメとする僕でも(だからこそ?)、ポリ・コレが映画に与えている悪影響はずっと指摘していかなければならない。【イスラエル批判=反ユダヤ主義】という誤った理屈と同じく、ポリ・コレ映画批判を右翼的と考える人がいるが全然違う。映画は画面において嘘をついてはいけないということを言っているだけである(少なくとも僕は)。例えば、善人と思われていた人が凶悪犯と最後に判明するミステリーがあるとする。その映画が、その“善人”が一人でいる時に全くそれらしき様子を映さないとしたら、これが嘘に当たる。
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