映画評「碁盤斬り」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・白石和彌
ネタバレあり

落語人情噺を基に作られた正統派時代劇。現代劇のイメージが強い白石和彌が監督を務めるが、おちゃらけた演出はしないタイプなので、全く問題ない。

妙齢の娘お絹(清原果耶)と長屋で二人暮らしをしている浪人・柳田格之進(草彅剛)が、囲碁を通して、けち兵衛と仇名で呼ばれる商人萬屋源兵衛(国村隼)と親交を深める。格之進の生き方に影響されて源兵衛はまっとうすぎる商人となる。
 月見に呼ばれた格之進が源兵衛と碁を打っている時、借金の返済があり、源兵衛はそれを番頭から受け取る。が、翌日受け取った五十両が消えてなくなる。格之進はあらぬ疑いをかけられるが、同じ頃かつての藩の部下・左門(奥野瑛太)が現れ、彼のライバルであった柴田兵庫(斎藤工)が細君を自殺に追い込んだこと、現在中山道で賭け碁をしていることを知らされる。
 お絹が吉原に身を沈める覚悟で知人の大店女将お庚(小泉今日子)から借りた五十両を萬屋の弥吉(中川大志)に帰す際に、復讐を誓う格之進は五十両が出てきた場合には彼と萬屋の首を申し受けると宣言して、左門と旅立つ。中山道を巡るうちに当の兵庫は大晦日江戸で行われる賭け碁に参加すると知り、慌てて駆けつける。大晦日はお庚への五十両の返済期限で、これを過ぎるとお絹は女郎にならなければならない。

人情噺にサスペンスはつきもので、本作には二つのサスペンスの軸がある。一つは五十両の行方自体が織り成すサスペンス、一つは敵討ち(これが成功しないことにはお話にならないので敢えてサスペンスとは言わずにおく)の本懐を遂げた後刻限通りに五十両をお庚を返せるかどうかというタイムリミット・サスペンスである。
 しかし、困ったことにタイトルから最初のサスペンスの落ちは容易に予想される。二番目のお庚の強い発言も格之進の退路を断つ為のものだろうと想像されるので、それほどサスペンスフルではない。
 それではつまらないのだろうか?と問われるとそんなことはない。予想通りに進むからつまらないのでは映画人の名がすたる。一流の映画人はその条件下で極力上手く楽しませなければならない。いつも上手く行くわけではないにしても、本作などは白石監督らしい馬力に楽しんでしまう感がある。

画面は美術を含めて概ねがっちりしているが、馬力に貢献しているライティングにやり過ぎのところがある。

人情噺の底流にあり、案外肝にさえとなっているかもしれないのは、法的な正しさ・道徳的な正しさと人情的な正しさとの対立だ。現代劇では法的正義と道徳的正義とが対立するが、時代劇では法的と道徳的正義はほぼイコールであって、それが人情と対立する。敵討ちを進めるうちに法に忠実だった主人公は人情的な正しさに傾倒していくのである。人情噺たる所以はここにもある。

草彅剛の演技は、時に声が弱くなってしまうところがあるものの、風格を感じさせる。中川大志は、演技以前に、人物の性格設計が曖昧すぎてお気の毒。

碁ではなく、野球の対決ではワールド・シリーズが日本シリーズより話題になっている。大谷効果の為だ。日本では昨年のWBC優勝と大谷が野球人気を呼んでいる。一時的かもしれないが、野球を志す子供が増えるだろう。11月に侍ジャパンが参加するプレミア12がある。日本は投手が良いが、実力は紙一重。勝ち抜くのは結構大変だろう。もう1か月ほど野球が楽しめる。

この記事へのコメント